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新しい飛び地

「うう、やっぱり気が進まないよう」

 マックスの背中に乗って、石の河原から巨大な草が生茂る草原へ入る。

 そこはマックスの頭が辛うじて出るくらいの細長いイネ科の雑草っぽい草が延々と続いている草原で、前回と殆ど変わらないように思う。

 見上げると、頭上にはやはり太陽の無いよく晴れたのっぺりした空が広がっている。

「本当に見事に再生してるんだな。それにしても、あれが割れたんだもんなあ……」

 思わずそう呟いて身震いする。

「だから大丈夫だって。念入りに確認したけど、今のところ不自然な歪みや傷みは一切無いからさ」

 俺の右肩に座って尻尾のお手入れに余念がないシャムエル様の言葉に、俺は諦めのため息を吐いたのだった。



「おお、見事に育っているな」

 前回、カメレオンビートルを始め、貴重なジェムとアイテムを乱獲した場所に到着した。

「ええと、もしかしてまた狩りタイム?」

「お前、ここがどれだけ貴重な場所であるかもう忘れたのか? 当たり前だろうが。ありったけ狩っていくぞ」

 真顔で言われて、俺はもう諦めて腰の剣に手を掛けた。

「ええと、最初は……あれ?」

 見上げた巨大な木には、何だか丸っこい半円形の巨大なボールみたいなのがあちこちにくっついているのが見えた。

「あれ、カメレオンビートルじゃ無いのか?」

 思わずそう呟き、目を細めてよく見てみたがあの特徴的な角が無い。

「お前、そう来るか」

 いきなりハスフェルが笑い出した。

「ええ、だってせっかくだから色々あった方が嬉しいかと思ってさ」

 何故だかドヤ顔のシャムエル様が、俺の肩の上で胸を張る。

「感謝するよ。カメレオンレディバグのジェムは持ってるが、素材の前羽は手放してもう無いんだ。実は欲しかったんだよ」


 レ、レディバグって何? 女性の虫?


 日常会話程度の英語力では知らない単語だ。

 ちょっと考えて頭上を見上げる。

「あ、わかった。てんとう虫だ!」

 思わず手を打ってそう叫んだ。

 巨大な木の幹にいるからあまり大きく見えないけど、あれでも直径1メートルどころじゃ無いぞ。コロンと丸い形は案外可愛いように思うが、相手は超レアなジェムモンスターだ。

 てんとう虫だと思って油断したら、尻から毒針が出てきても不思議は無いぞ。

 そう考えて身構えたが、ハスフェルたちは至って呑気なものだ。頭上を見上げて、どこへ落とすかとか相談してるし、どうやら危険は無いみたいだ。



「なあ、あのてんとう虫の素材は何なんだ?」

 少し下がって木を見上げながらシャムエル様に質問する。

「背中の丸い前羽は装飾用の素材として重宝されるよ。ごく薄いんだけど硬いからね。それに、加工次第では完全な透明にもなるんだ。翅脈は無いからショウケースのドームに加工されたりもするね。クーヘンに持って行ってあげたら喜ばれるんじゃない?」

「へえ、そうなんだ。じゃ頑張ってみようかな」

 ちょっとやる気になってハスフェル達を見ると、丁度、彼らの相談も終わったところみたいだった。

「ケン、ここは槍がいいぞ。ミスリルの槍を出しておけ」

「あ、そうなんだ。了解」

 ハスフェルの言葉を聞いて飛んできてくれたアクアゴールドが、サッとミスリルの槍を取り出して渡してくれた。

 ギイが、セミ捕りの時に使った長い棒を組み立てている。

「俺が、この棒であいつらを払い落とすから、転がったところで、腹側を槍で突き刺してやれ、軽くでいいぞ。あの背中側の丸い前羽が素材で、球形の素材は貴重だから何処でも喜ばれる。バイゼンヘ持って行ってやれば間違いなく大喜びされるぞ。だから、出来るだけ傷を付けないようにな」

「おう、気をつけるよ。軽く突き刺す程度で良いんだな」

「貫通させると、前羽に穴が空いちまうからな。そうすると、素材としての価値は一気に下がるんだよ」

「うわあ、そりゃあ勿体無いな。出来るだけ無傷で確保するよ」

 ミスリルの槍を手にした俺を見て、ギイが大きく頷く。

「それじゃあ頑張れよっと!」

 ギイが長い棒を横に振って木の幹を撫でるようにして払った。



「うわあ、どれだけ付いてたんだよ!」

 鱗が剥がれるみたいに、ボロボロと丸い半円球が地面に落下して来る。

 転がってもがいているやつの腹に、軽くミスリルの槍を突き刺す。

「ああ! いきなりやっちまったよ。地面まで貫通したあ!」

 思わずそう叫んでしゃがみ込む。

 ごく軽く突き刺したつもりだったのに、ミスリルの槍は、呆気なくその身体を貫通してしまった。

 巨大なてんとう虫はジェムと素材になって転がったが、貴重な前羽の二枚のうちの一枚を、ミスリルの槍が見事に貫通して地面に縫い付けてたよ。

「だから言っただろうが、勿体無い」

 呆れたようなギイの言葉に、俺は叫んでいた。

「こんな切れる槍では無理だって! アクアゴールド! 以前使ってたハスフェルから貰った古い槍を出してくれ!」

「はい、これだね」

 背後からアクアゴールドの声がして、以前ハスフェルから借りて使っていて、そのまま貰った鋼の穂先の槍を取り出してくれた。

「ありがとうな。これ預かっててくれ」

 交換して、ミスリルの槍を返すと一瞬で飲み込んでくれた。

 慌てて周りを見回したが、残念ながらもうてんとう虫はどこにも転がってなかった。

 ギイが払い落とした分は、俺がもたもたしている間にハスフェル達がやっつけてくれたみたいだ。

「良いな、じゃあもう一度落とすぞ」

 鋼の槍を手にした俺を見て、ギイが再び木の幹を払う。

 またバラバラと落ちて来るてんとう虫を見て、駆け寄った俺はさっきよりもかなり慎重に腹側をぶっ刺した。

「よし、これくらいだな。もう分かったぞ」

 今度はジェムと一緒に綺麗な前羽が転がるのを見て、すぐ側でまだもがいていたもう一匹の分も確保した。



 周りにある他の木でも、ベリー達や従魔達が大喜びでてんとう虫を叩きまくっている。

 マックスとニニが嬉々として大暴れしているのは、球形のジェムモンスター相手のお約束だよな。お前らボール遊びが大好きだったもんな。



 ギイが何度も払い落としてくれ、ようやく一面クリアーした頃には、俺でもかなりの数のてんとう虫のジェムと素材を確保していた。

 大半は、バラけたスライム達が集めてくれたのだが、何個かは自分で拾って収納してみた。

 収納の量についてだが、今のところまだまだ入りそうなのが分かる。うん、空き容量は余裕だよ。

 せっせと拾い集めるスライム達を見て、ちょっと息の切れた俺はその場に座り込んだ。背負っていた鞄から水筒を取り出して飲む。

「はあ、水が美味え」

 そう呟いてもう一度水を飲んでから、地面に背中から転がった。

 相変わらず、変化の無いのっぺりした太陽の無い空が広がっている。

「ああ、ちょっと腹減ってきたな。何か食うか?」

 俺の言葉に、三人が揃って嬉しそうに手をあげる。

「お願いします!」

 笑って起き上がり、木から離れようとした時、頭上で何かが動くのが見えた。

「ええ、もう出たのかよ。今度は何……」



 そう言って見上げた俺は、驚きのあまりそこから動けなかった。



 俺の頭上の巨大な木の幹に突然現れたそいつは、何と角だけでも2メートル近くある、俺達が一度だけ遭遇したヘラクレスオオカブトの倍以上はある、超デカい亜種だったのだ。



 いきなり現れたそいつは、角を下にしてまるで威嚇するみたいに大きく二本の角を噛み合わせた。

 剥き出しの金属同士を擦り合わせたような、甲高い音が辺り中に鳴り響く。

 そして、そのヘラクレスオオカブトは、間違い無くすぐ下にいる俺を見た。

 驚きのあまりすぐに反応出来なかった俺は、ゆっくりと降りて来るその巨大な二本の角が開くのを、ただ呆然と見上げている事しか出来なかった。

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