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公爵邸の訪問と密かな準備の開始

 出かける前に、宿泊所の裏庭へ出る扉を開けてファルコをそっと外に出す。

 いつものサイズよりも小さい鳩サイズくらいになったファルコは、一度俺の指を軽く啄んでから翼を広げて飛び立って行った。

「よし、じゃあタロンも気をつけてな」

 同じく、庭に出て来たタロンも撫でてやる。

「じゃあ、後で会いましょうね。ご主人」

 頭を俺の足に擦り付けてから、軽々と庭の塀に飛び乗りそのまま外へ飛び降りて出て行った。さすがの身のこなしだ。

 二匹を見送って、俺は部屋に戻り裏庭への扉をきっちりと閉めてから、従魔達全員を連れて部屋を出た。

 廊下で待っていてくれたハスフェル達と一緒に、まずは隣のギルドの建物へ向かう。

「おはようございます」

 ギルドに顔を出すと、こちらも身支度を整えて待ってくれていたギルドマスターのアーノルドさんが、手を上げてカウンターから出て来てくれた。

「それじゃあ行ってくる。後はよろしくな」

 振り返って、見送る職員に手を上げると、職員さん達だけでなく、周りにいた冒険者達までもが、全員揃ってにんまりと笑ってサムズアップで見送ってくれたよ。





 今のマックス達は、サクラ達が念入りに手入れしてくれたので、鼻先から爪の先、尻尾の先に至るまで、もうこれ以上ないくらいにピカピカの艶々だ。

 全員並ぶと、何と言うか……ゴージャス感が半端ねえっす。



「俺だけ馬に乗るのも悔しいと思っていたが、そちらのオンハルトも馬なんだな」

 立派な馬を引いて来たアーノルドさんが、オンハルトの爺さんが連れている馬を見て、何故だか安心したように笑っている。

 二人はお互いの馬を撫でてやり、どちらも良い馬だと言って二人揃って笑っていた。

「それじゃあ、行くぞ」

 道路へ出た俺は待っていたマックスの背に軽々と飛び乗った。

 ハスフェルはシリウスに、ギイはブラックラプトルのデネブにそれぞれ飛び乗る。

 実はデネブは微妙にいつもよりも大きくなってもらっているので、いつにも増して迫力満点だ。

 従魔達全員が定位置についたのを見て頷いた俺達は、騎獣に乗ったまま、ゆっくりとアーノルドさんを先頭に、大注目の中を公爵の屋敷のある高級住宅地へ向かったのだった。



 わざわざ、アーノルドさんに同行してもらったのは、まずは彼から俺達をハンプールの英雄として公爵に紹介してもらう為だ。聞くと、公爵自身も若い時にハンプールの早駆け祭りに出た事があるらしい。

 そんな貴族は案外多いらしく、早駆け祭りの勝者は、どの街へ行っても人気者なんだとか。

「じゃあ、私はタロンと一緒にいるね。待ってるから上手くやってね。それじゃあ!」

 右肩に座っていたシャムエル様がそう言って消える。

 シャムエル様は、ひとまずタロン達の様子を見ていてくれる予定だ。



 のんびりと道を列になって歩いていると、時折屋敷の窓から子供が身を乗り出して手を振ってくれたりする。

 中から慌てて子供を捕まえる執事らしき人や母親の姿も見えて、笑っちゃったよ。子供の好奇心が全開なのは、何処の世界でも一緒なんだな。

 笑って手を振り返してやりながら、俺達は目的の建物の前へやって来た。



「今朝一番で連絡を取ってある。まあここは任せろ」

 アーノルドさんがそう言って門の前へ行き、門のところに付いていた豪華な鐘のようなものを鳴らす。

 しばらくすると執事らしき人が出て来た。

 あの暴力執事とは別の人だ。

「これはギルドマスター、ようこそお越しくださいました。皆様方もようこそ」

 深々と頭を下げられて、俺もマックスから飛び降りた。

「これは、噂以上の見事な魔獣ですね」

 少し離れたところから、執事が感心したようにそう言う。少なくとも、あからさまな侮蔑や敵意は感じられない。



「恐れ入りますが、従魔達はこちらの厩舎へお願いします」

 そのまま案内されて、門の中へ入り建物の横側にまわる。

「トビー、ベンはどうした」

 慌てて出て来た若い使用人らしき人に、執事が尋ねる。

「それが、先ほどから姿が見えません。あの……まさかとは思いますが、その大きな魔獣は……」

 マックスやシリウス、デネブ達を見て、明らかにビビっている。まあ、テイマー自体も少なくなってるって言ってたもんな。いくら厩舎担当者でも、さすがにこの大きさの魔獣は怖かろう。

「あ、特に世話は必要有りませんよ。慣れていますが、不意に手を出したりすると、嫌がって噛みつく事も無いとは言えませんから、放っておいてください」

 わざと平然とそう言ってやると、トビー君はかわいそうなくらいに真っ青になってガタガタと震え出した。

「じゃあこいつらの世話を頼むよ」

 アーノルドさんの言葉に、真っ青だった彼は何度も頷き、アーノルドさんとオンハルトの爺さんの馬を受け取り、そそくさと下がって離れて隅の方へ行ってしまった。

「じゃあ、ここで待たせてもらえよな」

 そう言って、手前側の広い厩舎に勝手にマックスを連れて入る。

 見た限り掃除も行き届いていて、干し草が撒かれた床も綺麗なものだ。

 悠然とマックスを先頭に中に入る。

「これは外しておいてやるからな」

 マックスの首元を叩いてから鞍と手綱を取り外してやり、一瞬で収納して見せる。

 執事と、さっきのトビーと呼ばれた彼が揃って息を飲むのが見えたが、あえて知らん振りをする。

「それではこちらへどうぞ」

 出ていく時に振り返ると、厩舎の干し草の塊の奥にタロンとシャムエル様の姿が見えた。

 横の小窓からは、隣の厩舎の屋根に小さな姿のままのファルコもの姿も見える。

「よし、作戦開始だ!」

 小さく合図を送ると、嬉しそうに羽ばたいてファルコが元の大きさに戻るのが見えた。

 ちらりとそれを見て、そのまま俺は建物の中に入って行った。




 通されたのは恐らくは応接室なのだろう。

 壁の柱がめっちゃ豪華な装飾で覆われてるとか、遥かに高い天井だとか、すっげえ細かい模様の絨毯とか、もう見るからに豪華で高そうな家具とか。

 要するに、そこにあったのは、庶民の俺にはどれ一つをとっても絶対に縁が無いようなものばかりだったよ。



「恐れ入りますが、腰のものはこちらにお願い致します」

 部屋に入ったところでそう言われて、俺達は剣帯に装着していた武器を、入り口横に置いてあった棚のような場所に置いた。

『まあ、屋敷に入って直ぐにではなく、部屋まで武装したまま連れて来たんだから、一応は信用されていると思って良いぞ』

 ギイが念話で教えてくれて、俺は小さく頷く。




 真ん中の、でかいソファーに目的の人物は座っていた。

 俺達を見て立ち上がったその人物は案外小柄で、背は俺の方が遥かに大きい。

「ハンプールの英雄の訪問を受けるとは光栄だよ。ようこそ。よく来てくれたね」

 公爵は、そう言ってにっこり笑って右手を差し出した。

「ケンです。はじめまして」

 貴族のしきたりや礼儀作法なんか全然知らないので、ここは知らん顔で普通に挨拶をした。

 しかし、公爵は気を悪くする事もなく、にっこり笑って俺に椅子を勧めてくれた。

 一礼して座る

 まずはそこでお茶を頂き、早駆け祭りの時のことを聞かれて、思いつくままにレースの時の様子を話した。

 腹の中では色々言いたい事は山盛りなんだけど、知らん顔で、平然と主に俺が話をしたよ。

 営業時代を思い出して、ちょっと凹みそうになったのは、気がつかない振りをした。



 しかし、少なくともこうして話す限り、目の前の公爵は知的で中々に紳士的で魅力的な人物に見える。だけど、何だかしっくりこない。何故だか分からないけど。何だか嫌な感じだ。



『なあ、ハスフェル達から見て、公爵の印象ってどうだ?』

 こっそり念話で全員に尋ねると、微妙な反応が返ってくる。

『少なくとも、今現在は我々に対しては敵意は全く無いぞ』

 ギイの言葉に、小さく頷く。

『ううん、少なくとも根っからの悪人ではないみたいだな。だが何か引っかかる』

 ハスフェルの困ったような言葉にも小さく頷く。

『それ、俺も感じる。上手く言えないけど何だか引っかかる』

『そう言う勘には気を付けろ。大抵は当たってるぞ』

 笑いを含んだ声でそう言われて、俺は密かにため息を吐いた。

『じゃあ予定通りで行こう。もうそろそろかな?』

 ハスフェル達が頷くのを見て、俺は素知らぬ顔で提案した。



「今、その時に乗って来た魔獣の従魔も連れて来ていますよ。ご覧になりますか?」

「よろしいですか? 是非お願いします」

 身を乗り出す公爵に、アーノルドさんが平然と提案した。

「確か、こちらには、ご子息も来られていましたよね。お呼びになられては如何ですか?きっとハンプールの英雄の騎獣を見たがりますよ」

 にこやかにそう言われて、公爵は何か言いかけたが、横柄に頷いた。

「確かにそうですね。では、息子もご一緒させていただきましょう。おい、マイヤーを呼んで、クリスを厩舎へ連れてくるように言え」

「かしこまりました」

 さっきの執事がそう言って下がる。

 別の執事が出て来て、そのまま庭に出て厩舎へ回った。裏庭が広くてびっくりしたよ。

 途中、見覚えのある茂みを見つけて、ちょっと笑いそうになって必死になって誤魔化したのは内緒な。




 そのまま大人しく執事の後に続いて、ようやくさっきの厩舎まで来た。

 そして、反対側からは例の坊ちゃんと暴力執事が入ってくるのも見えた。



 さて、これで役者は揃った。

 この後どうなるかは……まさに、神のみぞ知るって事だな。

 まあ、神様はそこにいるけどな。

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