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収納って……どうやるんだ?

 ぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみ……。

 カリカリカリ……。

 つんつんつん……。



 気持ち良く腹毛に埋れて半分まだ寝ていた俺は、眠い目を擦って大きな欠伸をした。

「おう……起き、るよ……」

 だけど当然、いつもの如くそのまま撃沈。

 耳元で呆れたようなため息が聞こえたが、眠くて反応出来ずにそのままスルーした。

「ご、しゅ、じん」

「お、き、て」

 耳元で、ハートマークが付いてそうな甘い声で左右から囁かれる。

 うん、これはこれで良いかも……。

 半寝ぼけの頭でそんな事を考えていると、いきなり上向いて寝ていた俺の両頬を、思いっきり舐められたよ。

 ジョリジョリって音が、リアルに聞こえたよ。

「起きる起きる! 待って痛い!」

 慌ててそう叫んで逃げるように横に転がる。そしてそのまま、見事にベッドから床に転がり落ちました。



「おお、マックスはもう起きてたんだな……助けてくれてありがとうな」

 呆然と天井を見上げてから、何とか起き上がった俺は、床に一瞬で伸びて広がり受け止めてくれたアクアゴールドを、手を伸ばして撫でてやった。

「じゃあ起きるか」

 大きく伸びをしてから、まずは水場で顔を洗って口をゆすぐ。

 分解したスライム達が跳ね飛んできたので、順番に受け止めてそのまま水場に全員放り込んでやった。

 ファルコとプティラも飛んできて、気持ち良さそうに水浴びを始めた。

「この世界の何が良いって、街や郊外で綺麗な水が豊富にあるって事だよな」

「だって、水は命の源だもの。切らすわけにはいかないでしょう?」

 水から出て来たサクラに綺麗にしてもらい、身支度を整えていると声が聞こえて俺は振り返った。

「おう、おはよう。確かにそうだな。水は、そりゃあ無いよりはあったほうが絶対良いよ。今後もそれでお願いします!」

「もちろんだよ。私はこの世界の人達に、出来るだけ笑顔で暮らして欲しいからね」

「良い考えだと思うから、これからもそれでお願いします!」

 とりあえず、両手を合わせて拝んでおきました。



『おはよう。もう起きてるか?』

 その時、頭の中にハスフェルの声が聞こえた。

「おう、おはよう。今身支度が済んだところだよ。今から従魔達とベリーとフランマに飯を出してやるところ』

『了解だ。じゃあ準備出来たら言ってくれ』

 そう言って気配が途切れる。

 振り返った俺は、良い子座りをしているタロンにグラスランドチキンの胸肉を出してやり、ベリーとフランマに果物の箱を出してやった。

「しかし、マッチョな野郎ばっかりのパーティになったな」

 今の顔ぶれを思い出して、ちょっと虚無の目になったよ。

 うう、女性冒険者様はドコー!




 取り出した果物の残りは、ベリーが収納しておくと言うので、蜜桃や葡萄を始め、色々と適当に渡しておいた。

 まあ今更って気もするけど、この前俺が水路に落ちた時に思ったんだよ。食糧は、ある程度分散して持っておくべきだろうって。

 ハスフェル達は、美味しいかどうかは別にしてそれぞれに自分用の携帯食をかなり持っているみたいだったし、俺が持っているのを見てからは、たまに屋台で気に入った料理を自分で買って収納したりもしているみたいだ。

 まあ、全員収納の能力持ちなんだから、非常用の食料ぐらいは自分で持っておくべきだよな。



 そこまで考えて我に返った。

「あれ……この理論でいくと、俺が一番のたれ死ぬ確率が高いじゃんか。サクラとはぐれたら、俺って金も食料も水も、最低限しか持ってねえよ」



 いつも背負ってる鞄に入っているのは、金貨十数枚ほど入った革の巾着と、一人用の水筒。それから手拭き用の布ぐらいだ。

「うーん、これはどう考えるべきだ?」

 思わず腕を組んで考える。

「どうしたの?」

 右肩に座ったシャムエル様が、心配そうに覗き込んできた。

「まあ良いや。持ってないのは仕方がない。お願いだから俺から離れないでくれよな」

 今は金色になってるアクアゴールドを捕まえて、気が済むまで撫でたり揉んだりして遊んでやった。

「今なら、少量の収納なら付与してあげられるよ」

 耳元で聞こえたシャムエル様の言葉に、俺は勢い良く振り返った。

「是非お願いします!」

「うわあ、すごい食い付き。ええ、そんなに欲しかった?」

 ドン引きしたシャムエル様にそう言われて、俺は苦笑いしてとにかく何度も頷いた。

「だって、収納の能力なんて俺の世界には無かったからさ。長い旅には必須の能力じゃないか」

「はいはい、そうなんだね。じゃあ待ってね」

 俺の胸元に回ってよじ登って来たシャムエル様を見て、俺はサクラに丸椅子を取り出してもらってとにかく座った。



「収納と保存の能力を授ける。決して悪事に使う事なかれ」

 例の神様みたいな厳かな声でそう言ったシャムエル様は、俺の首元に手をついてしばらくじっとしていたが、どうやら終わったらしく肩に戻ってきた。

「どう、分かる?」

 そう言われて、内心ワクワクしながら気配を探ってみる。



「あ、なんかわかった気がする……」

 しかし、思ったよりも気配は小さく感じる。

「ええと……頂いた収納能力って、どれくらい?」

 何だかよく分からなくて、右肩に座ったシャムエル様に質問する。

「その鞄で言えば、十個分くらいかな。人ならこれが限度だよ」

 持っている鞄は、やや縦長だが、アウトドアの店なんかで売ってるリュックくらいの大きさはありそうだ。

 これが十個分……おお、結構入るよ。

「充分だよ。ありがとうございます!」

 目を輝かせてお礼を言った俺は、早速やってみようと思って鞄を開けた。

 水筒を取り出す。じゃあ、まずはこれを入れてみよう。



 しかし、いざやってみようとすると何だかよく分からない。俺には完全に未知の世界だよ。

「ええと、どうやるんだ?」

 水筒を持って、上下左右に色々と動かしてみるが、水筒が手から消えることは無い。

「何だろう、この雲を掴むような感じは……」

 どうにも分からなくて、諦めて鞄に水筒を戻した。

「あれ、もしかして今入った?」

 確かに、水筒を持っている感じがする。

 覗き込んだ鞄に水筒は無い。

「おお、出来たみたいだ。で、これを……どうやって取り出すんだよ!」

 思わず叫んだ俺は悪く無いよな。

「駄目だ、何だこれ。さっぱりやり方が分からない」

 困り果てて、丸椅子に座って頭を抱える。



『鞄に手を突っ込んで水筒を取り出してみろよ』

 いきなり頭の中に笑ったハスフェルの声が聞こえて、俺は飛び上がった。

「え? 鞄から出す?」

 思わず周りを見回して、念話だった事を思い出して小さく吹き出す。

 それから、言われた通りに足元に置いた鞄を手に持った。

 水筒を取り出すイメージを思い浮かべて、鞄に手を突っ込んだ。

「あ、出てきた」

 言葉の通り、さっき無意識に入れた水筒が、俺の手の中にある。

 無言でキャップを開けて中の水を飲んだ。

 半分くらいに減っていたので、急いで水場に行って残りを流してすすいでから、新しい飲み水を満タンまで入れる。

 しっかり栓をして、ゆっくり鞄に入れてみる。

「駄目だ。入らない!」

 普通に鞄に収まる水筒を見て、俺は膝から崩れ落ちた。

「まあ、これは慣れだからな。頑張って出し入れする練習をすれば出来るようになるさ。多分な」

 普通に声が聞こえて振り返ると、アクアゴールドが開けた扉からハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんが揃って部屋を覗き込んでいた。

「いつまで経っても連絡が無いから、部屋で倒れているんじゃないかと心配したぞ」

 笑うギイの言葉に、オンハルトの爺さんも笑って頷いている。

「良い能力を貰ったじゃないか。頑張って使いこなせるようにならないとな」

 部屋に入って来たからかうようなハスフェルの言葉に、俺は頭を抱えて机に突っ伏した。

「使いこなすのなんて絶対無理っぽい。何がどうなって出し入れするんだか、俺にはよく分からないよ」

「だから慣れだ。せっかく貰った能力なんだから、頑張って練習して使いこなせるようになれよな」

 笑ってつむじを突かれて、俺は情けない声で返事をするしか無かった。



「ご主人大丈夫?」

 心配そうなアクアゴールドの言葉に、苦笑いした俺は顔を上げた。

「まあ、何とか使えるように練習するよ。お前達は凄いな。最初から、収納の能力を易々と使いこなしてたもんな。今度教えてくれよ」

 手を伸ばして、もう一度捕まえてアクアゴールドをおにぎりにしてやる。

「任せて〜!」

「いくらでも教えてあげるからね!」

 アクアだけでなく、サクラの声も聞こえて、笑った俺はアクアゴールドを鞄の中に入れてやった。

「その姿の時は、人目に触れないようにしないとな。じゃあ食料の収納は今まで通りにサクラに、武器やジェムの収納も、今まで通りにアクアにお願いするよ。俺は、自分の水筒とお金をまずは自由に出し入れ出来るように頑張って練習するよ」

「は〜い。じゃあ頑張ってね」

 鞄から返事が聞こえて、俺は小さく笑って鞄を背負い直した。



「せっかく頂いた能力だけど、すぐに使いこなすのは俺には無理みたいだよ。まあ、暇を見て頑張って練習します」

 シャムエル様にそう言うと、苦笑いして頷かれた。

「やっぱりそうなるよね。人の子の場合は、収納は生まれた時からの能力だからね。ある意味、無意識に使いこなせるようになるんだ。だからいきなり収納の能力持ちになったケンが戸惑うのは当然だよ。私は気にしないから、無理しない程度に頑張って練習してね」

 慰めるみたいに頬を撫でられて、小さくため息を吐いた俺だった。



「何とか落ち着いたようだな。それじゃもう行くか」

 同意するギイとオンハルトの爺さんの声も聞こえて、俺は改めて部屋を見回した。

「忘れ物は無いな。じゃあ行こうか。まずは朝飯だ」

 ついて来るマックスの首を叩いて、俺達は揃って部屋を後にした。

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