貴重な素材集めに精を出す
「じゃあ何か作るか。その前に、ここで食べるのか?それとも一旦外へ出るのか?」
今いる場所は、木の根元の足元が隠れる程度の草しか生えていない場所だから、まあ机を出そうと思ったら何とかなる。
「いや、まだ出るから帰らないぞ。簡単に食べられそうな作り置きはあるか?」
ハスフェルにそう言われて、俺は屋台で買い込んだ、バーガーやホットドッグ、それからおにぎりや唐揚げ辺りを出してやった。それから、揚げたてフライドポテトもな。ちょっと考えて茹で野菜と野菜スープも出しておく。
意識して野菜も食べないとな。飲み物はコーヒーと緑茶だ。
「ああ、良いな。それじゃあいただくよ」
嬉しそうにそう言って、全員がそれぞれ好きなものを取る。
三人はホットドッグやバーガーをいくつも取り、野菜スープをマイカップにたっぷりだ。
俺は、おにぎりと唐揚げやサイドメニューをお皿に取る。それから野菜スープと緑茶だ。
机を見たが、シャムエル様がいない。
「あれ? シャムエル様は?」
念の為、木の根元も見たがどこにも落ちていない。
「ああ、祈りの時間なんだろう。気にしなくて良い。奴の貴重な仕事だからな」
「祈りの時間?」
おにぎりを手に振り返る。
「つまり、奴の信者達が祈る時間な訳だ。なので、奴は祭壇の彫像の肩に座って、その間は大人しく見ているんだよ。自分を祀り祈ってくれている人達をな」
「へえ、お昼に時々いなくなるのはそう言うことか、そりゃあちゃんとしないとな」
苦笑いした俺は、疲れて帰ってくるであろうシャムエル様の為に、おにぎりをひとかけらと、フライドポテトと茹でたブロッコリーもどき、それから唐揚げもひとかけら取り分けて置いておくことにした。
食後に改めて緑茶をいれて飲んでいると、机の上にいきなりシャムエル様が現れた。
「ああ! 急いで戻ってきたのに。うう、ご飯が無いよう」
机に突っ伏して、空になったお皿を両手で叩いて悔しがっている。
「お前なあ。ケンと違って、お前は別に食わなくても問題なかろうが」
呆れたように、隣に座っていたギイがシャムエル様の尻尾を突っつく。
「おう、何だこれ。ケンが喜ぶ気持ちがちょっと分かったぞ」
そう言って笑ってシャムエル様の尻尾をくすぐる。
「私の大事な尻尾に何するの!」
尻尾を取り返してギイの指を蹴飛ばす。
「はいはい、拗ねない拗ねない。ちゃんと取ってあるから安心してくれよな」
笑って、サクラが預かってくれていた小皿を取り出してやる。
「ありがとうケン!やっぱり君は分かってくれてるよね!」
嬉しそうに俺の腕に縋り付いたシャムエル様は、ドヤ顔でギイを振り返った。
「じゃあ遠慮無く」
笑って無防備になってる後頭部から尻尾を撫で回してやった。
「おお、堪らんよ。このもふもふ」
その瞬間、空気に殴られた俺は、見事に座っていた椅子から吹っ飛ばされ、それを見ていた三人が同時に吹き出す音を聞きながら、俺も地面に転がって大笑いしていたのだった。
「さて、それじゃあそろそろ次が出るかな?」
しばらく休憩した後、オンハルトの爺さんが伸びをしながらそう言って立ち上がって、木を見上げている。
「さっきもそんな事言ってたな。次は何が出るんだ? さっきのカブトムシじゃ無くて?」
そう言いながら見上げた大きな木の幹には、まだカメレオンビートルの姿は見当たらない。
「あれは、一日一度しか出ないからな。残念ながら今日はもう終わりだよ」
「そうなんだ。じゃあ移動するのか?」
机や椅子を片付けながらそう尋ねると、三人は笑って首を振り木を見ている。
慌てて最後の椅子を片付けた俺は、ハスフェルの横に立って同じように大きな木を見上げた。
「何か見えるか?」
「ええと……」
目を細めて見てみるが、特に何も……?
「ああ、幹が動いたぞ、今!」
思わずそう叫んで身を乗り出す。
「見えたな。あれはカメレオンロングホーンビートル。大きな顎には気を付けろ、噛まれたら、人の腕くらい簡単に切れるぞ」
僅かに動いているのを見てわかった。あれは俺の身長くらいありそうな細身の甲虫だ。その先に、身体の倍以上ありそうなごく細くて長い触覚がいきなり見えて、俺は思わず声を上げた。
「ロングホーンドビートルって、何かと思ったらカミキリムシかよ!」
しかも、よく見ると木の幹のあちこちに巨大なカミキリムシが蠢いている。
慌てて腰の剣を抜いた俺を見て、ハスフェル達も笑って剣を抜いた。
「あれの素材は、あの巨大な触覚と前羽だよ。どちらも貴重な装飾品の素材になる、クーヘンに持っていってやれば喜ぶと思うぞ」
「前羽って事は、あの羽の甲羅みたいな外側部分だな。了解。じゃあ体は傷付けないようにしないとな。頑張って確保するよ!」
とは言ったものの、さっきと同じで、目標が木の幹にいる以上手が届かない。
「ええと、またお願い出来るか?それとも、石かなんかを投げて叩き落とす?」
左肩の定位置に留まっているファルコを見ると、一声鳴いて羽ばたき舞い上がった。
「頼むよ!」
声を掛けると、また大きく鳴いて木の幹目掛けて急降下してくる。
ファルコが木の幹ギリギリを飛んだ次の瞬間、カミキリムシ達がいっせいに飛び上がった。
しかし、飛ぶのは下手らしく、すぐにボトボトと落ちてくる。
落ち着いて、頭と胴体の付け根目掛けて剣を振り下ろすと、身体の割に小さな頭がふっ飛んで、地面にジェムと素材が転がる。
どんどん湧いてくるカミキリムシ達を、ファルコとプティラが何度も落としてくれる。
スライム達が背後を守ってくれているので、とにかく切って切って切りまくった。
周りの巨木では、当然のようにマックス達を始めとした従魔達も嬉々として大暴れしているし、少し離れた場所では、ベリーとフランマも大暴れしているみたいで、時折、爆音が響いている。
しかも、出てくる総数は、先程のカブトムシよりも数が多い。
一度、真横から飛んでき来たデカイのにぶち当たられて、俺は地面に仰向けに吹っ飛んだ。
もちろん咄嗟にアクアが庇ってくれたし、すぐに横に転がって逃げたけど、巨大な顎を間近で見てしまい、割りと本気で怖かったよ。
「腕って、もし切り飛ばされたら万能薬でくっつくのかなあ」
叩き切りながら思わず呟くと、隣にいたハスフェルから、素材の触覚で鞭みたいに叩かれた。
「くっつく訳あるか!だから言ったんだ。用心しろとな!」
「あはは、了解です! 絶対気を付けます!」
また飛んでくるカミキリムシを、腹側から切り倒しながら叫んだ。
「い、一面クリアーかな……」
まだ剣は持ったまま、息を切らせた俺は、ようやく静かになった巨木を見上げた。
ファルコとプティラは一仕事終えて満足しているかのように、巨木の枝で身繕いなんかしてる。
見渡すと、辺り一面ジェムと素材がゴロゴロと転がりまくっていて、スライム達がせっせと拾い集めてくれている真っ最中だった。
「ご苦労さん、休んでてくれて良いぞ」
笑ってそう言われて、俺はその場にへたり込んだ。
「はい、どうぞ。ご主人」
サクラが出してくれたのは、あの美味い水の入った水筒だ。
「ありがとうな。じゃあ遠慮無く」
一気に飲み干し、大きく息を吐く。
「美味い。ああ、身体に染み渡るよ」
もう一口飲んでからハスフェル達を見ると、揃ってまた木を見上げている。
「なあ、もしかして……まだ何か出るのか?」
恐る恐るそう尋ねると、当然のように頷かれてしまい、俺は思わずその場に寝転がった。
「まだあるのかよ」
「何言ってる、どれも滅多に手に入らない希少種の素材なんだから、取れるだけ取っていくぞ」
呆然と呟いた俺の言葉に、ハスフェル達が平然と答える。
「もうやだー!疲れたよー!」
叫んだ俺は、悪くないよな?