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最下層にて

「うわあ……すげえ」

 目の前の景色を見て、俺は呆気に取られたまま呆然とそう呟いた、

「確かに凄いな。最下層だけが妙に狭かったのはこういう事か」

 ハスフェルの言葉に、皆も無言で頷いているだけだ。



 俺達の目の前に広がっているのは、マップで確認する限り確かに他の階よりは狭いのだろうけれど、見渡す限り遥か先まで広がったとんでもなく広い空間だった。

 この最下層は、今までとは違い遥かに高い天井が頭上全体に広がっている。

 つまり、いわば完全なワンフロア状態なのだ。所々に遥かに高い天井まで繋がった巨大な鍾乳石が巨大な柱よろしく(そび)え立っているが、その根本部分は完全に水没している。


 そう、この最下層は周囲に僅かな土地はあるものの、丸ごと巨大な地底湖が広がっていたのだ。

 頭上の、高い天井一面にびっしりと張り付いているヒカリゴケのお陰で、ランタンが無くても夜目の利く俺達なら不自由無く見える程度には明るい。

 そして、不思議な事に地底湖の底も不思議な光に満ちていて、水の中が地上以上に妙に明るいのだ。

 中から光って見える湖面は、幻想的な美しさで静かに輝いている。




「そう来たか。そうなると、これはちょっと厄介だな」

「確かに厄介だな。これは困った」

 言葉の割に妙に嬉しそうなギイの言葉に、これまた満面の笑みのハスフェルが、顔と全く釣り合っていない事を言ってる。

「本当に困ったわね」

「確かにそうだわ。これは困ったわね」

 シルヴァとグレイも、頬に片手を当てて困った困ったと言っているが、その顔は笑み崩れている。

 嫌な予感に振り返ると、オンハルトの爺さんまでもが口を押さえて必死になって笑いを堪えた顔をしている。こうなるともう、エリゴールとレオの顔は見なくても分かるよ。


「なあ、ものすごく聞きたくないんだけどさあ……何が困った、なんだ?」


 恐る恐る質問すると、満面の笑みのハスフェルが振り返って俺を見た。

「地下迷宮の最下層には、一番最初に到達した者だけが手にする事の出来る、特別なお宝があるんだよ。だけど、どうやらそのお宝があるのは、この湖の底のようなのでな。で、困っているのさ」

 全く困っていなさそうな顔でそんな事を言われても、説得力ゼロだって!

「じゃあ仕方ないから……」

「ここまで来て、帰るなんて選択肢は無いぞ」

 即答されて、俺は顔を覆って悲鳴を上げた。



「やっぱりそうなるよな! だけど絶対嫌だぞ! 俺は絶対行かないからな!」

 叫んだ俺は……悪く無いよな?




「ええ、せっかく来たんだから、ケンも行こうよ」

「そうよ。大丈夫だって。私達が守ってあげるからさ」

 美女二人に左右から嬉々とした声で言われて、俺は本気で気絶しそうだったよ。

 あれだけ嫌がって抵抗して、何とか最下層の下にあるのだと言う水没した地層には行くのはやめてもらったのに。地下迷宮を攻略した証のお宝を手にする為には、この湖の底まで行かなきゃならないなんて!

 一体、これは何の罰ゲームだよ。



「……ええと、俺はここで……」

「いいから、せっかく来たんだからお前も行くんだよ」

 満面の笑みのハスフェルに肩を叩いてそう言われてしまい、俺は諦めのため息を吐いた。

 考え方を変えよう。この下にある完全水没地帯へ行くよりはマシだよ……多分。



 不安しかないが、もうここは仲間を信じて進む以外無い。



 もう一度、これ以上無いような大きなため息を吐いて、俺は顔を上げた。

「で、どうする? もう行くか? だけど、そろそろ昼飯の時間じゃね?」

「そうだな。一旦中へ入ったらすぐには出て来られないだろうから、念の為しっかりと食べておくべきだろうな」

 その言葉に、俺は思わずまた固まる。

「ええと、そんなに時間が掛かるのか?」

「どうだろうな。さすがに湖の中がどうなっているかは我らにも分からん。場合によっては相当長い間かかる可能性もあるからな。さてどうするかな……」

 そう言ったきり黙り込んでしまう。しかも先ほどとは違って本当に困っているように見える。



「ここは、一度ここへ来ているはずのベリーの助言を求めた方が良いんじゃないか?」

 ふと思い付いてそう言うと、ハスフェルも同じ事を考えていたようで頷いている。

 マッピングの能力のおかげで、今、ベリーがどの辺りにいるのかは何となく分かる。

 気配を探ってみると、まあ予想通りこの遥か下にいるよ。


 だけど、ベリーとは念話で話せるのか?


 思わず右肩に座ってるシャムエル様を見ると、頷いている。

「うん、大丈夫だよ。今なら話せると思うから呼んでみてよ」

「そうか。じゃあ呼ぶぞ」

 それを聞いたハスフェルがそう言った次の瞬間、頭の中にハスフェルとベリーだけでなく、神様軍団全員の気配が感じられて驚いたよ。成る程。全員に会話が聞こえるようにしてくれた訳だな。

「あ、そっか。グループトークかチャットみたいなもんだな」

 笑って小さく呟いた俺は、頭の中で聞こえるハスフェルとベリーの会話を聞く事にした。




『ベリー、今、何処にいる?』

『おや、皆さん。如何されましたか?』


 ベリーの不思議そうな声が聞こえる。


『ああ、もう最下層迄降りて来たんですね。さすがに早かったですね』

『それが、この地底湖を見て迂闊に入って良いかどうかの判断がつかなくてな。何か知っている事があれば教えてもらおうかと思って呼ばせてもらったんだ』

『そう言う事ですか。じゃあ一度戻りますね。そこで待っていてください。ああそうだ、ケン、聞いてますか?』

 話は終わりかと思ったら、いきなり名前を呼ばれて俺は文字通り飛び上がった。

「うわあ、びっくりした。ああ聞いてるよ」

 慌てて声に出して答えてしまい、直後に咳き込んで誤魔化す。後ろでシルヴァ達がそれを見て笑っている。

『貴方が見たがっていた、シーラカンスとアンモナイトを捕まえましたよ。持って行ってあげますね。それじゃあ後ほど』

 それだけ言うと、不意に気配は消えてしまった。

「ええ、マジで捕まえてくれたのか? それはちょっと嬉しいかも」

 有難うベリー。ちょっとテンション上がったよ。



「何の話だ?」

 不思議そうなハスフェル達に、俺はアンモナイトとシーラカンスの話をした。

「アンモナイトは聞いた事があるな。しかし、そのシーラカンスは聞いた事が無い。知ってるか?」

 ハスフェルの言葉に、ギイが首を振り、後ろで他の皆も首を振っている。

「アンモナイトって、確かバイゼンの近くにある地下洞窟の最下層にある、お宝の貝殻よね?」

「ああそうだ。あれは高く売れるからな」

 オンハルトの爺さんの言葉に、俺は固まった。

「ええと……こんなのが、いっぱいあるらしいよ……」

 ベリーから貰ったあの巨大なアンモナイトを取り出して見せると、全員呆気にとられて目を見開いたまま、固まってしまった。



「お前……これはアンモナイトか?」

「そうだよ、ちなみにこれがやや大きめらしい。でもって、こんなのもあるんだってさ」

 もう一つの細長いのも取り出して見せた。

「こりゃあ凄いな。いやあ、賢者の精霊様々だな」

「全くだ、これもバイゼンヘ持って行ったらドワーフ達が狂喜乱舞するだろうさ」

「ほほう、これは素晴らしい。見ろ、この真珠層の分厚い事」

 ハスフェルに渡した平たい方のアンモナイトを覗き込んで、オンハルトの爺さんが嬉しそうな声を上げる。

「確かにこりゃあ凄い。これは早くバイゼンヘ行きたくなって来たな」

 ギイがそう言うのを聞き、俺は身を乗り出した。

「それならいますぐ外へ……」



 俺が口を開いたその時、ものすごい水音と共に爆発するような音が聞こえ、静かだった湖がいきなり膨れ上がって弾けて波立った。

 直後に地震のような振動がビリビリと足元に伝わり、俺はマックス達とほぼ同時に壁に開いた通路に飛び込んでしゃがみ込んだ。

 俺の両横にはマックスとニニがいて、足元にはアクアゴールドが羽ばたいてホバリングしている。

 しかし、俺が咄嗟に心配した天井からの石の崩落や、地底湖の底が抜けるような事態にはならなかったらしく、しばらく全員が無言でしゃがんだまま、静かになった湖面を見つめていた。



 いきなり、湖からベリーとフランマが飛び出して来た。

 二人共悠々と泳いで、俺達がいるすぐ目の前の岸にあがってきた。

 軽く身震いしただけで、びしょ濡れだった体が一気に乾くのを見て、俺は思わず声を上げた。


「うわあ、フランマのもふ毛が一気に乾いたぞ。凄えな。今何したんだ?」

「お前……気にするのはそこかよ」


 しゃがんだまま頭を抱えたハスフェルにそう言われて、何だかおかしくなった俺は我慢出来ずにその場で吹きだした。

 ハスフェル達も笑い出し、全員揃って、その場にしゃがみ込んだまま大爆笑になったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] え?この下に更に八層あるのに、何でここが最下層なの?
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