やっぱり災難続き
「ああ、美味しい……」
「何これ、幸せ過ぎる……」
シルヴァとグレイの二人は、煮込みハンバーグを半分食べて感動に打ち震えてくれています。
「まあ、これは半分以上が俺の手柄じゃなくて、ホテルハンプールの料理人の手柄だよ」
俺とレオはご飯、後はパンと一緒に食べてます。
俺は煮込みハンバーグがあれば充分だけど、俺以外は全員煮込みハンバーグと、チーズ乗せハンバーグの両方取ってる。
まあ、予想の範疇だ。
かなり作ったから、予定では余る筈だ……多分。
勢いで作っちゃったんだが、我に返って、昼からこのメニューってどうよ? って思ったんだが、まあ地下で時間の感覚はよく分からないので気にしない事にする。
夕食はグラスランドチキンのレモンバター焼きにする予定なんだけど、肉続きでも……うん、このメンバーなら全く問題無いね。
全員のお腹が大満足したところで、手早く片付けたんだが、何と、煮込みハンバーグは作った分全部駆逐されました。そして、チーズ乗せハンバーグも数個しか残りませんでした。
いやあ、予想以上の食いっぷりだ。
どうやら暴れた後は、いつも以上に腹が減るらしい……うん、次回は五割増しで仕込もう。
少し休憩してから、また一列になって通路を進んで行った。
現在、七階部分のマッピングを終えて、一つ上がり、六階部分のマッピングに勤しんでおります。
うん、歩くだけなら俺でも参加出来るよ。
ちなみに、さっきハスフェル達が言ってたパラサウロロフスのいる場所が、この先に有るんだって。
まあ、大きさにもよるけど、それなら俺でも少しは戦える……かな?
思いっきりビビりつつ通路を進んで行くと、やや広い空間に出た。
百枚皿程立派ではなく、何となく段々になった水浸しの地面がデコボコになって広がっている。天井は崩落もないので、ここは吹き抜けにはなっていない。とは言え、天井までの距離は相当有ると思う。
広場の奥から象みたいな鳴き声が聞こえる。
「おお、あれがそうか。うわあ、これまたデカい!」
見ると、頭の形が特徴的なパラサウロロフスがあちこちに点在している。
かなりの大きさで、立ち上がった頭までの高さは、多分5メートルは余裕であると思う。うん、これは無理。
即座に脳内で敗北宣言をしたが、ハスフェル達は、今回は俺も参戦させるつもりらしい。
「無理だよ、大きさが違い過ぎるって。迂闊に近寄ったら、プチっと踏み潰される未来しか見えないぞ」
「相変わらずだな。大丈夫だよ、ベリーによると、あれはこの洞窟では一番大人しい恐竜だそうだ」
「そりゃあそうだろうさ。草食恐竜だもんな」
「ミスリルの槍を使え。足を攻撃して足止めすれば、こっちのものだ」
「だから、人の話を聞けよ! ってか聞いてくれよ! 槍だって近付かないと無理じゃないか。槍は一本しか持ってないんだから、うっかり投げたらその瞬間に戦闘終了だぞ」
必死で訴えたが、残念ながら俺も参加メンバー確定している模様。
「マジかー。あのデカいの相手にして、俺、大丈夫かなぁ……」
思わず、頭を抱えてしゃがみ込む。
「ケン、それなら地底湖で教えた、魔力を使って引き寄せる方法を試してみましょうか」
ビビっていると、いきなり背後から声を掛けられて、俺は字文字通り飛び上がった。
「うわあ、びっくりした。おお、ベリー、フランマも。もう戻って来たんだな」
何だか機嫌がよさそうな二人を見て、俺は首を傾げた。
「ええと、今の話って……アンモナイトの貝殻を引き寄せたあれ?」
「そうですよ。あれが使いこなせれば、投げた槍だって一瞬で手元に戻って来ますよ」
目を瞬かせる俺に、ベリーはハスフェルを振り返った。
「ハスフェル。ちょっと、槍を一本貸していただけますか?」
「ああ、良いぞ。どうぞ」
以前俺が借りた、見覚えのある槍をハスフェルが取り出して渡してくれる。
「見ていてくださいね」
少し前に進み出て、ベリーは右手でごく軽く手にした槍を投げる。
かなり向こうの、水浸しの砂地に投げられた槍が突き立つ。
「こうやって引くんです」
軽く引く動作をすると、まるで紐が付いていたかの様に槍が引かれて戻って来た。
「へ、へえ。すごいな。だけどこれって一歩間違えたら……戻って来た俺に槍が突き刺さって一巻の終わり! なんて事になるんじゃない?」
「大丈夫ですよ、投げた槍はそのまま戻って来ます。そうすると当然、持っていた部分を手前にして、そのまま飛んで戻ってきますよ」
にっこり笑って手渡された槍を、恐々俺も軽く投げてみる。
さっきのベリーよりもかなり手前に突き立った。
「で、これを引き寄せる」
一度目を閉じて魔力を撚り合わせていく。
「で、引き戻す!」
地面に突き立てている槍に向かって意識を集中させる。
「うわっと!」
勢い良く吹っ飛んできた槍が、俺にぶつかりそうになった瞬間、ベリーが掴んでくれた。
「強く引き過ぎですね。もう少しゆっくりやってみましょうか」
にっこり笑って槍を渡される。
正直言って上手く出来る自信は無いが、確かにこれをマスター出来ればスキルアップには確実になる。
って事で、受け取った槍をもう一度投げる。
「ええと、さっきよりも優しく……」
そう呟き、軽く引いてみる。
「お、上手くいった!」
フワッと飛んで戻って来た槍は、そのまま俺の手の中にスポッと収まったよ。
「ああ、今のは良い感じでしたね。もう出来ますね。じゃあ行きましょうか」
にっこり笑ってそんな恐ろしい事を言って、さっさと広場へ出て行ってしまった。当然のようにハスフェル達や従魔達もそれに続く。
「いやいや、待って!」
慌てて後を追う。
結局、そのままなし崩し的にパラサウロロフス狩りに参加する事になってしまった。
「はいご主人、これだね」
アクアゴールドが、当然のように俺にミスリルの槍を渡してくれる。
もうこうなったら、出たとこ勝負だ。
どうやらベリーは側にいてくれるみたいだから、最初の時みたいな事になったら助けてくれるだろう……多分。
先頭集団が大きなパラサウロロフスに襲いかかり、一瞬で広場は大騒ぎになった。
「あ、小さいの発見! 俺はこれにします!」
横取りされたら大変なので、宣言して小さいのを確保してから、力一杯槍を目標に向かって放り投げた。
俺の予想以上に物凄い勢いで吹っ飛んで行ったミスリルの槍は、パラサウロロフスの太腿の辺りに見事に突き刺さって止まった。
「もう一回だな!」
俺の力では一撃で仕留められるとは思っていないので、一生懸命頭の中のイメージで魔力を縄にして、パラサウロロフスに向かって放り投げる。
「で、引き戻す!」
きっと抜くのにも力がいるだろうから、やや慎重に力一杯引っ張った。
しかし、ここで予想外の展開になった。
「ひええ〜〜〜!」
直後に見えた目の前の光景に、俺は情けない悲鳴を上げて咄嗟に後ろに下がったが、残念ながら遅かったみたいだ。
視界一杯に広がる巨大な恐竜の直撃を受けて、俺は思いっきり後ろに吹っ飛んだのだった。
「だから何でこうなるんだよ……槍だけじゃなくて、突き刺さった恐竜ごと飛んで来るなんて……こんなの反則だって……」
誰かが吹き出す薄情な笑い声を聞きながら、ぶつかって来た恐竜に吹っ飛ばされた俺は、呆気なく意識を手放したのだった。
もうやだ。絶対この洞窟には二度と来ないぞ……。