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屋台で発見!

 職員の人を見送り、いったんそれぞれの部屋に行ったが、すぐに俺の部屋に集まって来る。

「どうする? ここで食べるか?」

 サクラを抱き上げたが、ハスフェルは首を振った。

「ここは一日中屋台が出てるんだ。賑やかでケンは好きだと思うぞ」

「おお、それは行きたい!」

 目を輝かせる俺を見て、全員が立ち上がる。

「だけど通路は狭いから、大きな従魔は連れて行かない方がいいぞ」

 マックスを見ながらギイがそんな事を言う。

「ええと、それじゃあ……」

 ファルコが自己主張するように、留まっていた椅子の背から俺の左肩に飛んできて留まった。

 一瞬で合体したアクアゴールドが、いそいそと鞄に潜り込む。モモンガのアヴィは俺の左腕上腕部にしがみ付いて離れようとしない。

「じゃあ、ニニちゃん達は私が面倒見ておきますから、どうぞ行って来てください」

 ベリーの声に、俺は笑って頷き、マックスの首に抱き付いた。

「そうなんだってさ。じゃあ飯食ってくるから、留守番よろしくな」

「分かりました。じゃあ気を付けて行ってきてくださいね」

「飯食って来るだけだよ」

 順番に全員を撫でてから、俺たちは夕食の為に、夜でもやってると言うその屋台へ向かった。




「おお、良いなこれ!」

 到着した広場を見て、俺は思わずそう言って満面の笑みになった。

 ハンプールの中央広場よりも広いその場所は、大小の屋台で埋め尽くされていた。

 これはあれだ、建物は石造りや木造でもヨーロッパ風なんだけど、屋台はなんと言うか雑多でごちゃ混ぜのすごいエネルギーを感じる。

 そうだよ。この雑踏のごちゃごちゃ感は、妙にアジアンチックなんだよな。

 例えば目の前の屋台には、並んだ大鍋が幾つも火にかけられていて、ハンプールの商人ギルドのアルバンさんが持っていたような、大きな業務用のコンロが使われている。そして、メニューも何だかアジアンチックなものがある。

 肉まんみたいなのや、焼き栗や焼きもろこしなんかもある。

 見慣れたホットドッグやハンバーガー、スープや串焼きの店に混じってあった、ある一軒の屋台に俺は吸い込まれて行った。



「おお、夏だけどおでんの屋台発見!」

 そう、そこで売っていたのは、どう見てもおでんだったのだ。

「練り物だ。ジャガイモだ。大根だ。蒟蒻(こんにゃく)だ。そして焼き豆腐と厚揚げ〜!遂に見つけたぞ。うん、これは間違いなく豆腐だ」

 鍋を覗き込んだ俺は、思わず拳を握ってそう呟いた。って事で、もちろん今日の夕食はここに決定!



 とりあえず、大根とジャガイモ、それから厚揚げと焼き豆腐と練り物を幾つか買ってみる。

 ここで食べると言うと、木のお椀にまとめて入れてくれた。そして当然のようにお箸が添えられる。

「ああ、屋台でおでん食えるとか、何この幸せ……」

 屋台の横に並んだ丸太のベンチに座らせてもらい、とにかく食べてみる。

「うん、若干出汁は甘めだが、間違いなく俺の知るおでんだよ」

 ちょっと感動のあまり泣きそうだ。いや、もう泣いてるよ。



 鼻をすすりながら涙ぐんでおでんを食う俺を見て、ギイとオンハルトの爺さんがドン引きしてるよ。

「もしかして、これもお前の故郷の味か?」

 以前、俺が屋台村でご飯や焼き魚を食いながら涙ぐんでいたのを覚えていたらしいハスフェルが、苦笑いしながら俺を覗き込んでくる。



 ごめん、君らの存在をすっかり忘れていたよ。



「あはは、ごめんごめん。そうなんだ。これも俺の故郷の料理でさ。特にこの食材。豆腐って言うんだけど、これを探してたんだよ」

 厚揚げを口に入れて、俺はもう本気で泣きそうになった。

「良かったな。ここの屋台も持ち帰り出来るから、頼めば持ってる鍋に入れてくれるぞ」

「おお、それは良い事を聞いたよ。是非買って帰らせてもらうよ」

 そう言ってようやく笑い、また食べる。

 勝手に鞄から出てきたテニスボールサイズになったサクラが、俺に合図して一瞬で涙と鼻水でぐちょぐちょになった顔を綺麗にしてくれた。

「ありがとうな」

 手を伸ばして鞄に戻ったサクラを撫でてやり、俺はこの世界のおでんを満喫した。



「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャン!」

 俺が食べるのを見て、お皿を持ったシャムエル様が、丸太の上でくるりくるりと回転しながらとステップを踏んでいる。また新バージョンだな。

 最後のジャン!っで決めポーズでお皿を差し出すので、笑った俺はちょっとずつおでんを箸で切って入れてやった。

「へえ、これは初めて食べるね。うん美味しい」

 竹輪を掴んで齧るシャムエル様は、たまらなく可愛かった。

 ああ、その膨れた頬を俺にツンツンさせてください!

 悶絶しつつ、残りのおでんを一緒に味わった。



 そして、当然空いていた大きな鍋を取り出して全種類たっぷりと入れてもらったよ。

 それから、用意してもらっている間に屋台の店主にさり気なく話を振った結果、この豆腐は、米が主食なのだと言うカデリー平原の辺りでは普通に食べられている事が分かった。

 ただし、生の豆腐は保存が効かない為、米や味噌や醤油などの様に、他の地域にはあまり流通してないそうだ。それはつまり、豆腐が欲しければカデリーって街まで行かなきゃならないって事だな。

 それならこの豆腐はどうしたのかと思って聞いてみたら、自分で作るのだと言われた。おお、すげえ。

「作ってるのは自分で使う分だけだから、申し訳無いけど材料で分けてやる程は出来無いんだよ」

 申し訳無さそうにそう言われて、俺は慌てて首を振った。

「いやいや、ちゃんと料理してくれたものを買いますよ」

「豆腐が好きなら、この先におすすめの店があるぞ。俺の友達がやってる店なんだけど、良かったら覗いてやってくれ」

「そうなんですか。一回りするつもりなんで、寄ってみますね」

 大鍋を受け取りそのまま鞄に入れる俺を、無言で見つめた後、ぼそっと呟いた。

「収納の能力持ちか。羨ましい限りだな」

「騒がれたくないんで、黙っててください」

 誤魔化す様にお辞儀をして小さな声でそう言うと、苦笑いして頷いてくれた。



 それから、順番に屋台を見て回った。

 ハスフェル達は、大きな肉の塊の突き刺さった串焼きを買って齧りながら歩いている。

「あ、ここだな。うわあ味噌田楽だ!」

 そこに並んでいたのは、串に刺さった豆腐やこんにゃく、野菜などで、味噌を塗って焼いてある。

「まだ食べられる。よし食うぞ」

 そう呟くと、豆腐とこんにゃく、それから茄子っぽいのを買ってみた。



「うん、これも大量買い決定だな」

 やや甘めの味噌だれが最高に美味しい。お願いして大量購入して手早く収納する。

 そしてさっきから気になってた、香ばしい良い香りがする屋台を覗いて俺はもうちょっとで奇声を上げるところだった。

「焼きおにぎり発見。しかも、味噌と醤油がある……」

 他の半分ぐらいしか無いような小さな屋台で、婆さんと、まだ少年と言った方がいいような年齢の孫らしき子供が番をしている店だ。

 だけど、並んでいるのは大きめのおにぎりでどれも美味しそうだ。

 当然、ここでもお願いして大量買いしました。主に俺のために。



「うう、早くバイゼンにも行きたいけど、カデリー平原ってのも気になるぞ」

 歩きながら思わずそう呟くと、三人が揃って何か言いたげに俺を見る。

「ええと、何?」

「気になるなら行けばいいじゃないか。別に誰かと約束している訳じゃないだろう?」

「そりゃあそうだけど、このあとはバイゼンへ行くって言ったしさ」

「我らは別に構わんぞ」

「どうせ、当てなんて無い旅なんだから、自由を楽しめば良いのに」

 右肩に座ったシャムエル様にそう言われて、俺は思わず笑っちゃったよ。

 確かにその通りだ。

 別に、勝手に目的地を変更しても、何ら問題はない。彼らも気にしてないみたいだ。

「じゃあ、ここを出たらそのカデリーって街へ行く事にする。そこでしっかり食材を買い込んで、それからバイゼンに行くよ」

「じゃあ、次の目的地は決定だな」

「カデリーなら転移の扉が近くあるから、すぐに行けるよ」

 シャムエル様の言葉に、俺も笑って頷いた。

 よし、こうなったらワカメも探してやる!

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