お疲れ様の帰宅とハイランドチキンの晩御飯
いつもの時間に投稿したつもりが、上手く投稿できていませんでした。
何故?
って事で、再度投稿です。
「なあ、もうそろそろ終わっても良いんじゃないか?」
芋虫退治の二面目をクリアーした様子のニニ達に、恐る恐る俺は声を掛けたんだが、その言葉に不満気な顔のニニが振り返った。
「ええ? ご主人はジェムがいるんでしょう?」
「いや、さすがにもう十分だと思うぞ」
ってかお前ら、ただ単に暴れたいだけだろう、それ。
苦笑いした俺は、走り回ってジェムを回収してくれていたアクアとサクラを呼んだ。
「なあ、今日のジェムってどれくらい集まった?」
「ええと、今日最初に拾ったのは182個で、ここで拾ったのが117個だよ」
「こっちは、最初が196個で、こっちで拾ったのが139個だよ!」
アクアとサクラの答えに、俺は若干気が遠くなった。
うん、ギルドへの買い取りには少しずつ出そうな。
「まあ今回は亜種は出ていなかったみたいだから、それ程高額には……」
そこまで言って、最初に出たヘラクレスオオカブトを思い出した。
「なあ、そう言えばちょっと質問しても良いか?」
俺の膝で退屈そうにしているシャムエル様に聞いてみる。
「何? どうしたの?」
「最初にファルコがやっつけた、あのデカいヘラクレスオオカブトって、何で全部消滅してジェムにならなかったんだ? 角だけ残って回収したろ?」
「ああ、あれはね。ヘラクレスオオカブトの亜種で、硬化した個体だったの」
「硬化? まあ確かに角はカチカチだったな」
回収した時の硬さを思い出した俺に、シャムエル様は笑った。
「ジェムモンスターの亜種の中でも、特に強い個体は時に硬化する事があるんだよ。まあ、分かりやすく言えば、レベルが上がったってとこかな」
「硬化って、具体的には、金属や鉱石なんかを取り込んで自分が持ってるジェムと一体化するんだよ。その取り込んだ物の特徴を引き継ぐから、まずかなり硬くなる。それから透明になる個体や、ピカピカに光る個体なんかもいたりする」
「あのヘラクレスオオカブトは、見た目は普通だったな」
思い出してそう言うと、シャムエル様は頷いた。
「あれは鉄鉱石を取り込んだ個体だね。鉄鉱石は見かけは殆ど変わらないよ。だいたい硬化する個体は鉄鉱石を取り込んだものだね」
「つまり、あの角は、鉄と同じ程度の硬さを持ってるって事か」
俺の呟きにシャムエル様は首を振った。
「ジェムと同化した時点で、強度は桁違いに上がるよ。ただの鉄の剣なんか、迂闊に打ち合わせたら一発で折れるよ」
思わずアクアを見ると、当たり前のように回収したヘラクレスオオカブトの角を出してくれた。
受け取って改めて見てみるが、確かに冷たくて硬い。
「へえ、これがそんなに強力な武器になるのなら、一つは売らずに置いておいて、自分用の剣を作ってもらおうかな」
長い方の角は、今俺が持っている剣よりも一回り以上長い。
そんなことを考えていたら、シャムエル様が頷いて手を打った。
「あ、良いんじゃない? 今使ってるそれも、悪くはない剣だけど、ジェムと同化した素材で作る武器には負けるからね。それなら絶対、ドワーフの工房都市へ行くのがお勧めだね。あそこなら、腕の良い武器職人も大勢いるよ」
おお、以前聞いたドワーフの工房都市か。それ良いな。よし、じゃあ、ここを出たらその工房都市を目指してみよう。
旅の具体的な目的地が決まり、俺は立ち上がって、ヘラクレスオオカブトの素材をアクアに返した。
「頼むから、三面目の巨大芋虫と毛虫が出てくる前に場所を変えよう。まだ時間はありそうだけど、もう疲れたから俺は帰りたいよ」
「ええ、今日は君は殆ど何にもしてないのに?」
「精神的な疲れは、体調にも影響するんだよ」
思わず言い返して、俺は直後に吹き出した。
「まあ、確かに今日は何にもしてないから。マックスが戻るまでは歩いて帰るよ」
とにかくその場を離れたい俺がそう言うと、苦笑いしたシャムエル様も頷いてくれた。
「まあ、誰でも苦手なものの一つや二つ有るよね。今回は見なかった事にしてあげよう」
シャムエル様……何故にそこでドヤ顔?
その場を離れた俺達は、のんびりと歩きながら、時々現れる芋虫やダンゴムシもどきと戦った。
うん、一匹だけなら、俺でもなんとか相手に出来るよ。
でも毛虫は……ごめん。勘弁してください。
毛虫が出た時は、ニニやファルコに素直に頼み、それ以外は出来るだけ俺が頑張ったよ。
しばらく歩いているとマックス達が戻って来たので、背中に乗せてもらって、日が暮れる前に一旦街へ戻った。
その足でギルドに顔を出し、ようやく念願のハイランドチキンの肉を大量に受け取った。
多分、一番デカかった亜種の肉だけでも、全部で50キロは超えてたと思うね。もう驚きを通り越して笑いが出るレベルだぞ。どんだけあったんだよ。あの鶏。
それから、その際に受け取った買取金額は、思っていた以上に高くてびっくりしたわ。
肉と素材込みで、何と合計が金貨三十九枚あったよ。
うん、ジェムの買い取りは明日にしよう。
「よし!今夜はこれを焼くぞ!」
鼻歌交じりにそう言って、俺は宿泊所へ戻った。
もう今日は出掛けないから、窮屈な防具は全部脱ぐ。
それからサクラに頼んで綺麗にしてもらって、少し早いが夕食作りに取り掛かった。
「ええと、スパイス屋で買った、あの配合調味料を使ってみるか」
取り出してあったスパイスの小瓶を手にしてそう呟き、板の上に広げた、大きな鳥もも肉らしきものの全体に振りかける。
しばらく置いてスパイスをなじませたそれを、コンロの火にかけバターを温めてたっぷり溶かしたフライパンの中に、ゆっくりと入れた。
うん、バターの良い香りがする。
両面に少し焼き目をつけたら蓋をして弱火にする。ここからが我慢比べだ。
すぐに蓋を開けると、せっかくの温めた蒸気が無くなるし、かと言って放置すると変に焦げる。このコンロの火は少し弱いので、逆にそれを利用してじっくり火を通す料理法だ。
焼いている間に、手早くサラダを作り、豆のスープが少し残っていたので、それをもう一つのコンロで温めた。
パンは、大きめのロールパンみたいなのを二個、箱から取り出した。
じっくり火を通したハイランドチキンのバター焼きは、確かに絶品だったよ。
濃厚な味と、ぷりぷりの歯ごたえ。ロールパンに挟んで食べてみたら、これまた激ウマだったね。
ハイランドチキン最高!
大満足で食事を終えた俺は、食後のコーヒーを飲みつつ、アクアに頼んで、取り出した今日のジェムの整理をした。
いやあ……もう、どうしたら良いのか分からないくらい有るよ。
ダンゴムシもどきのピルバグのジェムは、393個もあったし、芋虫は271個あった。
毛虫と芋虫はよく見ると少し色が違うが、ジェムとしては同じ扱いらしい。
思わず色分けしかけていて、それを聞いたのを思い出してやめたよ。
「とりあえず、全部50個ずつ買い取りに出すか」
大きなため息を吐いて、それぞれ50個ずつ取り出して包んだ。
「ジェムの整理用に、袋やトレーが欲しいな。明日、街へ出たら店で探そう」
残りのジェムを、アクアに順番に飲み込んでもらい終わったところで、タイミング良くノックの音がして、扉の向こうから声が聞こえた。
「大道具屋です。ご注文の品をお届けに参りました」
「はいはい。待ってましたよ」
扉を開けて、頼んでいたテント一式を受け取る。組み立て方はお店で説明を受けていたので、受け取って残りの金を払った。
「ありがとうございました」
満面の笑みで帰る店員さんを見送り、受け取ったテントをサクラに順番に飲み込んでもらった。
相変わらず物理の法則も、質量保存の法則も無視なんだね。
さてと、今日はもう疲れたから早めに休もう。
食事の後片付けをして、ランタンの火も全部消す。
それから、ベッドで待ち構えているニニの頭を撫でてやり、俺はいつもの腹毛の海にダイブした。
「ああ、今日も変わらず癒されるもふもふ……」
マックスが昨夜と同じようにくっついて来て、俺はまた素敵パラダイス空間に挟まった。
目を閉じた俺をすぐに眠気が襲って来た。
「おやすみ……」
呟いた俺は、そう言えば、街へ戻ってからシャムエル様が一度も現れなかったな。なんて呑気な事を考えていた。