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リンゴとぶどう

 大満足の食事を終えて、さすがにここで酒を飲むのはまずいだろうと意見の一致をみたので、美味しい緑茶を全員に淹れてやり、まったり寛いでいる時だった。

『ケン! 凄いものを見つけましたよ。スライム達を連れて来てください!』

 いきなり、何やら興奮したベリーの念話が届いて、気を抜いていた俺は飛び上がった。しかも、その声はハスフェル達にも聞こえていたようで、同じように驚いている。

『フランマが迎えに行きました。案内しますのでついて来てくださいね!』

 また興奮した声が聞こえて、そのあと一方的に念話が途切れてしまった。



「……一体、何事だ?」

 不思議そうにハスフェルがそう言って首を傾げている。

「さあ、だけどベリーがあれだけ興奮するんだから、何か凄いものなんだろうさ」

 残っていたお茶を飲み干して立ち上がる。三人もお茶を飲み干してそれぞれ立ち上がった。

 その時、テントの外でガサガサと音がしてフランマの声が聞こえた。

「ご主人、来て来て!こっちよ!」

 どうやら大興奮しているフランマを見て、顔を見合わせた俺達はとにかく外に出た。

 まだマックスはいてくれたので、急いでその背に飛び乗る。全員が従魔と馬に乗ったのを見て、フランマが走り出す。

 茂みの中に突っ込んで行くその後ろを、全員が追いかけて走った。




「ああ、来ましたね。見て下さい」

 到着した場所は、やや起伏のある草地で、そこは膝下くらいの雑草がごちゃごちゃに生えていて、足元はかなり悪い。

 段差の上の部分に人の背丈くらいの低木樹が何本も固まって植わっていて、その木に細かい葉っぱの蔓性の植物が絡み付いて一体化した巨大な茂みを作っていた。

「へえ、大きな実が成ってるな」

 まず、濃い赤色の、りんごよりも大きなバレーボールくらいありそうな実が、もの凄い数であちこちに鈴生りに実っている。木の枝が折れないか、ちょっと心配になるぐらいの量だ。

 これはどうやらこの低い木の実のようで、それから巻き付いた蔓からも、小粒の、スーパーなんかでもよく見る種無し葡萄みたいな小粒の房状の実が、こちらも鈴生りにぶら下がっていたのだ。



「これは、おそらく元は小さな姫りんごなのでしょうが、強い地脈に晒されて巨大化したようです。ひとつ食べてみてください」

 手を伸ばして大きなリンゴを一つ千切ってくれた。

 そして驚いた事に素手で軽々とリンゴを半分に割ったのだ。ベリーの握力、80キロクラス決定……。

 ま、俺も普通のリンゴなら握りつぶせるよ。勿体無いからやらないけど。



 手渡された半分のリンゴを、軽く手で擦って皮の汚れを取ってそのまま齧ってみる。

「美味っ! 何だこれ!」

 もう美味いとしか表現出来ない。

 齧った途端に口の中に広がる絶妙な酸味と甘味、そして果肉のしゃくしゃく感。皮は全く苦にならない。夢中になってあっと言う間に完食したよ。

「それから、これも食べてみてください」

 もう一種類の小粒の葡萄みたいなのも、ひと房丸ごと渡される。

「皮ごと食べられますから、そのまま摘んでください。中にある小さな種は出してくださいね」

 頷いて、まずは一粒口に入れて、これまた驚きに目を見開く。



 甘い、蕩けるみたいな濃厚な甘さだが、嫌な甘さでは無い。まろやかで、口に入れただけで感動に体が痺れるくらいの美味さだ。



「これ……何?」

 種を吐き出し、もう数粒まとめて口に入れる。

「この葡萄は私も初めて見ます。どうやら新種のようですね。この甘さ、そして内包しているマナの濃厚さ。どれも素晴らしいです。蜜桃などの比ではありませんよ」

 落ち着いて周りを見回すと、此処だけでなく。あちこちに同じような低木樹の茂みがあり、もの凄い量のリンゴとぶどうが鈴生りに実っている。

「つまり、これをスライム達に収穫させればいんだな?」

「お願い出来ますか。もちろん私もやりますが、さすがにこれ全部は無理ですからね」

「なあ、これ全部採っちゃっても大丈夫かな?」

 右肩の定位置に収まってるシャムエル様に尋ねる。

 ヒトヨスミレみたいに、これが主食のジェムモンスターがいれば申し訳ないもんな。

「大丈夫だよ、此処の植物は、自分の中にある溢れるほどのマナの吐き出し口として木の実を成らせているんだ。だから、全部収穫してもすぐにまた実るよ。外の世界のように一年一度の実りって訳じゃ無いんだ。果物を食べるジェムモンスターもいるけど、すぐに実るから心配無いです。遠慮なく、好きなだけ採って行ってください!」

 何故かドヤ顔でそう言われて、ベリーと笑って顔を見合わせる。

「じゃあ、このリンゴとぶどうを収穫してくれるか。やり方はこんな感じな」

 実際にリンゴを枝から取り、葡萄は房ごとナイフで切って見せる。

「分かった!」

「いっぱい集めるもんね!」

「負けないもんねー!」

 大はしゃぎのスライム達が、バラけて一斉に散らばっていく。三人が連れていたスライム達も、同じようにバラけてあちこちに散らばって収穫し始めた。

 ハスフェル達も自分の収納用に、バラけてリンゴとぶどうを集めている。



 俺も、せっかくなので目の前の木からいくつかリンゴを採って自分で収納してみる事にした。

 まだ上手く出し入れ出来ないんだけど、鞄に何度か入れたり出したりしていて何となくコツを掴んだような気がする。



「あ、入った」



 念の為、一度取り出してみて、また入れる。

「なんか分かったような気がする。なあ、俺の収納も、保存出来るんだよな?」

「もちろん、保存出来るようにしたから現状維持されるよ」

 シャムエル様の声を聞いて、俺はせっせと自分の収納に集めたリンゴとぶどうを入れていった。

「かなり上手く収納出来る様になったみたいだね。せっかく付与してあげた貴重な能力なんだから、頑張って使いこなしてね」

 シャムエル様に頬を叩かれて、頷いた俺は、集めたぶどうを上手く収納した。



 かなりの時間を使って、とりあえず見える範囲の実は全部集めた。

 しかし、見ているとシャムエル様が言った通りで、一気に花が咲き、ごく小さな羽虫達が何処からともなくやって来て蜜を吸い始め、一時間もしないうちに花は散ってしまった。

 まるで早送りの映像を見ているみたいで、受粉した果実がどんどん大きくなるのを、俺達は呆気に取られて眺めていたのだった。

「さすがに早いね。いやあ、これは私もびっくりだね」

 感心するようなシャムエル様の呟きに、俺達は堪えるまもなく吹き出して、その場で大爆笑になったのだった。

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