無茶振りと神様達の反省会
「おお、手伝ってもらったら、めっちゃ早く出来たな。よし、食おうぜ」
すり下ろし玉ねぎで作る特製ステーキソースは、全部のフライパンの油を全部集めて一つにしてまとめて作った。これなら俺も一緒に食えるからな。
俺とレオが座るまで、全員が大人しく座って待っていた。本当にどうしたんだ?
「ご苦労さん。飲むか?」
ハスフェルが赤ワインを見せてくれたが、俺は笑って首を振った。
「俺はこっちで良いよ。明日、酒が残ってたら大変だからさ」
緑茶の入ったピッチャーを見せると、苦笑いしたハスフェルは笑って頷いてくれた。
「無事に地下迷宮から戻って来たら、その時は心置きなく飲ませてもらうよ」
それぞれ笑った神様軍団が、持っていたグラスを上げて乾杯をした。俺は自分のカップに入れた緑茶で乾杯したよ。
焼き立てのステーキは美味しい。炊き立てのご飯に乗せながら、俺は久し振りのステーキをゆっくり楽しんだ。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あーっじみー!」
何やら新しくなった味見の歌を歌いつつ、小皿を持って踊っているシャムエル様に、俺は赤身のステーキ肉を一切れ更に小さく切って乗せてやり、付け合わせの野菜とフライドポテトも少しずつ取ってやる。最後に、杯にご飯を少しだけ取り分けてやれば終わりだ。
「はい、どうぞ」
「わーい! 今夜はステーキだ!」
ご機嫌で受け取ったシャムエル様は、お皿に顔面から直ダイブしていった。
「相変わらず、豪快に行くなあ」
ご機嫌で食べるその様子を見ながら、俺は残りのステーキを、ご飯にソースごと乗せてステーキ丼にしたよ。
ううん、大満足。
「なあ、思ってたんだけど、今日は何だか皆手伝ってくれたよな? まあお陰で俺は早く食えたからさ。有り難かったけど」
何の気無しの言葉だったんだが、ハスフェルとギイがいきなり食っていた手を止めて真顔で俺を見た。
「な、何だよ?」
思わずビビって仰け反ると、二人だけじゃなく神様軍団全員が、俺に向かって何やら申し訳無さそうに深々と頭を下げたのだ。
「ちょっ! 一体何事だよ」
慌てて食っていたお皿を置くと、俺の隣に座っているハスフェルとギイが、顔を見合わせて揃って眉を寄せた。
「いや、ちょっと最近、お前に無茶振りが過ぎたなと思って……」
「ケンは優しいから、良いよって言って、何でも聞いてくれるから、つい、な……」
言葉を濁す二人に、俺は驚いて他の皆も見る。全員が食べる手を止めてこっちを見ていた。
「我ら、皆揃ってケン殿の優しさに甘え過ぎておったようだと気が付いてな。それで……料理は無理でも、準備程度なら手伝えるのではないかと考えたのじゃ。どうだ? 我らでも少しは役に立てたかのう?」
申し訳無さそうに説明してくれたオンハルトの爺さんの言葉が、俺の頭の中で理解出来るまで、かなりの時間を要した。
「ええと、つまり……ドユコト?」
「だってさ、いくら何でもあれだけの数のスライムを一日でテイムするなんて、無茶が過ぎるよ。一応、寝ている間にフォローはしたけど、大丈夫? 胸が苦しかったりしない?」
お皿の横に座って食後の身繕いをしていたシャムエル様が、真顔でそんな事を聞いてくる。
「ええ? 胸が痛いって何だよ? 俺は別に心臓は悪く無い……よな!?」
もしかして、まさかの今更の何処かに不具合発生だったりするのか?
慌てる俺を見て、シャムエル様が笑って首を振る。
「違うよ、別に君自身はどこも悪く無いって。そうじゃなくてね。本来、テイムするって言うのは、気力も体力も使うものなんだ。だから、一日でテイム出来る数なんて、数が限られているんだよね。だけど、君の場合は私が念入りに作ったから、色々と規格外に頑丈なんだよね。まあ、だから樹海のジェムモンスターに丸呑みされても死ななかったんだけどね」
今、何気なく、とんでもない爆弾発言を複数頂いた気がするんだけど、うーん。これは何処から突っ込むべきだ?
「ええと、まず……一日にテイム出来る数が限られてるって、何?」
何やら嫌な予感がしてそう聞くと、シャムエル様は頬を膨らませてため息を吐いた。
何だよその可愛い仕草は。
ちょっと突っついても良いか? その膨れた頬っぺた。
思考が脱線しそうになったが、何とか無理やり引っ張り戻す。
「いやだってさ、昨日一日でケンがテイムしたスライムの数って、改めて数えたら全部で六十匹もいたんだよね。しかもエリゴールとレオ、それからオンハルトの三人は、ダブった色の子までテイムしてるし」
無言で彼らを見ると、確かに、ダブった色の子達がいるぞ。そうだった、すっかり忘れていたけど、彼らにも一匹ずつテイムしてあげてたじゃんか。何してるんだよ、俺は。
「あはは、昨日はもう勢いで集めたから気が付かなかったよ。ダブってるなら言ってくれないと」
笑いながら、一日で六十匹もテイムした自分に感心していたら、シャムエル様からまたしても爆弾発言頂きました。
「さすがに、正直に言うとその数は致死量に近かったんだよね。だから、君がマックスの上で気絶した時、私は本気で慌てたんだからね」
妙にしみじみという言葉に、俺の思考も止まる。
「今、何つった? 何が致死量だって?」
駄目だ。頭が理解する事を拒否してるぞこれ。
「だから、人の子が一日で六十匹も一人でテイムするのは自殺行為なの! 本当に死んでてもおかしく無かったんだからね!」
その言葉に、俺は驚きのあまり持っていたカップのお茶をこぼしてしまった。
慌てたサクラが、あっという間に綺麗にしてくれたんだけど、それにお礼を言う余裕は無かった。
「……マジ?」
「マジマジ!」
思わずそう言うと、真顔のシャムエル様が何度も頷いてマジなのだと言う。
そっか、全回復する筈の、美味しい水を飲んでも、倦怠感が残っていたのは、そのせいだったのか……。
ちょっと気が遠くなった俺は悪く無いよな?
「だからさ。君が寝ている間に、大丈夫なように色々と調整しておいたんだ。だけど、これからもだからと言って無茶は駄目だからね。一応、私から彼らに、あんまりケンに無茶言わないようにしっかりと言い聞かせておきました!」
いつの間にか、シャムエル様の隣には、小人のシュレムも現れてウンウンと頷いている。
「我らがしっかりと言い聞かせておいた故、もしもまた無茶振りされるような事があらば、いつなりと呼ぶが良い。じっくりと言い聞かせて進ぜる故な」
おお、正座再びかよ。
若干びびりつつ、しょげ返る神様達を見る。
「別に、俺はそんな無茶を言われた覚えは無いんだけど?」
「だから、ケンは優しいんだって。テイムの上限があったのに後で気がついて、本当に慌てたんだけどね。まあ、ケンを止めるのをすっかり忘れて、揃った子を見て喜んでた私も悪いんだけどさあ……」
シャムエル様までが、そんな事を言ってしょげ返っている。
どうやら、隠しキャラを見つけてテンションが上がっていたのは俺だけじゃ無かったみたいだ。
「それでいきなり、皆が俺に気を使ってくれていた訳か」
無言で頷く彼らを見て、もう俺は笑うしか無かった。
「そう言う事情だったんだな。了解だ。だけどまあ、食事の時に少しでも手伝ってもらえると有り難いからさ。これは、これからも出来ればお願いするよ。だけど、別に俺はなんとも無かったんだし。変な気を使うのはやめてくれよな。本当に嫌な事なら、ちゃんと俺は言うよ、嫌だってさ」
「ほんとうに?」
シルヴァの声に、俺は笑って肩を竦めた。
「まあ、今から思えばスライム集めに関しては、我ながらちょっと無茶したと思うよ。だけどなあ……超レアな隠しキャラを自力で発見したんだぞ。テンション上がらない方がおかしいよなあ」
「だよねー!」
「だよなー!」
満面の笑みのシルヴァと手を叩き合い、まだ茫然とこっちを見ているハスフェル達を振り返った。
「じゃあ、とっと片付けて休むとしようぜ。それで明日は夜明け前に起きて行くんだろう?」
例の裂け目を指差してやると、苦笑いしたハスフェルが大きく頷いた。
「おう、じゃあ、改めてこれからもよろしくな」
握った拳を差し出されて、俺は笑って拳をぶつけ返した。
順番にギイ、レオ、エリゴール、最後にオンハルトの爺さんと拳をぶつけ合って振り返ったら、満面の笑みのシルヴァとグレイも同じように拳を差し出していた。
「これからも、よろしくね」
二人が声を揃えてそんな事を言うもんだから、そっと拳を返した。
実はその時、ちょと不整脈が出たんだけど……これは大丈夫だよな?