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洞窟の朝

 結局、俺が倒れて目を覚ました時、丸一日が経っていたとシャムエル様から聞いて、本気で驚いたよ。



 つまり、せっかく目を覚ましたけどまたしてももう夜なわけで、食事を終えて一服した俺は、もう一度休む事にした。

 まあ、もう大丈夫だろうけど大事を取っての休養だ。貧血は怖いからね。



 しかし、寝ようと思って考える。ここにはニニもマックスもいない。

 そして、ここで一つ重要な事実が判明した。俺はキャンプに必須の寝袋を持っていない……。



 それに気付いて食器を片付けた俺が困って考えていると、スライム達が跳ね飛んで来て、俺の見ている前で三列三段の正方形のウォーターベッドになってくれた。

「ニニやマックスみたいな毛は無いけど、これなら寝られるでしょう? はい、毛布はこれね」

 サクラが皆とくっついた状態のまま、以前寝る時に使っていたハーフケットを取り出してくれた。

「おう、ありがとうな。じゃあここで休ませて貰うよ」

 セルパンは机の足に絡みついているし、プティラはいつものように椅子の背に留まっている。

「じゃあ一緒に寝ようね」

 俺の胸元にもふもふのフランマが潜り込んで来て、ランタンの明かりを消してくれたベリーは、スライムベッドにもたれるみたいにして横の地面に足を折って座った。

「ベリー、スライムベッドは大きいから余裕があるけど、地面の方が良いか?」

 顔を上げてそう言ってやると、顔を上げたベリーは笑って首を振った。

「私は硬い地面の方が楽なんです。どうぞ、気にせず休んで下さい。テントはミスリルの鈴で囲っていますし、念の為結界を張って守っていますから、尻尾が飛び込んで来ても、弾いてくれますからね」

 最後の言葉は笑いを堪えているのが丸わかりで、俺は我慢出来ずに暗闇の中で笑っちゃったよ。

「そっか、じゃあ今回は安心して休めるな。ありがとうベリー、おかげでゆっくり休めるよ」

「私には造作もない事ですから気になさらず。ではおやすみなさい、ケン」

「ああ、おやすみ」

 もふもふのフランマの後頭部に顔を埋めて、俺は深呼吸を一つして、気持ち良く眠りの国へ再出発していったよ。





 ぺしぺしぺし……。

 カリカリカリ……。

 いつもより少ないモーニングコールに、気持ち良く目を覚ました俺は、小さく笑ってプティラをそっと撫でてやった。

「おはようご主人、もう起きてください」

 大真面目なプティラに笑って、俺はスライムベッドから起き上がった。


 うん、夏場はこれ良いかも。寝心地もなかなかだし、ひんやり冷たくて快適だよ。


「ありがとうな。なかなかの寝心地だったよ」

 そっと座っているオレンジのスライムを撫でてやると、妙にベッド全体がプルプルと震え始め、俺は揺れる衝撃で座っていたそこからずり落ちてしまい、なんだかおかしくて、朝から大笑いしちゃったよ。



「大丈夫ですか」

 笑いながらベリーが手を貸してくれたので、俺も笑いながらお礼を言って立ち上がる。

 顔を洗って手早く身支度を整えたら、朝食に作り置きのサンドイッチを食べた。

 ベリーとフランマにも果物を出してやり、セルパンとプティラを振り返った。

「ええと、お前らは飯は? 鶏肉で良ければ有るぞ」

「あ、それなら玉子をいただけますか。ご主人」

 プティラの遠慮がちな言葉に、俺は目を瞬いた。

「玉子? 生卵で良いのか?」

 揃って嬉しそうに頷く二匹を見て、俺は買い置きの玉子をサクラに取り出してもらった。

「幾ついる?」

「二個もあれば充分です」

「私も二個お願いします」

「なんだよ、そんなちょっとで良いのか?ええと割る?」

 四つの玉子を取り出して残りをサクラに返しながら振り返ると、これまた二匹揃って首を振っている。

「じゃあ、ここに置くな」

 プティラは椅子の目の前の机の上に、セルパンは地面に降りて小さな丸にとぐろを巻いているので、その前に置いてやった。

「おお、このサイズが一番ヘビって感じがするな。でももう怖く無いぞ」

 殻のままの玉子を、丸ごと飲み込む二匹を俺は苦笑いしながら眺めていた。




「なあ、これからってどうすれば良いと思う? 昨日は、ハスフェル達に行くからここにいろって言われたんだけどさ」

 ベリーが一緒にいてくれるのなら、俺が外へ出ても大丈夫な気がするけど、ベリーはどうするんだろう?

「そうですね。ハスフェル達は最下層まで攻略する気満々のようですし、私も一緒に行きますから、まずは彼らと合流しましょう」

「頼りにしてるよ。じゃあ、ここのテントは撤収だな。すぐ片付けるよ」

 立ち上がって机を畳みながら不意に思った。

「なあ、ちょっと質問ってか疑問なんだけど、今いるここってかなり深いんだよな」

「そうですね、全体が八階層からなるその中で、今いる場所は五階層のやや西側の辺りですね」

「じゃあ、あの陽の光ってどうやってここまで届いてるんだ? だって、この上も別の階層が有るんだろう」

 上を見上げたベリーは、納得したように頷いて教えてくれた。

「グリーンスポットの上部は、亀裂や隙間、あるいは鉱石などの反射で、光が届く場所に作られるんです。例えばこの場所の上は、四階層と三階層の間で天井の崩落があり、幾つか大きな亀裂が入っているんですよ。更にその上の階にも崩落があって、空間があるので、こんな奥まで陽の光が僅かながら差し込んでいるんです」

「へえ、じゃあこの下の階にはもうグリーンスポットは無いのか?」

「ここから下の階にあるグリーンスポットは、苔やキノコなどの地衣類が中心の場所になりますね。ヒカリゴケがありますので、それなりの明るさは確保されていますよ」

「へえ、すげえな。じゃあこれ以上地下にいる奴は、苔やキノコを食べてる訳だな」

「そのようですね。この地下迷宮は、生態系もかなり個性的ですよ。まあ楽しみにしていてください」



 正直言って、俺としては今すぐにでも地上へ帰りたいのだが、護衛してくれる気満々なベリーを見ると、地下迷宮探索はやめて帰りたいなんて、今更言えないよな。

 テントを畳みながら、ちょっと遠い目になる俺だった。




「じゃあ、よろしくお願いします!」

 ベリーとフランマ、それからセルパンとプティラ、アクアゴールドに向かって俺は深々と頭を下げた。

「お任せください。では行きましょう。四階層にいる彼らが降りてくる場所へ、我々も行かなければね」

 嬉々として笑顔でそう言ってくれるベリーに、頼もしい筈なのに何故だか不安しかないのは……俺の気のせいか?

 本当に気のせいだけなのか?



 ベリーを先頭に、その後ろに巨大化したプティラ、俺とフランマとシャムエル様とアクアゴールド、背後に巨大化したセルパンという、現状の最強布陣、俺を守る気満々の隊列でグリーンスポットから出て案外広い通路を歩きながら、それでも不安になるヘタレな俺だった。

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