謎の軽石もどきの正体
大満足の食事を終えた後、もう少し飲みたいという話になったのだが、洞窟内であまり酒を飲むのは不味いだろうという話になり、全員に緑茶を淹れてやった。
食事の時に赤ワインを飲んでるのにと思ったが、まあ俺以外のここにいる全員、赤ワイン程度は酒のうちに入らないらしいんだけどさ。
こいつら、食べる量だけじゃなく、酒量もおかしいよ……絶対。
俺も、それなりに飲めると思っていたけど、こいつらの肝臓と勝負にすらならないのは確実だね。
ああ、緑茶うめー。
なんとなくまったり寛いでいたが、緑茶を飲み干した俺は、ずっと気になっていた事を聞いてみる事にした。
「なあ、ちょっと聞いてもいいか?」
真剣な俺の言葉に、同じく緑茶でまったり寛いでいたハスフェルとギイが振り返った。
「どうした? 改まって」
「いや、ちょっと気になってたから教えてもらおうと思ってさ。アクア、湖底で取ったあの石を出してくれるか?」
足元にいた、アクアにそう言うと、ビヨンと伸び上がって足元で元気良く返事をしてくれた。
「ええとね、こっちが、最初にアクアが取った分だよ」
そう言って、ドン! と、音を立てて取り出してくれたのは、あの巨大なミスリルの塊だ。
「うわあ、何度見ても凄えな。これ一体幾らになるんだろうな?」
改めて見ると、その大きさに驚くよ。
取り出したミスリル鉱石を見て、俺が何を聞きたいのか納得したらしいハスフェル達だけでなく、オンハルトの爺さんが俺のすぐ隣に来て座った。
「それで、こっちがご主人が取った分ね」
アクアがもう一度そう言って取り出してくれたのが、例の謎の軽石もどきだ。
改めて並べて見ると、明らかにミスリルとは色が違う。
ミスリル鉱石の方は、俺の剣と同じで緑がかった銀色をしている。それに対して、俺が取った方のは同じく銀色なのだが、レモン色とでも言えば良いのだろうか、全体にやや薄い黄色で、確か持って驚いたんだよ。驚くほど軽かったんだ。
「それで、片手で持てたんだよなあ……」
そう呟いて、足元に出してくれた謎の鉱石を片手で取ろうとして驚いた。
「あれ、なんだこれ……めっちゃ重いぞ?」
まるで、地面に張り付いてるかの如く全く動かない。椅子から立ち上がって謎の鉱石の前にしゃがみ、湖底で俺が取った時みたいに両手で挟むようにして持ち上げ……ようとしたが、全く上がらなかった。
「ええ? なんだこれ? なあ、どうなってるんだ、これ?」
黙って隣で俺を見ているオンハルトの爺さんを振り返る。
「な、これって重さが変わったよ。どうなってるんだ?」
すると、オンハルトの爺さんは、満面の笑みで大きく頷いた。
「それは当然だろうさ。これは純度100パーセントのオリハルコンの鉱石だからな。オリハルコンは水との相性が抜群に良い。水中にあれば、比重が軽くなるのもオリハルコンの特徴の一つさ」
嬉しそうに目を細めてそう言い、立ち上がったオンハルトの爺さんは、足元の謎の鉱石改めオリハルコンの鉱石を愛おしげにそっと撫でた。
「いや、わしもここまで見事なオリハルコンを見たのは久し振りだよ。良い物を手に入れたな。これと先程のミスリル鉱石、そしてあのヘラクレスオオカブトの角があれば、間違い無く最強の剣が出来るだろう。大型恐竜であろうと一撃だぞ」
驚いて振り返ると、全員が笑顔で俺を見ている。
「まさか……知ってて俺に取らせてくれたのか」
すると、ハスフェルが笑って頷いて教えてくれた。
「未知の洞窟の最下層に一番最初に到達した人間には、特別なお宝アイテムあるんだよ。ただし、いろいろ条件があってな」
「……条件?」
すると、俺の肩に座っていたシャムエル様が得意気に胸を張って答えてくれた。
「詳しい条件は企業秘密なんだけどね。例えばよく知られているので言えば、超レアな特別アイテムが出るのは、最初のアイテム出現から連続十回目以降の人間に、だとか、お宝が取れるのは一人一回だとかね」
おお、確かに俺が取ったのは十一回目だったな。
「うん。それに今のこのパーティで確実に人間だって言えるのは、ハスフェルとケンだけだからね」
シャムエル様の言葉に、俺は驚いて神様軍団を見る。
「ええと、あれは違うの?」
「まあ正確には、違う……かな?」
誤魔化すように笑って彼らを見る。
「以前言ったように、彼らの今の身体は器だけの作り物だからね。そこに彼ら自身が入ってる訳。解る?」
「いや、さっぱり解らん」
首を振る俺に、シャムエル様は笑っている。
「まあ、それは気にしないで。それで、彼らはあのお宝の出現場所を確認した後、点呼をとってアクアまで入れたらケンの前に十個取れるって気が付いてね。それでああなった訳。だけど、彼らにも超レアなお宝アイテムの十一個目で何が出るかは、取ってみるまで解らなかったんだよ」
その言葉に驚いて彼らを見ると、皆笑顔で俺を見ている。
「フランマとアクアの分があるから、ケンにもミスリルは渡せるしね。だから、これが最善の取り方だったの」
「だって……」
「ヘラクレスオオカブトの剣を作るんでしょう? バイゼンの近くにある洞窟も、此処ほどじゃないけど強い恐竜が沢山出るからね。剣を作ったら行ってみると良いわよ」
シヴァとグレイの言葉に足元にあるオリハルコンを見る。
二人は揃って笑顔で大きく頷いてくれた。
「それは貴方が取ったんだから、貴方のものよ」
「あ、ありがとうございます」
感極まって改めてお礼を言うと、全員から水臭い事を言うなと笑われてしまった。
取り出したオリハルコンは、またアクアがミスリル鉱石と一緒にペロッと飲み込んでくれました。
「じゃあ少し休むか。それで、起きたら上の階へマッピングを完成させながら上がろう。何かいれば、戦ってみても良いしな」
「ああ、良いんじゃないか。どうやらこの地下迷宮はかなり強い恐竜がいるみたいだしな。楽しみだよ」
そんな恐ろしい事を嬉々として話すハスフェルとギイの言葉を聞きながら、遠い目になった俺は……間違ってないよな?
手早く片付けて、それぞれ自分のテントへ戻るために立ち上がった。
俺達が固まってテントを張った周囲には、大きな背板が並んだステゴサウルスの姿が見える。
「頼むからこっちへ来ないでくれよな。もう、あんなビックリするのはごめんだからな」
俺の言葉に、ハスフェルとギイの三人で顔を見合わせて大笑いになった。
「一応、今回もミスリルの鈴は立てておくから心配するなって。まあ、あんなのはそうは無いよ」
不思議そうな神様達に、ギイが、以前東アポンのグリーンスポットで夜明かしした時に、早朝にステゴサウルスの尻尾の襲撃を受けてテントが大破した事を大笑いしながら話していた。
「それじゃあおやすみ」
笑って皆を見送り、俺も自分のテントへ戻る。
サクラに綺麗にしてもらってから振り返った。
「では、よろしくお願いします!」
まず、スライム達が並んでくっ付き巨大なウォーターベッドを作ってくれる。
その上に転がったニニのお腹に俺が潜り込み、横にマックスが寝転がり俺をサンドする。
俺の背中側には大きくなったウサギコンビがくっ付き、タロンが素早く俺の胸元に潜り込んできた。
出遅れたソレイユとフォールは、猫サイズのまま俺の顔の前と頭の辺りにくっ付く。
ファルコとプティラは、いつもの椅子の背に並んで留まっている。
モモンガのアヴィは、ウサギコンビと一緒にいるんだって。
「それじゃあお休み。明日は地上へ、出られるかなあ……」
欠伸を一つして、小さくそう呟いて目を閉じる。
いつものもふもふ達に囲まれて、俺は眠りの国へ急降下していったのだった。