休日の午後と狩りへの出発
夕方近くまで、だらだらと飲んではちょこっと料理をするのを繰り返して過ごした。
その結果、サイドメニューの王様、フライドポテトとポテトチップス、それからポテトサラダが量産され、野菜スープとクリームシチューも大量に仕込み完了。それから生野菜各種をありったけ洗って千切っておき、そこで時間切れで夕食になった。
まあ、さすがに昨夜は食い過ぎた自覚があるので、今日はハスフェル達も肉は見たく無いらしい。
って事で、以前屋台村で買い込んだ焼き魚とおにぎり、味噌汁、そしてだし巻き卵と、短冊に切った大根とにんじんの酢の物という、ある意味定番の和食に落ち着いたのだった。
自分の食事の準備を整えて、そのまま用意していた祭壇に捧げて手を合わせる。例の半透明の手が、捧げたおにぎりやだし巻き卵を撫でるのを見てから下げて、俺は自分の席に着いた。
待ち構えていたシャムエル様が、お皿を持って尻尾を振り回しながら嬉しそうにいつものもふもふ味見ダンスを踊っている。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャン!」
最後のポーズをドヤ顔で決めて、得意気に頬を膨らませながらお皿を差し出すシャムエル様は、堪らなく可愛かった。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
笑った俺は、焼き魚は背中の肉厚のところを塊で取ってやり、だし巻き卵と酢の物も取り分けて、おにぎりも箸で大きく千切ってお皿に並べてやった。盃に味噌汁を入れたら出来上がりだ。
「はいどうぞ。味噌汁は熱いから気を付けてな」
「わあい、どれも美味しそうだね」
嬉しそうに頬を膨らませて、焼き魚をかじり始めたのを見て、俺もだし巻き卵を口に入れた。
「じゃあ、明日はケンも一緒に狩りに行くか」
食べ終えて、淹れてやった緑茶を飲んでいるハスフェルがそう言って顔を上げる。
「そうだな、確かに、たまには戦っとかないと動きを忘れそうだ」
スライム達に綺麗にしてもらった食器を片付けながら苦笑いしてそう言うと、ギイとオンハルトの爺さんまでもが同意するようにうんうんと頷いてる。
俺的には、別に無理して戦わなくても全然いいと思うんだけど、まあこれでも一応冒険者の端くれだもんな。一応、たまには働いておきましょうか。
その日はそれで解散となり、手を上げて部屋に戻るハスフェルたちを見送って、俺も早々に休む事にした。
今日は、防具は身につけていなかったので、顔と手足だけ軽く洗ってサクラに綺麗にしてもらえばそれで寝る準備完了だ。
「さあ、今夜はちゃんとベッドで寝るぞ」
振り返ると、既にマックスとニニはベッドに寝転がって寝る準備万端だ。
「それじゃあ、今夜もよろしく!」
そう言って二匹の間に潜り込む。跳ね飛んできたウサギコンビが一瞬でデカいサイズになり俺の背中側に潜り込んだ。
一瞬早くフランマが俺の懐に飛び込んで来る。
競り負けたタロンが、俺の顔の周りをぐるぐると悔しそうに歩き回ってからベリーの所へ飛んで行った。
「それじゃあ消すね」
アクアの声がして、部屋のランタンが消されて真っ暗になる。
「お休み、明日は久し振りに狩りに行くんだってさ……」
もふもふの腹毛に顔を埋めたところまでしか、俺の記憶は無い。気持ち良く、眠りの海に墜落して行きましたとさ。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
「はいはい……おきますよ……」
寝ぼけて返事をしただけで、そのまま二度寝の海にダイブ。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
「うん、起きてる……」
腹毛の海に潜り込んだまま、半ば無意識で答える。
「それじゃあ遠慮無く!」
ザリザリザリザリ!
ジョリジョリジョリジョリ!
声と同時に耳の後ろと首筋を舐められて、俺は悲鳴を上げて飛び上がった。
「うひゃあ! 起きる起きる!」
慌てて飛び起きたよ。ありがとう、一気に目が覚めました。
「わあい、ご主人起きた」
「やっぱり私達が最強だもんね」
得意気なソレイユとフォールを、二匹まとめて揉みくちゃにしてやったよ。
いつものモーニングコールチームの連携プレイで起きた俺は、まだ少し眠い目を擦りながら顔を洗って身支度を整えた。
先にベリー達に果物を山盛り出してやり、スライム達は順番に水場に放り込んでやる。
そこまでした所で、ハスフェルから念話が届いた。
『おはようさん、もう起きてるか?』
『おう、おはようさん。もう俺は準備出来てるよ。今ベリー達が果物食ってるところだ』
『じゃあ、少し早いが軽く食って出掛けるとしよう。シャムエルによると、シリウスが思い切り走りたいって言ってるらしいから今日は地上を行くぞ』
「ああ良いな。じゃあ俺もマックスを思い切り走らせてやる事にするよ」
思わず声に出して答えると、マックスがすごい勢いで顔を上げてすっ飛んで来た。
「良いですね、思い切り走りましょう。ご主人!」
尻尾をブンブン振り回すマックスに抱きついて、俺も笑った。
「俺も思い切り走りたいよ、よろしくな」
ハスフェル達が来たので、買い置きのサンドイッチや串焼きを出して簡単に朝飯を済ませた。
シャムエル様にはいつものタマゴサンドな。
食べたら少し休憩して、そのまま出発だ。
マックスの背中の籠に小さくなったウサギコンビが入り、ファルコは俺の左肩の定位置に留まる。プティラとタロン、ソレイユとフォールは小さくなってニニの背中にそれぞれ上がった。
アヴィは俺の左腕上腕部にしがみついている。
「うん、この定位置は久々だな」
笑ってマックスとニニを撫でてやってから、全員揃って出発した。
ハスフェルとギイ、俺とオンハルトの爺さんの順で二列並びで城門を抜けた。
街道では、俺達の従魔を初めて見る人達から悲鳴が上がり、俺達は早々に街道を外れて林の中に駆け込んで行ったのだった。
「何か、あれだけあからさまに怖がられるのも久々のリアクションな気がするな」
苦笑いする俺に、三人も笑って頷いている。
「この街では、屋台や買い出しの時は留守番だったもんな」
軽く早足で駆けているマックスは、一声吠えて軽く跳ねる。
丁度林を抜けた先は、多少起伏はあるがなだらかな平原が広がっていたのだ。
少し離れて走っていたシリウスもマックスの声に応えるように吠える。ギイの乗るブラックラプトルのデネブも遠吠えのように鳴いて、三匹が一気に加速する。
「速え! でも気持ち良い!」
思わず大声で叫ぶくらい気持ち良かった。
「確かに、気持ち良いな」
ハスフェル達の笑う声が聞こえて、俺も声を上げて笑った。
俺を乗せたマックスは、シリウスやデネブ、それからオンハルトの爺さんが乗る馬と並んで、遥か彼方にある目的地の森へ向かって、なだらかな平原を物凄い勢いで走り抜けて行ったのだった。
さて、今日のジェムモンスターは、どんなのが出るんだろうね?