まだあるらしい隠しキャラ?
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
「うん……起きる……」
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
あれ?
また起こしてくれてる……俺、起きたんじゃなかったっけ?
全く回らない頭で、そんな事をぼんやりと考えていると、首筋と頬に、いきなりきました!
肉食獣コンビのザリザリ攻撃。
「うわっ、待って待って! 起きます起きます!」
悲鳴を上げて、取り敢えず腕立ての要領でニニの腹に手をついて起き上がった。
「ああ、駄目だ……このもふもふが俺を駄目にする……」
あまりの柔らかさに、そう呟いて撃沈する。
「おーきーろー!」
しかし、耳を引っ張られて笑って横に転がる。
「ふぎゃん!」
妙に可愛い悲鳴が聞こえて目を開こうとした時、俺の頬に当たる妙に肌触りの違うもふもふに気が付いた。
「あはは、ごめんごめん。巻き込んじゃったみたいだな」
慌てて起き上がり救出してやると、シャムエル様は笑いながら俺の指を叩いた。
「もう、私を踏み潰す気?」
「ごめん、全く見えてなかったっす」
笑いながら謝ると、シャムエル様にまた叩かれた。
「じゃあ、美味しいタマゴサンドで許してあげよう」
「おお、是非それでお願い致します」
そう言って、両手で持って捧げるようにして上げてやると、何故だか大喜びされた。
子供の高い高いかよ!
一旦シャムエル様をニニの上に乗せて、大きな欠伸と一緒に思いっきり伸びをする。
よし、どこも痛く無いし、体調に問題無し。
そのまま顔を洗おうと思ったが、昨日の朝の大騒ぎを思い出し、取り敢えず新しい胸当てを始めとした防具を身に付け、剣帯もちゃんと身に付けてから外に出る事にした。
「外に出て、いきなり恐竜とこんにちは。は、嫌だもんな」
幸い、今日はトリケラトプスに襲われる事も、ステゴザウルスの尻尾が突っ込んでくる事も無かった。
「平和が良いよ。ってか俺、このところ色々とハード過ぎるよ。のんびり異世界を旅する予定だったのに、なんでこんなハードモードになってるんだよってな」
ちょっと愚痴モードで、そう呟きながら水場で顔を洗う。
「もう、昨日の私の説明を聞いてないの? ここは私が念入りに結界を張ってますから、これ以上無く安全です!」
「そうだったな。信頼してるよ!」
「任せて!」
ドヤ顔のシャムエル様を笑って突っつき、跳ね飛んできたサクラに綺麗にしてもらってから、順番にスライム達を水の中に放り込んでやった。
他のテントにいた子達もそれを見て全員跳ね飛んで来たので、それほど大きくなかった水場は、あっという間にスライム達で埋め尽くされてしまった。
「何これ……カオス過ぎる……」
全員揃って、水場から溢れ出るスライム達を見て、俺は膝から崩れ落ちて、その場に座り込んで大笑いしていた。
「あ、くっついちゃった!」
その時突然アクアの声が聞こえて、スライムの山が少し小さくなった。
しばらくして、中からニュルンって感じにアクアゴールドが出て来て、俺の目の前にパタパタと飛んで来る。
すると、当然アクア達がいた分の空間が空いてずるずると動いたスライム達が、まるで某落ちものゲームの様にあちこちでくっついて金色合成し始めた。あっという間に水場が元に戻る。全員揃っても金色スライムは小さかったよ!
笑い崩れる俺を置いて、次々に水場から出てきた金色スライム達は、それぞれの主人の所へ飛んで行った。
笑ってそれを見ていたが、不意に思いついてアクアゴールドを振り返った。
「なあ、ちょっと疑問に思ったんだけどさあ」
「何、どうしたの?」
俺の言葉に、アクアゴールドが俺を覗き込むようにしてパタパタ空中でホバリングしている。
手を伸ばして、手のひらに乗せてやりそっと撫でてやると、弾力性のあるやや硬めの手触りが返ってくる。
「アクアとアルファがくっ付いたら、全員集まってアクアゴールドになるんだよな?」
「そうだよ」
当然のように言うので、あちこちに飛んでいる他の金色の子達を振り返った。
「じゃあ仮に、さっきみたいに皆が一緒になった時に、例えば、アクアに他のオレンジの子がくっ付いたらどうなるんだ?」
「えっと……別にどうもならないよ。ポヨンって当たって離れるだけだと思うけど」
「金色スライムにはならないのか」
俺の言いたい事が分かったらしく、アクアゴールドはビヨンと伸びて一瞬で元に戻った。
「ならないよ。だって、ご主人が同じじゃ無いもの」
「全員、俺がテイムしているのに?」
「テイムしたのはご主人だけど、他の人に譲られてるから、あの子達からすればご主人は、テイムしてくれたご主人であって、自分のご主人じゃ無いんだよ」
「おお成る程。俺がいつも、この人が新しいご主人だって言って譲ってるから、ちゃんと自分の主人が誰か見分けてるんだ。その上で、金色合体するのは同じご主人の従魔同士で無いと出来ないわけか。へえ、面白い」
「そりゃあそうでしょう?」
いつの間にか右肩にいたシャムエル様が、いきなり俺の頬を叩いて口を開いた。
「痛いって。何がそりゃあそうなんだ?」
「だって、ご主人が違っても金色合成出来たら、極端な話、色違いのスライムを連れたテイマー達が九人集まったら金色スライムが出来ちゃうじゃない。それは面白くないでしょう?」
「確かに、一人で全色集めるから面白いんだよな」
「正確には、まだ、全色は集まってないけどね」
目を瞬く俺に、シャムエル様は何故かドヤ顔になった。
「ええ待って、それってどう言う意味か聞いて良い?」
「大ヒントだったんだから、それ以上は自分で考えてください!」
頬を膨らませて得意気にそう言ったシャムエル様は、くるんと回って一瞬で俺の肩から消えて、出してあった机の上に現れた。
「お腹空きました! ご飯にしようよ」
机を叩いてそんな事を言われてしまい、ため息を吐いて俺は笑って机に駆け寄った。
だけど確かに言われてみれば、オンハルトの爺さんにテイムしてやった最初の子は黄緑色で、正確には虹色には入っていない。
「あれ……だけど金色合成してる時は、黄緑色のフュンフだけじゃ無くて。レオやエリゴールの最初にテイムしたダブった色の子も、一緒に合成されてるよな?」
振り返った金色スライムが頷くように上下するのを見て、俺は早くも机の上でお皿を手にしているシャムエル様を見た。
「私はもう、これ以上は何も言わないからね」
またしてもドヤ顔になったシャムエル様に、俺は笑ってもふもふ尻尾を突っついてやった。
「了解。じゃあまだまだ隠しキャラがこの世界にはいるって事だな。それなら色違いのスライムを見つけたらテイムする事にするよ」
「まあ、全色集めるのは無理だと思うけど、頑張ってね」
「ああ何だかめっちゃ悔しいぞ。よし、こうなったら、何がなんでも全色そろえてやる!」
新たな目的が出来たら、何だか元気が出てきた。
「じゃあまずは食うとするか。おおい、飯にしようぜ」
テントに戻って垂れ幕を巻き上げて外に呼びかけ、いつものサンドイッチを適当に取り出すと、身支度を終えたハスフェル達がテントに入ってきた。
いつものタマゴサンドとベーグルサンドを取り、マイカップにコーヒーを注ぐ。ここは地下でひんやりしているから、朝はホットにしておく。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜っじみ!」
最近お気に入りの、妙なリズムの味見ダンスを踊っていたシャムエル様が、決めポーズを取っているのを見て、俺は適当に拍手をしてやった。
「はいはい、格好良いぞ。リクエストはタマゴサンドだな」
お皿にタマゴサンドとベーグルサンドの真ん中部分を切ってやり、付け合わせの茹で野菜も少しだけ取り分けてやる。
「今日はホットな」
いつもの盃にコーヒーをスプーンですくって入れてやる。
喜んで食べるのを眺めながら、俺も自分のサンドイッチを口に入れたのだった。
さて、今日はどこまで上がれるかな?