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それじゃあね

「う〜ん。やっぱりケンが作ってくれるお料理は美味しいわ」

「美味しいわよね。本当に何が違うのかしら?」

 シルヴァとグレイの二人が、食べながらしみじみとそんな嬉しい事を言ってくれる。

「確かに美味い。特に、このソースは絶品だ」

 オンハルトの爺さんの言葉に、レオとエリゴールがうんうんと食べながら頷いている。

「なんだよ。そんなにおだてても、これ以上何も出ないぞ」

 半分ほどに減った肉を切って口に入れながら、そう言って笑う。

 それから、いつもシャムエル様が座っている、自分の右手の横を見る。

 隣にあの小さいのがいないだけで、なんだか大事なものを忘れているような気になる。



「食べるかどうか分からないけど、一応置いといてやるか」



 そう呟き、ステーキの真ん中の部分を一切れ大きく切って避けておく。

 サクラに頼んで小皿を出してもらい、他の野菜とご飯も少しだけ一緒に盛り付けて、そのままサクラに預けておく事にした。

 残りは、ソースごとご飯に乗せて、豪快にステーキ丼にする。

 うん、自分で作って言うのもなんだが、この玉ねぎのステーキソースはやっぱり美味い。



 大満足で食事を終え、のんびりと赤ワインを楽しんでいると、何の前触れも無く、いきなり机の上にシャムエル様が現れた。

「ああ、私が一生懸命仕事してる間に、先にご飯食べたね!」

 バンバンと足を踏み鳴らして怒ったようにそう言ってるシャムエル様は、正しく跳ねる毛玉状態。

「そう言うだろうと思って、ちゃんと置いてあるよ」

 飲んでいたグラスを置いて、サクラにシャムエル様用に取ってあったお皿を出してもらう。

「はいどうぞ。グラスランドブラウンブルのステーキだよ。飲み物は赤ワインで良いか?」

 目を輝かせるシャムエル様の目の前に、ゆっくりとお皿を置いてやる。盃には、今飲んでいた赤ワインをちょっとだけ入れてやる。

「わあい、ありがとうケン! お腹空いてたんだよね!」

 そう叫ぶと、両手でいつもよりもやや大きめのお皿を持って、顔面からステーキにダイブしていった。

 それを見ていた神様達が、揃って吹き出す音が聞こえた。



「ふう、満足満足。ご馳走さま。美味しかったよ」

 目を細めたシャムエル様が、そう言って綺麗になったお皿を返してくれる。

 残りの赤ワインも一息で飲み干し、あっという間に綺麗にして自分で収納してしまった。



「それで、今どう言う状況だ?」

「探し回って、何とか洞窟製作担当のスペランクを見つけたよ。それで問い詰めたらやっぱりケンが言った通りだったの。ここは、新しいタイプの地下迷宮なんだってさ。今のところ作るのはここだけらしいから、そう簡単に攻略出来ないような超難しいのにして! って、お願いして来ました!」

 最後は胸を張ってドヤ顔になる。



 シャムエル様……何故に、そこでドヤ顔?



 しかし、話を聞いていたハスフェル達は、苦笑いしつつも頷いた。

「成る程。洞窟作りの職人の神、スペランクがもう手をつけているのなら、今更俺達が何か言っても仕方あるまい。では、次にここが開いたら、じっくり各階を隅から隅まで調べ尽くして、遊び倒してから最下層を攻略すれば良いんだな」

「ちょっと待て! お前ら、そこで何故にそんなに嬉しそうに笑うんだよ!」

 俺のツッコミを、ハスフェルとギイは揃って鼻で笑ってるし。

「まあ、どれくらいで開くかも分からんからな。これは今後の楽しみに取っておくよ」

 顔を見合わせて頷き合ってる金銀コンビから、俺は思わず距離を取った。

「心配するな。お前さんの悪運も、きっと全部無くなってるさ」

 うう、リセットされてれば良いけど、もっと怖い事になってたら俺はもう本気で泣くよ。



「さてと、どうする? このまま一旦ハンプールに戻るか?」

 大きく深呼吸をして、気分を変えて俺は振り返った。

 とにかく、クーヘンに貰ったペンダントを失くした事を謝らないと。

 身代わりになってくれたって考えたら、確かに気分は楽になったけど、それでも作ってくれた物をこんなに早く失くすなんて、やっぱり謝らないといけないよな。

「そうだな。それでお前らはどうするんだ?」

 俺の言葉に頷いたハスフェルが、レオ達を振り返って妙な事を聞いている。

「え? 何をどうするんだ?」

 不思議に思って俺も見ていると、全員揃って驚く事を言い出したのだ。



「じゃあ俺達はここまでだな。ありがとう。楽しかったよ」

 笑顔のエリゴールが突然そんな事を言い出す。

「うん、楽しかったね。料理の勉強も出来たから、今度会う時までにはもう少しは手伝えるようになっておくね」

 少し寂しそうに笑ったレオまでが同じ事を言ってる。

「本当に楽しかった。それにしても、こんなに名残惜しくなるなんて正直言って思って無かったわ」

「うん、本当に楽しかった。ご飯も美味しかったしね」

 グレイとシルヴァが、頷き合ってそんな事を言う。


 俺は思わず、縋るようにハスフェルの腕を掴んだ……何これ、どこの丸太だよ。

 掴んだ丸太のような太い腕をマジマジと見て、脱線しそうになった思考を引き戻す。

「何をそんなに驚く? 元々、彼らとは地下迷宮までだって言っていただろう?」

 逆に驚いたように言われてしまい、俺の方が絶句する。

 確かに、そんな事言ってたような気がする。



 半ば呆然と顔を上げて振り返ると、苦笑いしているレオと目が合った。

「まあ、元々お祭りの間だけの予定だったんだよね。それが思いの外楽しかったものだからさ。つい調子に乗っちゃったんだ」

「でも、そろそろ戻らないと、向こうでも色々とやらなきゃいけない事が溜まってきてるんだよ」

 苦笑いするエリゴールの言葉に、俺は最初に彼らが来た時に、シャムエル様から聞いた説明を思い出していた。



 確か、レオが大地の神様、つまり恵みの神様で、エリゴールが炎の神様。グレイが水の神様で、シルヴァが風の神様……いわゆる世界を構築する四大元素だよな。そりゃあ、確かにいつまでも遊んでられないか……。

 納得はしたものの、突然訪れた別れに俺は言葉を失くす。



「そんな顔しないでよ。笑って別れるつもりだったのに」

 シルヴァが手を伸ばして俺の鼻を軽く掴む。

「べ、別に……泣いてません!」

 あ、これって泣いてるって白状したようなものかも。

 内心で焦ったが、そんな俺を誰も笑わなかった。



「もう、しっかりしてよね!」

 いきなりシルヴァが俺の懐に飛び込んできた。


 再びのモテ期キター!


 脳内ファンファーレの音を聞きつつ、俺は抱きついて来たシルヴァを出来る限りそっと優しく抱きしめ返す。

 おう、何この柔らかい生き物は。

 ああ、不整脈、不整脈……。



 しばらく無言で抱きついていたシルヴァが、突然顔を上げて体を離した。

 名残惜しいが俺も手を離す。

「ねえ、ちょっと屈んでくれる?」

 ちょっと首を傾げながらそんな事言われたら、従わない訳はない。

 膝を曲げて俺より小さな彼女と視線を合わせる。

「ケンなら、ここね」

 笑ってそう言い、俺の額にキスをくれた。

 驚きに反応出来ずに固まっていると、笑ったグレイも同じく額にキスをくれた。



 あの、出来ればもうちょっと下の方に……。

 脳内での俺の魂の叫びも虚しく、二人は笑って下がってしまう。



「元気で。また会おう!」

 エリゴールとレオが、そう言って揃って握り拳を突き出してくる。

「おう、また会おう」

 答えた俺も拳を突き出し、順番にぶつけ合った。

「スライムちゃん達は連れて行くね。可愛がるからご心配無く」

 ゴールドスライムになってる子達をそれぞれの肩や頭に乗せると、四人はオンハルトを見た。そして手を差し出す。

「じゃあ、ケンの事お願いね。ハスフェルとギイ、あなた達もよ」

 シルヴァの言葉に、オンハルトの爺さんは笑って頷いている。

 あれ、これってもしかして……。

「この後は、バイゼンヘ行くのだろう? そこまでご一緒させてもらうよ」

「ああ、そうなんだ。じゃあ、まだしばらくよろしくな」

 笑顔で差し出された右手を握り返す。相変わらず分厚くてデカい手だよ。

「俺達は、まだまだご一緒させてもらうよ」

「ああ、こんな面白そうなパーティ、そう簡単に逃してなるかってな」

 ハスフェルとギイの言葉に、半泣きになっていた俺は振り返って彼らともしっかりと握手を交わした。



「だけど、俺達の力が必要な時には、遠慮無く呼んでね。いつだって飛んで来るからね」

 レオの言葉に、また俺の涙腺が決壊する。

「もう、ヘタレの泣き虫!」

 笑ったグレイとシルヴァが、また俺を抱きしめてくれる。

「だって、もっと、一緒に……いてくれると、思ってたからさあ……」

 鼻をすすりながら何とかそう言うと、笑ってまた額にキスされた。

「この体は、このままで置いておくから、いつでも呼んでね。すぐに駆け付けるわ」

 そう言って、今度はグレイが俺の鼻先にもキスをくれた。それから、笑ったシルヴァも同じく鼻先にキスをくれる。

 何とか必死になって息を整えて笑って見せた。




「それじゃあ、また会いましょう!」

「またね!」

「元気でやるんだぞ」

「また会おうね!」

 グレイとシルヴァ、エリゴールとレオの四人は、ごく簡単にそう言って手を上げて俺達から少し離れた所で、四人で輪になって互いの手を握り合った。



「それじゃあね」



 笑ったシルヴァの声に、一瞬目の前が光で溢れる。

 思わず目を閉じて慌てて開いた時、もうそこには誰もいなかった。



 少し踏まれて倒れている草だけが、そこに誰かがいた事を示していた。




「呆気なく去られてしまいましたね」

 背後から聞こえたベリーの言葉に、俺は無言で頷く事しかできなかった。

「四人分、もう料理しなくて良いのなら……作り置きも半分で良いんだよな。なんだ、そんなちょっとで良いんだ……」

 小さく呟くと、慰める様にそっと背中を撫でてくれた。

 慰めるように、ニニとマックスが俺の両方から頭を擦り付けて来てくれて、俺は目を閉じて大きなマックスの首に縋り付いた。

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