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寝坊した朝と知らなかった衝撃の事実

「さて、じゃあサクッと片付けとくか」

 大きく伸びをしてスライム達を鞄から出してやり、まずは散らかった食器や空瓶を集めてもらう。借りたトレーやボウル、金串なんかは綺麗にして重ねて置いておく。

 床に散らかってる金属製の食器は、おそらく冒険者達の私物だろう。ちょっと考えて、置き場所は変えずに、スライム達に汚れだけ取ってもらっておいた。

 それから、肉汁とタレがこぼれて大変な状態になっていた焼き台も、スライム達に頼んで綺麗にしてもらった。



「おお、相変わらず素晴らしい手際だな」

 ピカピカになった焼き台を見て笑い、足元で跳ね回るスライム達を順番に撫でてやると、俺は床に転がるアーノルドさんの足を叩いた。

「じゃあ俺達は宿泊所へ戻りますよ。風邪引かないようにしてくださいよ!」

 耳元で、大きな声でそう言ってやると、アーノルドさんは驚いたように飛び起きた。

「ああ、なんだあれ。焼き台がえらく綺麗になっとるじゃねえか。あはは、良い夢だな、おい……」

 そう言って、一方的にまた寝てしまった。

「警告はしましたからね!」

 笑って耳元でもう一度そう言ってやってから、俺達は宿泊所へ戻った。



「ご馳走さん、美味かったよ。それじゃあな」

「ああ、おやすみ」

 廊下で、これもほろ酔い気分のハスフェル達と別れて、俺は自分の部屋に戻った。

「おかえりなさい。大騒ぎだったようですね」

 笑顔のベリーに出迎えられて笑った俺は、飛びついてきたマックスの大きな首に抱きついた。

「ただいま。いやあ、もう大騒ぎだったよ。さすがに皆よく食うよ」

 酔いの残ったふわふわした気分でそう言ってまた笑う。

「ご主人、お酒の匂いがしますよ。飲み過ぎです」

 真面目なマックスの言葉に、笑って鼻先にキスをしてやった。

「問題解決の祝杯だから、今日は良いんだよ」

 そう言って、今度はニニに抱きつく。

「ご主人飲み過ぎ」

 笑ったニニの声に抱きついて頭を擦り付けていると、本気で眠くなってきた。

「ああ、駄目だ。眠いよ……」

「そこで寝ないで!ご主人ったら!」

 遠くでニニの声が聞こえたが、襲ってくる眠気に耐えられずに、俺は気持ちよく眠りの国へ墜落していった。





 ぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみ……。

 カリカリカリ……。

 つんつんつん……。

「うん……」

 起こされてる気配は感じたが、全く目が開かない。

 唸った俺は、もふもふのニニの腹毛に潜り込んで気持ち良く二度寝したよ。




 ぺしぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみふみ……。

 カリカリカリカリ……。

 つんつんつんつん……。

 不意に目を覚ました俺は、ちょっと考えてゆっくりと起き上がった。

 防具は綺麗に外されていて、体はサラサラだし靴も靴下も履いていない。いつもの寝ている時の格好だ。

「おはようご主人。起こす前に起きちゃったわね」

「せっかく張り切って起こそうと思ってたのに」

 ソレイユとフォールが笑いながら俺の腕に頭突きをしてくる。

「おはよう、ちゃんと起きたもんなあ」

 笑いながら二匹を捕まえて揉みくちゃにしてやる。

 そしていきなり気がついた。



 俺、床で寝てるじゃん。



 正確には、床に転がったニニとマックスの間で、いつものウサギ達やタロンも一緒にな。

「ええと、これってどう言う状況?」

 恐る恐る振り返ると、マックスの腹の上にいたシャムエル様が呆れたように俺を見てこれ見よがしのため息を吐いた。

「昨夜、ってか、もう今朝だね。ニニちゃんに抱きついたまま酔っ払って床で寝た人は誰でしょうかね?」

「それは俺です。どうもすみませんでした」

 何となくそんな気がしていたので、素直に謝る。

「でも、スライム達が張り切ってお世話してたよ。ニニちゃんが、それならもうここで寝るって言って床に転がったから、ケンもそこに寝かせたの。お酒は程々にね」

「あはは、昨日はさすがにちょっと飲みすぎたかな。でもそれ程残ってないからまあ良い事にするよ」

 そこで外を見て、かなり高くなった陽の光にちょっと焦る。

「ええと、ハスフェル達は?」

 朝飯を食ったかどうか心配になって焦ったが、シャムエル様の答えに俺は小さく吹き出した。

「三人とも、まだ熟睡してるよ。そろそろ起こしても良いかなと思ってた所なの」

「あはは、そうなんだ。じゃあ起きるから、あいつらも起こしてきてくれるか」

 頷いて消えるシャムエル様を見送り、ゆっくり立ち上がって思いっきり伸びをする。

 うん、いつもより若干身体が硬くなってるような気がする。

 何度か肩を回し、軽く飛び跳ねて体を解してから、ニニとマックスを順番に撫でてやり、ウサギコンビとタロンもおにぎりの刑に処する。

 フランマが飛びかかってきたので、抱きしめてもふもふな尻尾を堪能してから顔を洗いに水場へ向かった。



「ご主人、綺麗にするね」

 跳ね飛んできたサクラが、一瞬で濡れた顔や身体を綺麗にしてくれる。

「いつもありがとうな。ほら行け」

 スライム達全員を水槽に投げ込んでやってから、部屋に戻って手早く身支度を整えた。

 その時、頭の中に慌てたようなハスフェルの声が聞こえた。

『おはよう、すっかり寝過ごしたよ』

『おはよう。俺も気持ちよく熟睡してたな』

『おはようさん。今からそっちへ行くぞ』

 ギイとオンハルトの爺さんの声も聞こえて、俺は小さく笑った。

『おはよう。俺も今起きた所だよ。じゃあコーヒーでも入れるから適当に来てくれるか』

『分かった、じゃ後でな』

 笑った気配が途切れる。

「それじゃあとりあえず、コーヒーでも淹れておくか」

 そう呟いて、サクラからコーヒーセットを取り出してもらった。




 たっぷりのコーヒーが入った頃に、三人が身支度を整えて部屋にやって来た。

 適当に、買い置きの屋台のホットドッグやバーガー、サンドイッチを取り出してやる。

 しばらく黙々と食べて、ゆっくりと二杯目のコーヒーを飲む頃にはもう昼前になっていた。

「今日は狩りに行くつもりだったんだけど、さすがに今から行ったら帰って来られなくなりそうだな」

 苦笑いしたハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも頷いている。

「確かにそうだな。じゃあ、もう今日は休憩でも構わないか?」

 振り返って俺のすぐ背後で座っていたマックスに尋ねる。

「ええ、別に構いませんよ。そこまで飢えている訳じゃありませんから」

 ニニ達も顔を上げて頷いている。

「それなら俺も、今日は休憩させてもらうよ。何だかものすごく疲れたもんな」

 大きな欠伸をしてそう言うと、三人が揃って笑っている。

「まあ、旅をしていれば、行った先で自分には何の関係の無い災難に巻き込まれる事もあるが、それにしても今回のは酷かったな」

「全く同意しかねえよ。それとさ。ちょっと気になってたんだけど聞いても良いか?」

 コーヒーを飲みながらそう言うと、三人が驚いたように顔を上げた。

「最初に広場で、俺が襲撃犯達に突き飛ばされた時、あれってやっぱりお前らは気がついていたのか?」

 三人は無言で顔を見合わせて苦笑いしながら頷いている。

「相変わらず、そう言う気配にはあり得ないくらいに鈍感だな。奴らがお前を異様に気にして後をつけていたから、俺達は少し離れて様子を伺っていたんだよ。武器を出すようならすぐに対応したんだが、いきなり近くへ行って突き飛ばした挙句、転んだお前さんには見向きもせずに従魔達を確保して逃げたものだから、俺達も驚いて一瞬反応が遅れたんだよ」

「それで、ケンの事はハスフェルとオンハルトに任せて。俺が鳥になって奴らの後を追ったって訳だ」

「へえ、そうだったんだ……ん?今何だか聞き逃せない言葉を聞いたぞ。鳥になったって、何だそれ?」

「こう言う事さ」

 次の瞬間、ギイの姿がかき消えて、座っていた椅子の背に一羽の鳥が留まっていた。

 セキセイインコよりももう少し大きい、全体にやや薄緑のそれは、名前は知らないけど、この世界では街の中でよく見る小鳥だ。森の中でもよく見るから、この世界の雀や鳩のような存在みたいだ。

「ええ、何がどうしてそうなるんだ?」

 驚きに目を開くと、また一瞬でいつものギイの姿に戻った。

「俺は、こいつらとは違って、仮の姿を幾つも持ってるんだ。それに、俺とハスフェルは、人間と同じ姿の長命種族って事になってるから、正確には人間とは別の種族の扱いだぞ」

「何それ、そんな奴いるんだ?」

 思わず、盃でコーヒーを飲んでいるシャムエル様を見る。

「ああ、ハスフェルとギイは、この世界の番人的な存在だからね。だけど、人の中にいて彼らだけが歳を取らないのは変でしょう? だから、そう言う種族が少数だけど樹海にはいるって設定にしてあるんだ。でもまあ、知ってる人は少ないよ。ギルドマスターや、一部の貴族や王族くらいだね」

 また新たに知った衝撃の事実に、俺は無言で天井を振り仰いだのだった。



「何だよそれ。めちゃめちゃレアキャラじゃん!」

 叫んだ俺は……悪く無いよな?

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[良い点] 金髪イケメンのデカいマッチョが、可愛いインコに!? 夜中に噴いた私は悪くない!(爆笑) [気になる点] セキセイインコより少し大きめで薄緑色の、街や森でよく見るインコ… ワカケホンセ…
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