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揚げ物とお供え

「さてと、何から作るかな」

 目の前に積み上げられた本日の戦利品を前に、小さく笑ってそう呟いた俺は、まずはサクラに洗ってきた濡れた手を綺麗にしてもらった。



 宿泊所への帰り道に見つけた米屋で、お米も大量買いしたから、まずはこれを洗っておく事から始める。

 鼻歌まじりに計った米を水場で洗い、一旦水切りしてから改めて水で浸して置いておく。

 一度に炊ける量が限られているので、ご飯は他の作業の合間にどんどん炊いていくぞ。

 今回は、おにぎりも握りたいからご飯は多めに用意する。



「ええと、じゃあまずは手間の掛かる揚げ物から始めるか」

 ハスフェル達が好きな、トンカツとチキンカツ、それから俺が好きな唐揚げ。後は大人気だったハンバーグとチーズ入りハンバーグ、それから今回は、同じタネで作れるミンチカツも作るつもりだ。

 まずは豚肉と、グラスランドブラウンボアの肉を取り出す。

「アクア、これ全部トンカツサイズに切ってくれるか。サクラはこっちな。同じくトンカツサイズだぞ」

 まずは、嬉々としてまな板の横で待ち構えている二匹に、大きな肉の塊を渡して切ってもらう。

 俺が切るより上手いんだから、もう肉を切るのは全部二匹に頼んでるよ。



「切れたよ、ご主人」

「はいどうぞ」

 二匹ともあっと言う間に切ってくれて、それぞれ用意して置いた大きなトレーに山積みにしてくれる。

「じゃあ順番に作っていくとするか」

 小麦粉と卵を手に二匹を見る。

「はあい、お手伝いするもんね!」

 得意気な二匹を撫でてやり、作業に入る前に、さっき洗って水に浸していた米の入った鍋をコンロに置いて火にかけておき、小麦粉の入った瓶の蓋を開けた。

 有能な助手のアクアとサクラに手伝ってもらいつつ、まずは大量のトンカツ各種の下ごしらえを済ませて順番に揚げていくのだが、火の側は怖いらしく二匹とも近づいて来ないので、揚げるのだけは俺が全部やってる。

「でも、揚げるだけだもんな。あ、ご飯第一弾はそろそろ炊き上がるかな」

 さっき弱火にしておいた鍋の様子も見ながら独り言を呟き、ご飯の火を止めて大量のトンカツをどんどん揚げていく。出来上がって油を切ったら、まとめて皿に盛ってサクラに預けていく。

 途中、炊き上がったご飯もおひつに移して新しい鍋をまた火にかける。

 ご飯もどんどん炊くぞ。



「はいどうぞ」

 トンカツの端っこの小さな部分を揚げたのを半分に切って、お皿の横で目を輝かせて見ているシャムエル様に渡してやる。

「わあい、これが本当の味見だね」

 嬉しそうにそう言って、両手でトンカツを持って齧り始めた。

「熱いから気をつけてな」

 笑って興奮してもふもふになってる尻尾を突っついてやり、俺も小さなトンカツを口に入れた。



 それが終われば、次は唐揚げ。それからチキンカツ各種。

 これは、ハイランドチキンの残り全部と、グラスランドチキンのもも肉を中心に作った。

 大量の揚げ物第一弾が終わった所で、ちょっと休憩を挟む。

「沢山作ったみたいに思ったけど、考えてみたら今まで作ってた量のだいたい半分だよな」

 手早く淹れた緑茶を飲みながら、今作った量を数えて笑った。



「あ、そうだ」

 お茶を飲んでいた時に不意に思い出して、さっき屋台で買ってきたお団子とおはぎの包みを一つずつ取り出す。

「ええと、どこが良いかな」

 部屋を見回して、ベッドサイドに置いてあるミニテーブルに目をつけた。

「よし、あれにしよう。でもベッドの横はちょっとなんだな……」

 もう一度部屋を見回して、何となく、広い空間が開いてる窓辺に持って行き、壁際に持って来た机を置く。

「ええと、サクラ。ここに掛けられるような大きな布って有るか?」

 俺の言葉に、伸び上がったサクラが俺が指差すミニテーブルを見てちょっと考える。

「ええとね、その机の大きさだったら、これかこれ……かな?」

 自信無さげに出してくれたのは、最初にシャムエル様から貰った何枚かの布みたいだ。

「ああ確か、結構大きいのもあったな。薄かったから毛布には向かないと思って、預けたまますっかり忘れていたよ」

 大判の風呂敷みたいな、真っ白で綺麗な正方形の布をミニテーブルにかけてみる。

「お、なんか良い感じになったぞ」

 自分の仕事に満足していると、机から俺の右肩に移ったシャムエル様が不思議そうに覗き込んできた。

「ねえケン、さっきから何をしてるの?」

「祭壇を作ってるんだ。まあ大層なものは無いから気持ちだけどな」

 俺の言葉に、シャムエル様は首を傾げている。

「これが祭壇? 誰の為の祭壇なの?」

 大真面目に質問されてしまい、俺はちょっと焦った。

 まあそうだよな。神殿で見た豪華な装飾が施された祭壇を思い出して俺は恥ずかしくなった。

「いやあ、そんな大したもんじゃ無いけどさ。シルヴァとグレイ、それからレオとエリゴールにも作った料理や買ってきた美味そうなものをさ……食べてもらうつもりでお供えする場所があれば良いかと思っただけだよ」

 シャムエル様は無言で俺を見つめ、それからまだ何も置かれていないミニテーブルを見つめた。

「じゃあこれは、帰って行った四人の為の祭壇なんだね」

 小さな声で言われて、誤魔化すように小さく何度も頷いた。

「で、まずはこれをシルヴァとグレイに」

 そう言って、おはぎと団子の包みをそのまま置こうとして、ちょっと考えてテーブルに出してあったお皿にそのまま包みごと乗せて机に置いた。

「サクラ、さっきの盛り合わせのお皿を出してくれるか」

「はい、これだね」

 サクラが出してくれたのは、今日作った揚げ物を全種類乗せた盛り合わせの大きなお皿だ。それから、小さめのお茶碗に、炊き立てのご飯もよそって隣に並べる。

 一応、お箸とフォークとスプーンも並べて置き、新しいお茶も淹れて並べた。

「少しですが、どうぞ」

 そう言って、手を合わせて目を閉じる。



 こんなの、ただの自己満足だって分かってる。だけど、急にいなくなってしまった彼女達に何かしたかっただけだ。



 深呼吸をして目を開いた俺は、驚きに目を見開いたまま固まった。

「シャ、シャムエル様……何してるんですか?」

 俺が見たのは、今まさにお供えしたトンカツを掴もうと、皿の横に立って手を伸ばすシャムエル様だったのだ。

「何って、これは彼らの分なんでしょう?」

「いや、そうだけどさ……」

 当然のように逆に聞かれてしまい、戸惑いつつも頷く。

 まあ、神様なんだから、お供えは全部自分の分だと思ってるのかもしれない。うん、別に食うのは構わないけど、ちょっと、それ全部は多いと思うぞ。

「じゃあこれは届けておくね。想う気持ちがこもってるから喜ぶと思うよ」

 そう言って、並べてあった揚げ物の皿とおはぎと団子の皿をあっという間に全部収納してしまった。

「お皿は後で返すね。じゃあ、ちょっと待っててね」

 そう言うと、いきなりシャムエル様は消えてしまった。



「ええ? ちょっと待てよ。マジで持って行ったのか?」

 叫んだ俺は……間違ってないよな?

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― 新着の感想 ―
まさかの神界へのシャムエル宅急便とは!(≧◇≦)
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