グリーンスポットもリベンジだ!
「とにかくお前さん、売るならよく考えてからにしろ。これはそうそう手に入るものでは無いぞ」
ポンポンと巨大ルビーを叩いた真顔のオンハルトの爺さんにそう言われて、俺は戸惑いつつも頷いた。
鍛冶と装飾の神様がそう言うのなら、まあ確かに、そう簡単には売らないほうが良いのかもしれないと思った。
「分かった。でも、俺が持ってても使い道無さそうだしさあ」
何となく、全員が呆れたようにため息を吐く。
「まあ、ケンだもねえ」
「そうよね。ケンのする事だものね」
シルヴァとグレイの二人が、何故だかそう言ってうんうんと頷き合っている。
何か思い切り馬鹿にされているように聞こえるのは、俺の気のせいか?
「ええと、じゃあこれはアクア担当かな?」
振り返って、俺の顔の横でさっきからパタパタと自己主張しているアクアゴールドを振り返った。
「じゃあ、これ持っててくれるか。これも一応保存用な」
「分かった。じゃあこれの名前は?」
「ええと、巨大ルビー、かな?」
もうそれしか思いつかない。
「わかった。じゃあそれで預かるね」
巨大ルビーの上に飛んで行ったアクアゴールドが、一瞬であの巨大な宝石を飲み込んでくれた。
「それでこれもね。ご主人」
そう言って、アクアゴールドが俺の目の前に来て、いきなり水を顔にかけた。
「うわっ。何するんだよ!」
本気で驚いて後ろに飛んで下がると、空中のアクアゴールドが、困ったように俺を見た。
「だってご主人。血が出てるよ」
「へ? 血が出てるって、何の話だ?」
確かに、さっきから口元がぬるぬるすると思ってたけど……。
「うわあ、何これ!」
口を拭った俺の手が真っ赤になった。
「あ、これ鼻血か?」
確か、転んだ拍子に鼻をぶつけたのを思い出した。じゃあ、今かけてくれたのって万能薬か。
「もう止まったね。じゃあ綺麗にします」
サクラの声がして、目の前のアクアゴールドがニュルンと伸びて俺を包む。
一瞬後には、もういつものサラサラになってた。
「おう、ありがとうな」
アクアゴールドを捕まえておにぎりにしてやると、嬉しそうにプルプルと震えてたよ。
「じゃあ、お前さんの分のジェムはいつものように渡しておくぞ」
俺達が話をしている間に、散らばったジェムは綺麗に回収されていた。
それぞれのスライム達が、アクアゴールドにジェムを渡していく。
スライム間でのアイテムのやり取りは、どう言う原理かさっぱりだけど、外に出さなくても渡せるらしいから、またしてもどれくらいのジェムが集まったのか分からないままだ
ううん。これは冗談抜きで家を買うレベルに金を使ったほうが良さそうだぞ。
ちょっと遠い目になった俺は、大きくため息を吐いて顔を上げた。
「出口まで、後どれくらいあるんだ?」
またいつもの隊列で、暗い通路をランタンの灯を頼りに進んで行く。
「そうだな、このまま行けば……明日には出られるかな?」
「あ、このまま進めば、あのグリーンスポットで夜明かしだわ」
ハスフェルの言葉に、シルヴァがいきなり手を打ってとんでもない事を言った。
「ええ、ちょっと待って。あのグリーンスポットって……俺が落ちた、あそこ?」
俺の言葉に全員が頷いてる。何、その満面の笑みは。
「ええと、他には……?」
「近くには無い!」
おう、断言されたよ!
って事で、諦めて黙々と歩く。
途中にあったごく浅い一面の水場になった鍾乳石が乱立する場所でも、トライロバイトが大繁殖していて、ここでも、俺はもう少し頑張った。
ここは、出るのはゴールドトライロバイトばかりだったようで、出て来るやつ全部が、二本もしくは三本角だったよ。
「はあ、もう終わり。もう疲れた!」
一面に散らかるジェムと大きな角を見ながら、俺は濡れるのも構わず地面に座り込んだ。
「そろそろ腹が減って来たな。諦めてあのグリーンスポットへ行くか」
そう呟いて、俺は上を向いて顔を覆った。
正直言って、行くのがめっちゃ怖い。
また落ちたらどうしようって思う反面、ここでも無駄に負けん気が出てきて、トライロバイトのリベンジ戦も大丈夫だったんだから、今度こそあそこで無事に夜明かししてやる!って気にもなってるんだよな。
無言で葛藤していると、周りの皆が心配そうに俺を窺っているのが分かった。
うう、ごめんよ。今回は、何だか心配ばかりかけてる気がする。
「一応、シャムエルに地下の様子は確認させた。あんな場所はあそこ一ヶ所だけだったよ。振り返った瞬間、一瞬でお前がいなくなって、俺達だって本当に驚いたんだからな」
苦笑いするハスフェルの言葉に、隣でギイも頷いている。
「いやあ……落ちた俺も驚いたよ。一瞬で目の前が真っ暗で石の壁になってそのまま水路をゴー! だもんなあ」
「生きてて良かったね」
笑ったレオにそう言われて、顔を見合わせた後一緒になって声を上げて笑った。
「あはは、全くだな。じゃあ今度こそ無事に夜明かしする為に、あそこへ行こうぜ」
俺の言葉に、振り返ったハスフェルが真顔で俺を見た。
「大丈夫か? 何ならこのまま進んでも良いかと思ってたんだがな」
「いやあ、さすがに夜通しの行軍は勘弁してほしい。まあ、あんな事はそうは起こらないんだろう?」
俺の言葉に、ハスフェルも頷いてくれた。
「分かった。じゃあ、あのグリーンスポットへ向かおう」
了解の声が聞こえて、皆が集まって来る。
また、ちらほらとトライロバイトが現れ始めた場所を後に、俺達はあのグリーンスポットを目指して出発したのだった。
「おう、こんなだったっけ?」
正直言って、どんな場所だったかほとんど覚えていないので、到着した件のグリーンスポットでは、逆にトラウマとかフラッシュバックに悩まされるような事も無く、分解したアクア達に手伝ってもらって、ちゃんと足元も確認してからいつものテントを手早く組み立てた。
「よし、これで良いな。じゃあ今夜はお待ちかねのグラスランドチキンのレモンバター焼きだな」
サクラに机の上に乗ってもらい、まずは材料と調理道具を取り出してもらう。
「ケン、肉を焼くくらいは手伝うよ」
そう言って、テントの設置を終えたレオが来てくれたので、手早く肉を切り、スパイスを振りかけていく。
「誰かレモン絞ってくれるか」
輪切りにしたレモンとお椀を置くと、素早くアクアが触手を伸ばしてお椀ごとレモンを飲み込み、あっという間に綺麗な絞り汁にしてくれた。確かに前回、やりたそうにしてたもんな。
「おう、ありがとうな」
手を伸ばして撫でてやり、一旦横に置いておいておく。それからレオにお願いして順番に肉を焼いていってもらう。
「その間に、こっちでレモンバターソースを作るぞっと」
そう言いながら、フライパンにバターを溶かしてレモン果汁を入れて火にかける。
「今回は、ちょっとだけ醤油を入れますよっと」
そう言って、フライパンの縁に沿って醤油を回し入れて強火にする。
ソースが一気に沸き立てば出来上がりだ。
ハスフェル達が、自分のお皿を出して、用意してあったサラダをそれぞれ各自取り分けてくれている。
ポテトサラダが少しあったのでフライドポテトの残りと一緒に並べておき、トマトと茹で野菜いろいろも並べておく。それを見て、それぞれ好きなのをお皿に取ってくれた。
焼いたグラスランドチキンのむね肉は、俺は一枚、それ以外は全員二枚ずつ。うん相変わらず食う量がおかしい。
たっぷり作ったレモンバターソースを絡めたら、各自のお皿に盛り付けていく。
俺はご飯、それ以外は先に出してあったパンを焼いている。
うん、これくらい自分でやってくれたら、食事の準備も楽で良いよ。
自分の分のお皿を確保して席に着いた。
「お疲れさん。飲むか?」
赤ワインの瓶を見せられて、ちょっと考えたが、笑って首を振った。
「一階層とは言え、まだ地下迷宮の中だからな。外へ出たら、遠慮無く飲ませてもらうよ」
緑茶を出してカップに注ぎながらそう言うと、笑って頷かれた。
「じゃあ、地上まで後少しだな。ケンの無事を祈って乾杯!」
ハスフェルの声に、全員同時に吹き出し、それぞれ持っていたグラスを上げる。
俺も笑って緑茶で乾杯したよ。
さあ、明日には地上に……出られるんだよな???