フィーバータイムと地面の下?
「そろそろ次が出るぞ。せっかくだから一面クリアーするまで頑張ろうぜ」
ギイがそう言いながら、大きな木を見上げている。
今俺達が立っているこの場所が、ヘラクレスオオカブトの出現場所の真ん前な訳だ。
「次は誰がやるんだ?」
同じく見上げながらそう言うと、背後から声が聞こえた。
「それじゃあ皆さんはここで狩りをしてください。私達は、向こうへ行きますね!」
姿を現したベリーとフランマが、嬉々としてそう言うと、少し離れた所にある同じくらい大きな木に走っていく。
オンハルトの爺さんは、ここは参加しないつもりようで、少し離れた場所に椅子なんか出して、すっかり寛ぎモードになってる。
マックス達は、俺達の後ろで、並んでつまらなさそうに座っている。
「あれ、お前達は参加しないのか?」
振り返ってそう尋ねると、マックスが尻尾をバンバン叩きつけながら答えてくれた。
「見た所、ヘラクレスオオカブトの出現する木は二本だけのようなんですよ。少しは、私達にも残しておいてください、ご主人!」
不平感満載のその答えに、思わず右肩に座ってるシャムエル様を見る。
「まあ、詳しくは企業秘密だけど、ジェムモンスターの出現率や出現数もある程度設定してあってね。例えば絶対王者と呼ばれるティラノサウルスや、このヘラクレスオオカブト。まあ他にもいくつかあるけど、それらの個体は当然出現数そのものが少ないんだ。だからこそ、それらの素材は貴重なの。当然でしょう?」
当たり前のようにそう言われて納得した。
確かに、思い出してみればここでのジェムモンスターは。出てくる絶対数が他よりも少ない。
いつもだったら湧き出すほどにあふれ出てくるけど、ここでは一匹ずつ、もしくは出ても百匹もいない程度だ。
「そっか、じゃあ俺達が一通り戦ったらお前らも戦うか。だけどあの角には気を付けてくれよ。怪我はごめんだぞ」
俺がそう言った瞬間、全員が一気に巨大化して座り直した。
「もちろん! じゃあ、ご主人の狩りが終わるのをここで待ってます!」」
見事に声を揃えてそう言われてしまい、思わすハスフェル達を振り返った。
「お前なあ……まあいい、取り敢えず一面クリアーするまでは、俺達が遊ばせてもらうぞ。お前らはその次な」
苦笑いしたハスフェルにそう言われて、誤魔化すように笑っておく。どうやら彼らは自分達が単に暴れたかったみたいだ。
皆、本当に血の気が多いねえ……。
「それじゃあ、一度ケンもやってみろ。背中側から突くだけだからミスリルの槍でも良いぞ」
前回、出しただけで即返品されたミスリルの槍をアクアがサッと出してくれる。
「おお、じゃあ折角だからやってみるよ。そう言えば、あの前羽は素材にならないんだな」
ミスリルの槍を持ってそう言うと、ハスフェルが後ろに下がりながら笑って頷いている。
「確かに聞いた事がないな。恐らくだが、ヘラクレスオオカブトの亜種は、硬化の成分を全部角に回しているんだろうさ」
「硬化の成分?」
また初めて聞く言葉が出て来た。
「ああ、亜種が硬化して素材を落とすのは、金属や鉱物を取り込んでその成分がジェムと一体化する事によるんだ」
「あ、それは一番最初にシャムエル様から聞いた覚えがある」
俺の言葉に、ハスフェルが頷く。
「その一体化した部分が硬化して素材になるんだよ。だから、金属を取り込めば硬くなるし、ガラスの成分を取り込めば透明な素材になる訳だ。確かに同じ種族でも、カメレオンビートルは前羽の素材も残すな。折角デカい体をしてるんだから、前羽も残してくれれば良いのにな」
笑いながら教えてくれたその内容に納得した。
要するに、初期設定時のボーナスポイントが亜種にはあるわけだ。でもって、ヘラクレスオオカブトはそのポイントを角の硬化に全振りしたわけだな。
うん、多分この考え方で間違ってないだろう。
「無駄話はそこまでだ。次が出て来たぞ」
剣を抜いたギイの声に、慌てて身構える。
「待て待て、武器は一旦下げろ。構えるんじゃない」
頭を押さえられて、俺は慌てて槍を下げて下に降ろした。
そりゃあそうだ、横で剣よりもっと長い武器を構えてたら、絶対こっちに向かってくるよな。
「攻撃するのは、地面に降りてからで良い。お前なら大丈夫だと思うが、絶対に前には出るなよ」
「了解、気を付けます」
気を引き締めて深呼吸をする。
最初程じゃないが、これまた大きいのが出て来た。
一度だけ角を噛み合わせて甲高い音を立てた後、ゆっくりと幹を降りて来始めた。
「頑張ってね。ここを全部新しくした時に、出現するジェムモンスターの種類をかなり変えたし、出現率も変更したんだよ。特に今はここに初めての人が入った訳だからさ。いつもより多めに出るようにしてあるから、しっかり集めて行ってね」
得意気なシャムエル様の言葉に、俺は思わず吹き出しかけて必死で堪えた。
成る程、今ここは初回特典で倍率アップのフィーバータイム中な訳か、そりゃあ頑張らないとな。
「おお、そりゃあ凄えな。じゃあ頑張らせてもらうよ」
目の前では、剣を構えたギイに向かって地面に降り立ったヘラクレスオオカブトが向き直る所だ。
ハスフェルの合図で、俺は思い切り走って行って、構えたミスリルの槍をその大きな背中の羽の合わせ目に向かって、力一杯叩き込んだ。
呆気無いくらいに簡単に貫通して、槍が地面に突き刺さる。
「ええ、こんなに柔らかいんだ」
あまりにも簡単で逆に驚いた直後、ジェムと素材が転がるのが見えた。
お礼を言ったギイが素材とジェムを確保するのを見て、槍を抜こうとしてまた驚いた。
「よっと。あれ……抜けないぞ」
かなり深く刺さったミスリルの槍が、まさかの地面から抜けない事態に俺は大いに焦った。
「ふんっ!」
今度は両手で握って力一杯引っ張る。
「ふぐ〜〜〜〜〜ん!」
歯を食いしばって脚も広げて踏ん張り、必死になって抜こうとするがマジで抜けない。
「何をやってるんだ。お前は」
呆れたような声が背後から聞こえて、俺は負けを認めて振り返った。
「ごめん、抜いてくれるか、これ。マジで抜けないんですけど」
二人同時に吹き出す声がして、俺も笑いながら悔しいけど下がる。ここは無駄に鍛えているあの筋肉の出番だろう。
「どれ、お、確かにこれは……」
右手で槍を抜こうとしたハスフェルの声が、驚いたように途切れる。
しばらく考えて、さっきの俺のように両手で握って抜こうとするが全く抜ける気配がない。
眉を寄せて手を離したハスフェルが振り返る。
「おいギイ。ちょっとこいつを抜いてみろ」
真顔のハスフェルの声に、抜けなくて揶揄ってやろうとしていた俺達は口を噤んだ。
しかし、ギイが力一杯引いても全く抜ける気配は無く、見かねたオンハルトの爺さんまでやってくれたが結果は同じ。
半ば呆然と顔を見合わせた俺達は、頷き合って四人揃って槍を握った。
「いくぞ」
ハスフェルの合図で全員一緒に、タイミングを合わせて同時に引っ張る。
僅かに動いた気配がして喜んだ直後、異変が起こった。
突然足元の地面にヒビが入り、何故だか地面が盛り上がって来たのだ。
呆気に取られていたのは一瞬で、直後に全員同時に槍を手放して後ろに大きく飛んで下がる。
ひび割れた地面から出て来た、槍が突き刺さったそれを見て、俺は本気で悲鳴を上げた。
「これは無理! 俺に、これは無理です〜!」
叫んだ俺は、悪く無い……よな?