またしても新たなる能力強制付与
「ベリー! うわあ、本当にベリーだ! 地獄に仏! ベリー様ー!」
半泣きになった俺は、思わずそう叫びながら現れたベリーに駆け寄ってしがみついた。
隣にはフランマも現れて、揃って驚いて俺を見ている。
「落ち着いてください、ケン。いったいどうして貴方がこんな下層にいるのですか? ハスフェル達や、他の従魔達は? ニニちゃんや、マックス達はどうしたんですか?」
驚きを隠さず、ベリーがそう尋ねる。
「聞いてくれよ。入って最初の百枚皿でトライロバイト相手に戦ってて、うっかり一本角の奴に、左太腿をぶっ刺されちまってさ」
俺の言葉に目を見張り、穴の開いた俺のズボンを見る。
「それは気を付けないと。確か、スライム達は万能薬を持っていましたね。じゃあ怪我は大丈夫だったんですね?」
何度も頷き、またしがみつく。
「だけどかなり血が出てさ、貧血とショックもあって、グリーンスポットでテントをハスフェルに張ってもらって俺は休もうとしたら……」
「休もうとしたら?」
「いきなり、座ろうとした地面が割れて、地下の水脈ってか水路に落っこちて一気に押し流されちまって、気がついたらここの滝壺に落っこちてたんだ。スライム達が、俺の頭にくっついて一緒に落っこちて来て守ってくれたおかげで、なんとか溺れずに済んだんだ。で、その後、セルパンとプティラが俺の後を追って水路を流されて来てくれて、だけど首長竜に襲われて滝壺から逃げて来たんだ。本っっっっっ当に大変だったんだよ。滝壺の壁に穴を開けて通路に出て、なんとかここまで辿り着いたところです!」
改めて言葉にして思った。
俺、よく生きてたなあ……。
「そ、それはまた大変でしたね。その貴方が落ちた滝壺とは、恐らく首長竜の子供がいる子供部屋の事だと思いますね。天井が高くて、ヒカリゴケのあった場所ですよね?」
思いっきり頷くと、呆れたように大きなため息を吐かれた。
「よく生きてましたね。首長竜は水棲恐竜の中でも群を抜いて凶暴なんですよ。まあ、まだ子供だったから狩りが下手だったんでしょうが……」
「はあ? あれで子供だって?」
頭だけでもかなりの大きさだったぞ。それが子供? うわあ、首長竜って……。
本気で気が遠くなる俺に、ベリーは苦笑いしている。
「仕方ありませんね。じゃあ私達と一緒に行きましょう。とにかく、ハスフェルや貴方の従魔達と合流しないといけませんね。貴方をこんな所に置いていては、危なっかしくて見ていられません」
「うう、さすがはベリー! よろしくおねがいします!」
「私もいるわよ」
俺とベリーの間に飛び込んできたのは、カーバンクルのフランマだ。
「おお、お前もいるんだよな。よろしくな」
フランマを抱きしめて、もふもふを満喫した。
『おお、ベリーと合流出来たのか!』
突然、頭の中にハスフェルの声が響き、俺は飛び上がった。
「うわあ、びっくりした。おお、そうなんだよ。グリーンスポットで会えたんだ。もう、本気で泣きそうになるくらい嬉しかったよ」
気が動転して、普通に声に出してしゃべってるよ。俺……。
『じゃあ大丈夫だな。せっかくだからそのまま先に進んでくれても良いぞ』
「いや待て。何が大丈夫だよ。全然大丈夫じゃねえって!」
今聞き逃せない言葉を聞いたぞ。誰がそのまま進むって?
「あ、そっか。そうだね。じゃあケンにもマッピングの能力を授けておくよ。そうすれば、彼のマップも全員で共有出来るもんね」
『ああ、それは良い考えだ。じゃあ頼むよ。ついでにベリーとも共有させてやれ、そうすれば少なくともここで迷子になる事はあるまい』
右肩に座ったシャムエル様が、これまた平然と恐ろしい事をさらっと言ってくれるし。
「ああ、確かにそれは良い考えですね。じゃあ、私達が彼のパーティーに入れば良いんですね」
『それで頼むよ。じゃあよろしくな』
「だから待って! 人を置いて話を進めるなってば」
慌てる俺を置いて、話は決まったみたいだよ……。
「じゃあケン。こっちを向いてくれる」
嬉々としたシャムエル様の声に、俺は諦めのため息を吐いた。もうこうなったら、俺が何を言っても無駄な抵抗だ。
「ああ、分かったよもう。はい、どうぞ」
目を閉じて、勢い良く横を向く。
モフっと柔らかい塊が俺の顎に当たり、ちっこい手が鼻の辺りを掴んで押さえつけた。
「もうちょっと下を向いてくれるかな。おでこに触らせてください」
何やら踏ん張っている様子のシャムエル様の言葉に従い、顎を引いて下を向いてやる。
「はい、それで良いよ」
額じゃなくて、眉間のすぐ上の所を小さな手が触れるのが分かった。
『マッピングの能力を授ける。パーティ内で共有せよ』
おお、久々の神様バージョンの声キター!
内心で叫んだ瞬間、頭の中が一気に広がる感じがあり、俺は慌てて目を開いた。
「ええ?何だこれ?」
なんとも言えない不思議な感覚に、俺は何度も目を瞬いた。
俺の目は、普通に目の前の景色を見ている。
それなのに、もう一つ地図が頭の中に展開しているのが感覚的に分かった。言ってみれば、頭の中にカーナビがある感じだ。
上下左右に広がる立体的な八階層からなる巨大な地下迷宮の通路と広場の数々。そして五階層にいる自分の位置。近くの広場には、恐竜達が点々と展開しているのまで感じられて、俺は鳥肌が立った。
「うわあ、なんだこれ。なんかいろいろ見えるんですけど!」
「上手くいったみたいだね。慣れるまではちょっと気持ち悪いかもしれないけど、すぐに慣れるよ。ああ、マッピングの能力が発動するのはこう言った地下迷宮や洞窟、城壁で囲まれた街の中だよ。つまり、囲われた空間内だね」
はい、シャムエル様のドヤ顔頂きましたー!
「おお、なんだか物凄くありがたい能力みたいだな。ありがとうございます……なあ、だけど今分かったよ。俺、めちゃめちゃ長い距離を落ちて来たんだな」
そう言ってその場にしゃがみ込んだ。
今なら分かるよ。地上が遙かに遠い。確かにこれは、ハスフェル達と合流するのはかなり大変そうだ。
ほぼ垂直に近い斜めの水路を落っこちて来て、俺が落ちた滝壺は四階層から五階層にまたがる、かなり大きな空間だったみたいだ。
『上手くいったみたいだな。じゃあ最下層で会おう』
気が遠くなるような言葉を残して、ハスフェルの気配が消える。
しかし、頭の中にはハスフェル達がいる二階層の部分に、彼らの気配が感じられてなんだか安心した。
ハスフェルが、俺の位置を確認したって言っていたのはこういう事だったんだな。
そんな風に、夢中になって頭の中にある地図を見ようとしていたら、何だか急に頭がクラクラして目が回ってきた。
「あ、駄目だ……また貧血……」
不意にひどい目眩に襲われて、俺はまたしてもベリーに縋り付いた。
縋り付いたつもりだった。
「ケン!」
「ケン! しっかりしてください!」
「ご主人、しっかりー!」
シャムエル様とベリーの叫ぶ声と従魔達の悲鳴。
抱き抱えられる感覚と、背中を支えられる感覚。
何とかお礼を言おうとしたが、俺はそのまま目の前が真っ暗になって気が遠くなり、何も分からなくなってしまったのだった。
 




