牡丹鍋と災難の襲来再び
新年明けましておめでとうございます。
今年も、どうぞよろしくお願いいたします。
お待たせ致しました。
本日より、更新を再開させていただきます。
「絶対無理ー!」
ダンプカーサイズの巨大トリケラトプスを前に、思いっきり顔の前でばつ印を作って叫ぶ俺を見て、ハスフェル達はなんとも言えない顔になった。
「まあ、確かに……」
「一応、あれでも草食なんだけどなあ……」
レオとエリゴールが顔を見合わせて苦笑いしている。
「あれはケンにはちょっと荷が重そうよね」
「まあ、無理強いは良く無いって。彼は元々戦いに慣れていないでしょう?」
グレイの言葉に、シルヴァが同意してくれる。うんうん、そうだよな。あんなの絶対無理だよな。
「まあ、良いんじゃないか。それなら彼には、あそこの水のある場所で食事を作っていてもらうとしよう」
にんまりと笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェルとギイも顔を見合わせて笑って頷いてくれた。
「お前達はどうする?」
「やります!」
マックス達が声を揃えてそう叫ぶのを見て、俺は思わず遠い目になったよ。
「じゃあ、そっちは任せるよ。お願いだから怪我だけは気を付けてな。いやマジでジェムも素材も腐る程あるからさ、無理はしなくていいぞ」
今にも駆け出して行きそうなマックス達を捕まえて、順番に撫でてやる。猫族軍団も、全員巨大化してニニの後ろに控えている。
「じゃあ行きましょうっか!」
「はーい!」
元気な返事が聞こえて、従魔達はスライム以外は全員行ってしまった。
「気を付けてな!」
後ろ姿にそう叫ぶと、俺は百枚皿の隅っこにある綺麗な水の湧く場所に向かった。
レオとエリゴールがついて来てくれて、前回同様に、取り出した槍を地面に突き立てて俺の周りを大きく取り囲んでくれた。
「前と同じだからね。ここから外へは勝手に出ないように」
二人掛かりで掛けてくれた守りの結界だ。
改めてお礼を言ったら照れたように笑って手を上げて、駆け足で戻って行ってしまった。
「いくらなんでも、俺にあのデカさは無理だって。なあ」
残ってくれたスライム達とモモンガのアヴィを順番に撫でてやる。
「私は、いつもお役に立てなくてごめんなさい」
殆ど戦力になれなくていつも見学組のアヴィは、申し訳無さそうに小さくなって、椅子の背にしがみついている。
それを見た俺は、笑って抱き上げてやった。
「アヴィには俺にもふもふされるって言う重要なお仕事があるんだからな。うちのパーティーは完全に戦力過剰だからさ、全然気にしなくて良いぞ」
そう言って、柔らかなその体を心ゆくまでもふもふさせて頂きました!
ああ、この小さなもふもふ、いつもながら癒されるよ……。
何やら賑やかに暴れる音と地響きが聞こえてきて、俺は苦笑いをしてアヴィを背もたれに戻した。
「じゃあ、昼はリクエストのあった牡丹鍋にしてやり、夕食に、グラスランドチキンのレモンバター焼きかな。それじゃあ、まずは野菜を切っていくか」
段取りを頭の中で確認して、まずは鍋に入れる野菜各種を取り出して切っておく。
「あ、にんじんとか大根とかも入れても良いよな。他には何か入れられそうなものは……」
考えて、思いついた。
「よし、鶏肉で団子を作って入れてみよう。つみれ汁みたいなもんだよな。じゃあ、普通の鶏肉で良いか」
サクラに頼んで、鶏肉のもも肉と胸肉を使って鶏肉のミンチを作ってもらう。
「ええと、つみれの材料は……生姜と玉ねぎ、後は卵と片栗粉だな。よし、全部ある」
定食屋で仕込んでいた時に覚えたレシピで良いだろう。
大きめのお椀に、細かくみじん切りにしてもらった玉ねぎと生姜、それから鶏肉のミンチをぶっ込んで手で揉むみたいにして混ぜていく。片栗粉を適当に入れてしっかりと混ぜて、ねっとりしたら完成だ。そのままサクラに預けておく。
「にんじんと大根は短冊切りっと」
独り言を呟きながら、洗ったにんじんと大根も切っていく。見本に少し切ったら、待ち構えていたアクアがサクッと全部切ってくれました。
「本当にお前らがいてくれて助かるよ。いつもありがとうな」
得意気に伸び上がっているアクアとサクラを順番に撫でてやる。
どうやら、他のスライム達は、まだこう言った料理のアシスタントは出来ないらしく、羨ましそうに時々机の上まで乗って来て、二匹がしているのを見ている。
「気にしなくて良いぞ」
レインボースライム達も順番に撫でてやり、別の大きな鍋に、切ったにんじんと大根を入れて水を入れて火にかける。
「根菜類は下茹でしておくと、すぐに食べられるもんな」
それを茹でている間に、一番大きな鍋にうどん屋の屋台で譲ってもらったお出汁を入れて火にかける。
お出汁が沸いて来たら、麦味噌を投入。
味を見て、まずは白菜もどきの芯の硬い部分を入れておき、さっき作った鶏肉のつみれの入ったお椀を取り出して、スプーンで丸く取って鍋に入れていく。
「これも出汁が出るからな。全部入れちゃっても良いよな」
がっつりつみれを投入して、ひと煮立ちさせたら下茹でした大根とにんじんも入れておく。
「サクラ、グラスランドブラウンボアの肉を薄切りにしてくれるか。たっぷりな」
「了解! じゃあ、前回切った分ぐらいを用意しておくね」
得意気にそう言うと、並べたお皿に薄切りにした猪肉をガンガン並べ始めた。
レインボースライム達が、その周りに集まりサクラがするのを見ている。
サクラが得意気に伸びたり縮んだりするのを見て、俺はちょっと笑ったね。あれは絶対にドヤ顔だぞ。
「じゃあ、こんなもんかな。ご飯はいっぱい炊いてあるから大丈夫だよな」
鍋に、サクラが切ってくれた猪肉を入れながら、嫌な気配を感じて振り替えると、そこにはダンプカーどころかブルドーザーレベルの巨大なトリケラトプスが、すぐ近くにいてこっちを見ていたのだ。
「うわっ、デカい!」
驚いてそう呟くと、その声を合図にしたかの様に、まるで闘牛のように頭を低くして突進して来た。
「こっち来るなって!」
お玉を持ったまま叫んだ俺の目の前に、瞬時に合体したアクアゴールドが薄く伸び上がって盾になってくれる。
物凄い衝撃があって、地響きが起こる。
ミシミシと軋むような音がして、恐る恐る目を開いた俺は本気で腰を抜かしそうになった。
地面に突き刺した結界を張ってくれている槍が、数本折れて曲がっているのだ。
「うわあ! やめてくれって!」
本気で叫んで、お玉を放り出して腰の剣を抜く。
左右を見て、とにかく机から離れる。
「せっかく作った牡丹鍋を滅茶苦茶にされたら大変だもんな。サクラ、いったん鍋ごと飲み込んでくれよ」
視線はトリケラトプスから離さず小さな声でそう言ってやると、盾になったアクアゴールドからニュルンと触手が伸びて机の上の鍋を飲み込んでくれた。後はまあ、最悪ひっくり返されてもなんとかなるだろう。
ミシミシと音を立ててもう一本槍が折れる。
剣を抜いた俺は、横に動いてゆっくりとトリケラトプスに近付いて行った。
向こうの方で、これも大きな地響きがして歓声が上がり、何か叫びながらハスフェル達がこっちへ走ってくるのが見えた。
しかし、彼らが来てくれる前に、真ん中の槍が音を立てて根本から折れた瞬間、トリケラトプスが結界の中に突進して来た。
とにかく横に逃げて、抜いた剣を水平に構えて目の横辺りを力一杯突いてやる。
剣先が僅かにめり込む感覚があったが、すぐに止まった。とにかく硬い。
トリケラトプスは物凄い大きな声で吠えて、嫌がる様に頭を振った。
「うわあ!」
アクアゴールドの盾が横に払われて吹っ飛ばされるのが見えて、咄嗟に剣を縦にして構えたが間に合わず、振り回した角に横から掬われてふっ飛ばされる。
「ご主人!」
触手が伸びて、一瞬で俺は跳ね飛んで来たアクアゴールドに空中キャッチされて包み込まれた。
そのまま、吹っ飛ばされて地面に数回続けて跳ねて転がる。しかし、衝撃はアクアゴールドが吸収してくれたみたいで、俺は大丈夫だった。
何が何だか分からないままに、角で叩かれた横っ腹を左手で押さえる。
不味い。
これは確実に肋骨が逝ったレベルだ。
「痛ってえ……」
余りの激痛に起き上がれず、とにかく必死で転がってその場から逃げる。
「じっとしてろ!」
俺を飛び越えたハスフェルの言葉に転がったままで、呆然と高い天井を見上げた。
しかし、だんだん目の前が真っ暗になってきて、音が遠くなり聞こえなくなる。
「やっぱり、俺……このダンジョンに嫌われてる、に……1万点賭けるよ……」
地面に転がった俺は、小さく呟いてそのまま気絶したのだった。