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地下洞窟の作り方?

 真ん中に俺と女性二人を挟んだ状態で、一列になった一行は曲がりくねった一本道を進んで行く。



「なあ、ここってどれくらいの時間で出来た洞窟なんだ?」

 歩きながら、当然のように俺の右肩に座るシャムエル様に尋ねると、俺の質問に首を傾げた。

「どれくらいって、何が?」

「いや、この前行った東アポンの近くにあった洞窟は、もの凄く大きな鍾乳石とかが山ほどあっただろう? あれはかなりの時間が経っているっぽかったからさ。此処にも、あそこみたいに鍾乳洞とかがあるのかなって思ったんだ」

 見る限りただの岩の天井を見上げてそう言うと、納得したようにシャムエル様も上を見た。

「今歩いている辺りは、地下洞窟を開放する時に作った普通の地下道だからね。まあ数年程度だよ」

「おお、そうなんだ。確かにただの岩の洞窟って感じだよな」

 今歩いている通路は、頭上も足元の地面もそれから壁も全部ただの岩だ。

 若干湿気が多い気もするが、東アポンの地下洞窟のように、あちこちから水が湧いて水浸しになっている様子も無い。確かに作って間もないって感じだ。



「ちなみにここは、ハスフェルが地下迷宮と名付けたように、各階層がはっきりと分かれているんだ。それに通路もかなりしっかりと確保されているから、各階層の移動は比較的容易だよ。狭い裂け目に体を捻じ込まなきゃならない様な場所は無いからね」

「へえ、そうなんだ。つまり奥に行っても、ここみたいにそれなりに余裕を持って歩けるって事だな?」

 頷くシャムエル様を見て、シルヴァ達も笑っている。

「泥だらけになるなんて、嫌だもんね」

「そうよね。確かに嫌だわ」

 シルヴァの言葉に、グレイが大真面目に頷いている。

 まあ、女性的には確かに嫌かも。

「水に濡れる事はあるけど、泥だらけは……無いね」

 断言するシャムエル様の言葉に、二人は喜んでいる。それを聞いて、密かに俺も喜んでました。



「この地下迷宮は、最初の階層が出来てから百年ちょっとで物凄い成長を見せた、今までとは違った面白い洞窟なんだよね」

 鼻の辺りを膨らませながら、嬉しそうなシャムエル様が不思議な事を言う。

「へえ、百年程度なら鍾乳石は無いんだな」

「え? どうしてそうなるの? もちろんあるよ。此処は、未だかつて無いくらいのもの凄く大きな鍾乳石だらけなんだからね!」

 自慢気なその言葉に、俺の方が首を傾げる。

「ええと……この世界では、鍾乳石ってそう簡単に出来るものなのか?」

「そんな訳ないよ。これくらい育つのに、軽く数百年掛かるね」

 シャムエル様のちっこい掌を二つ並べて見せられて、眉を寄せる。

「待て待て、話が矛盾してるじゃないか。この地下迷宮が百年ちょっとで凄い成長を見せたっていうのなら、そんな大きな鍾乳石が育ってる訳ないだろう?」


 しばし無言で見つめ合う。


 ちなみに、全員が素知らぬ顔で歩きながらも、俺達の会話をめっちゃ聞いている。



「そうか、ケンは地下洞窟の出来る過程を知らないんだな」

 オンハルトの爺さんの声が聞こえて、思わず振り返ると、シルヴァとグレイまで何やらウンウンと頷いている。

「ええと、どう言う事?」

 すると、シャムエル様が俺の頬を叩いた。

「ケンの世界の感覚では、東アポンの洞窟だったらどれくらいの時間がかかってると思う?」

「あの洞窟か? そりゃあ……軽く見積もっても何十万年って単位だと思うけどなあ」

「あの地下洞窟は、五十年ちょっとで仕上がった洞窟だよ」

 あの見事な百枚皿や巨大な鍾乳石の数々を思い出して無言になる。うん、きっとこれは揶揄(からか)われているに違いない。



 俺が無言でいると、シャムエル様はまた頬から鼻の辺りをぷっくらと膨らませた。

 なんだよその可愛い仕草は。お願いだからモフらせてください!



 思考が脱線しかけた時、シャムエル様は小さな石を取り出した。

「これが、洞窟の核になる石だよ」

 差し出されたそれは、ごく普通の、そこらにあるただの石に見える。

「まず、洞窟を作りたい場所に、この石を埋めるんだ。すると地脈の流れが変化して、核になる石をどんどん地中へ引き摺り込んでいきます。ある程度の深さまで潜り込むと、核になる石はその周りの地下に巨大な結界を張ります。ここまで良い?」



 うん、さっぱり分からんけど、要は地下洞窟の作り方の説明をしてくれてる訳だな。これは。

 頷く俺を見て、更に説明を続けてくれる。



「地中に張られた結界内では、その直後から地上の時間経過とは違う流れ方になります。つまり、時間軸が別になって、時間が早く過ぎるようになります」

「時間が早く過ぎるようになる?」

「そ。例えばこの地下迷宮の場合は、結界が張られた直後は千倍だったんだけど、その後もどんどん加速し続けて、最終的には百万倍までいったんだ。さすがにその時は驚いたよ」

「待て!百万倍ってなんだよそれ! って事は今、外の世界ではどれだけ時間が流れてるんだよ!」

 意味を理解して慌てた俺に、シャムエル様は笑って首を振った。

「大丈夫だよ。今はもう外の世界と時間軸は同一に戻ってるよ。外の世界への出入り口を作った時点で、元に戻ってます。だから安心してね。ここで十日過ごせば、外の世界でも十日過ぎてるだけだよ」

「おお、それなら安心だよ……」

 苦笑いした俺は、前を進むハスフェルが立ち止まったのに気づいた。全員が足を止める。

「この先には、百枚皿が広がる最初の空間がある。トライロバイトが大繁殖しているがどうする? ちょっと戦ってみるか?」

 ジェムははっきり言って腐るくらいあるんだけど、久し振りにちょっとは戦っておいた方が良いかな?

 考えている内に、その広場に到着してしまった。



 おお、いるわいるわ……しかし、距離感がおかしい。

 東アポンで見た百枚皿がショボく見える位に、一枚の大きさが巨大な百枚皿が、見渡す限り広がっていた。

 その巨大な百枚皿の中で、以前見たトライロバイトよりも遥かに巨大なのがあちこちに大量に発生していた。

 トライロバイトの大きさがおかしい。小さい奴でも五十センチオーバー……全長1メートルクラスの体に、三十センチ以上ある角を持ったのもゴロゴロしてるぞ。

「いや、大きさおかしいだろう、あれ。何あの巨大なトライロバイト」

 確か、前回の洞窟でのトライロバイトは、掌サイズだった。たまにいた角持ちの亜種のデカいのでも、全長が40センチ前後だったはずだ。

 俺の言葉に、ハスフェルが振り返る。

「あそこにいたのはブラックトライロバイト、ここにいるのはシルバートライロバイトだ。あのデカい角を持ってる巨大なのがトライロバイトの中では最上位種のゴールドトライロバイトだよ」

 その言葉に、ギイも笑って頷く。

「ほお、ここは上位種が多いんだな。これは先が楽しみだ」

「角持ちは亜種じゃ無くてゴールドなんだ」

 感心した俺の言葉に、ハスフェルはいきなり百枚皿の一つに近寄り、大きなツノを掴んで一匹捕まえて見せた。

「シルバーの亜種は、この一本角の奴だ。角が曲がっているのや、瘤を持った奴もいるけど、素材としての評価は変わらないから気にしなくて良い。これは工房都市へ持って行けば大喜びで買ってくれるぞ」

「へえ、そうなんだ。じゃあちょっと頑張ってみようかな」

 工房都市は、今の所最終目的地だもんな。ちょっと考えて俺はアクアから西アポンで買ったミスリルの槍を取り出した。

「トライロバイトは、剣よりもこっちの方が有効だったよな」

「お、覚えてたな。じゃあそれで頑張れ」

 広い百枚皿のあちこちに、他の神様たちもそれぞれの得物を取り出して構えている。シルヴァとグレイは今回は見学するみたいで、後ろに下がってしまった。

「じゃあ私は、先に進みますね」

 ベリーの声が聞こえて、姿を現したベリーはあっという間にいなくなってしまった。

 まあ、賢者の精霊を俺が心配するのは失礼だよな。


 苦笑いして、俺は槍を持ち直して身構えた。

 スライム達がバラバラに戻り、アクアとサクラ、それからアルファとベータが俺の左右と背後を守ってくれる。

「よろしくな。でも無理はするなよ」

「大丈夫だから、背中は任せてねー!」

 得意気なアクアの声に、俺は槍を突き上げた。

「ああ、じゃあ行くぞ!」

 俺達の気配に気付き始めたトライロバイト達が、一斉に騒めき始めていた。



 さあ、いよいよ地下迷宮初のジェムモンスター達との戦闘開始だ!

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