大量の買い出し
「よし、まずは屋台で色々出来上がってるのを買ってから、朝市を見に行って、聞いた店に漬物とか塩昆布を買いに行こう。パンや玉子、各種肉なんかも在庫がほとんど無いからな」
人混みに消えるハスフェル達と従魔達の後ろ姿を見送り、それから気を変えるようにそう言って、一度深呼吸をした。
まずは広場の屋台をひと回りする。
さっきハスフェル達が食べていた串焼きは、味噌だれっぽいのに漬けた肉を焼いてあるもので、すごく香ばしい良い匂いがしていたんだよな。
「おお、これも良いな。忙しい時に、こう言うのがあると便利だもんな」
覗き込むと、今焼けたばかりなのが大量にお皿に積み上がっている。味見を兼ねてひと串買ってみる。
ひとかけシャムエル様にあげて、残りは俺が食べた。
「おお、予想以上に美味いじゃんか。よしよし、これは大量買い決定だな」
もう一度覗いて、肉を焼いていた爺さんにお願いして、焼けているのをまとめて購入。根こそぎ無くなってちょっと申し訳ないかと思ったんだけど、すぐに焼くから良いと笑って今焼けてるのをほぼ全部売ってくれたよ。
それから順番に店を覗いて、気になるものを買いまくった。
串焼き、焼き魚、焼きもろこしとじゃがバター!
串団子の店では、みたらし団子っぽいのも見つけて大量買い。
そして見つけました。あんこ。
まあ、俺はそれ程好きって訳じゃ無いけど、おはぎと、きな粉おはぎも買ってみた。うん、たまには甘いのも欲しくなるだろうからね。
「シルヴァやグレイなんかは、このおはぎを見たら喜んだだろうな」
竹の皮みたいなのに包んで渡してくれたおはぎを、アクアゴールドの入った鞄に放り込みながら、ふとそんな事を考える。
「そっか、あれでも一応神様なんだし、戻ったら祭壇っぽいのを作ってお供えしておこう」
自分の思い付きにちょっと笑って、鞄を背負い直した。
屋台をひと通り制覇した後、教えてもらった朝市をやってる通りへ行ってみた。
規模はそれほどでもないが、新鮮な野菜や果物が沢山売られていたので、ここでも手当たり次第に良さそうな物を買っていく。
そして思った。デカいマックスやニニ達を連れていないと、大量購入する度に本当に良いのかと心配されるんだよ。
まあ気にせずガンガン買ったけどな。
それからまた別の通りへ行って、品薄になってた卵やマヨネーズ、鶏肉、牛肉と豚肉各種もまとめて塊でお買い上げ。
その後、こっそり店員に聞いて教えてもらったお勧めのパン屋へ。ここでも食パンや丸パンを中心に色んなパンを大量購入。
よしよし、空いてたパン用の木箱がほぼ埋まったぞ。
定番の買い出しはまあこんなもんで良いだろう。って事で、教えてもらった塩昆布を売っているのだと言う通りへ行ってみる。
「おお、あれはどう見ても乾物屋だ!」
手前にあった店を覗いてみると、店頭に探していたものがしっかり並んでたよ。
そう、干しわかめ発見だ! 当然、まとめてお買い上げ。
「わかめはサラダにも使えるからな。よしよし、これでカロリーオフメニューが作れるぞ。がっつり食うハスフェル達に合わせると、どうしても作り置きが揚げ物中心になりがちなんだけどさ、俺は和食が食いたいんだ。カロリーオフメニューが食いたいんだよ!」
嬉々としてそう呟きながら店に入り、干しわかめを大量購入。さり気なく店員さんと話をして、料理の仕方を確認した。
干したわかめは、水で戻すだけで軽く茹でればそれで良くて、スープに入れたりサラダにしたりするとの事。
よしよし、俺が知ってるワカメと同じだな。
そして、すぐ近くにあった店でこれも発見。
そう、もう一つの探し物。塩昆布である。
屋台で食べた、刻んだ白っぽい粉がまぶしてあるのや、佃煮も色々あるよ。
おお、これでおにぎりの種類が増えるぞ!
密かにガッツポーズをして、いそいそと店に入る。
その店で、出汁を取るための分厚くて大きな昆布も発見。以前ハンプールでギルドの紹介で買った、今使っている昆布よりも分厚くて大きい。
聞いてみたら、簡単な昆布の出汁の取り方を丁寧に教えてくれたよ。
当然、全部まとめてお買い上げ。
うん、昆布って案外高いんだな。それなりの金額になって密かに驚いたのは、内緒だ。
それから、乾物があるのなら絶対あるだろうと探していたら見つけました。そう、自力で出汁を取るなら絶対必要な鰹節。
正確には材料はカツオじゃ無いのかもしれないけど、見た目はそのまんま鰹節だ。
削られて山盛りになってるそれを見て、吸い込まれるように近寄って行く。
「ああ、定食屋の厨房でいつも嗅いでた香りだ……」
思わず深呼吸をして、我に返って慌てて周りを見回す。
鰹節屋の店先にいた爺さんと、視線が合って満面の笑みで頷かれた。
「お若いの。削り節が好きかね?」
話しかけられて、笑顔で思わず何度も頷く。
「ええ、この香りって俺の思い出の味なんです」
故郷の味って言いそうになったんだけど、何処だと聞かれたら困るのでそう言って誤魔化した。
だけど、爺さんはそれを聞いて嬉しそうに笑って、手招きしている。
当然店に入って見せてもらい、出汁を取る時に使う削り節を大量購入。
鰹節を削る道具もあると言うので、大きな鰹節の塊と一緒にこれも購入。美味しい出汁の取り方や、鰹節の削り方も教えてもらった。
ああ、早くこれで冷奴が食べたい!
「さて、これで一通り買ったかな? まあ足りなければまた買いに来れば良いな。じゃあもう疲れたし、何か食って帰ろう、それで午後からはまた料理三昧だな。今回は自分の為の和食を作るぞ!」
大きく伸びをしてリュックを背負い直した俺は、屋台のある広場へ戻って、照り焼きっぽい串焼きとおにぎりを買って、そばに置いてあった椅子に座った。
「はあ、買い出しって結構疲れるよな」
そう呟いて水筒を取り出して水を飲んでいると、おにぎりの横にシャムエル様が現れた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! じゃん!」
最近のブームらしい、また新作味見ダンスだ。
今回は、お皿を片手で持って、クルクル回しながら飛び跳ねて尻尾を振り回しながら踊ってる。最近では毎回違う踊りになってるから、これを全部自分で考えてるなら大したもんだと密かに感心していた。
ジムに通ってたけどマシントレーニングばっかりで、ダンスレッスンはほとんどしたことが無い俺は、実は、毎回シャムエル様のダンスを見るのを楽しみにしています。
……実は俺、人数合わせで参加させられたジムのダンスレッスンで、言われるままにボックスステップを踏もうとして、自分の足を踏んで転んだ事があるんだよな……。
黒歴史を思い出して遠い目になって黄昏ていたら、お皿を持ったシャムエル様にバンバンと手を叩かれた。
「ケンったら、どうしたの? 早く入れてよ」
そう言ってお皿を差し出される。
「ああ、ごめんごめん。はいどうぞ」
我に返った俺は、慌てて串焼きの肉ひとかけらと、おにぎりも一塊りちぎってお皿に乗せてやった。
「はいどうぞ、串焼きとおにぎりだよ」
「わあい、美味しそうだね」
嬉しそうにそう言って、おにぎりのかけらを両手で持って齧るシャムエル様を見ながら、俺も、おにぎりに大きくかぶりついた。
うん、飯が美味いのってやっぱり大事だよな。頑張って作ろう。