全色揃うと……?
「じゃあお願い!」
手を離したシルヴァとグレイにそう言われて、俺は内心で残念に思いつつも大きく頷いた。
俺達の様子を笑って見ていたハスフェル達も、馬や従魔達から降りて茂みを囲んだ。
「追い出すぞ」
「おう、いつでもどうぞ」
抜いた剣を持ってそう言うと、全員揃って茂みからスライムを追い立ててくれる。
「この子でお願い!」
アクアと同じ透明なスライムを、シルヴァがこっちへ追い立てる。
「オッケー!」
目の前に飛び跳ねてきたそいつを、力一杯剣の面でぶっ叩く。
気持ち良くヒットして茂みに吹っ飛ぶスライムちゃん。
テイムしたこの子は、フランス語の数字の6を意味するシス、って名付けてやった。
次にテイムしたのはグレイに渡してやり、7って意味のセットと名付けた。
サクラカラーの透明ピンクの二匹には、8と9って意味のウィットとヌフと名付けた。安直と言うなかれ、毎回名前を考えるのって大変なんだよ。
「オレンジがいないな、ここは透明な子ばっかりだよ」
先程から、何度か追い出してもらっているが、どうやらここにはオレンジの子はいないようだ。
俺の言葉に、ハスフェルも頷いて肩を竦めた。
「スライムの巣はここだけじゃないからな。じゃあ場所を変えよう」
新しく仲間になった、それぞれ二匹のスライム達を、二人は何と頭の上に乗せている。
テニスボールよりも小さくなった二匹は、得意気に頭の上で伸び上がっている。
しかし、透明なその体は太陽の光に当たって、キラキラとまるで宝石のように輝いているのだ。
それぞれの馬に乗るのを見て、俺も寄ってきてくれたマックスの背に飛び乗った。
しばらく走ってまた別の雑木林で止まる。
「あの茂みにスライムの気配がするよ。さっきの所よりも大きな巣みたいだから期待出来るかな?」
レオの声に、シルヴァとグレイが頷いている。
「じゃあ、とりあえず一度追い出してみてくれよ」
剣を抜きながらそう言うと、いつもの如く全員揃って茂みを取り囲み、唯一開いた俺の立っている場所に向かってスライムを追い立て始めた。
茂みがガサガサと騒めいた直後、ものすごい数のスライム達が一斉に俺に向かって跳ね飛んで来た。
「うわうわ! ちょっと幾ら何でも数が多すぎるって!」
とりあえず剣で顔の前をガードしながら叫ぶと、スライム達は見事に俺の前で左右に分かれて逃げていく。
「オレンジ見っけ!」
シルヴァの声がした直後、ポーンと跳ね飛んだオレンジのが俺の目の前に飛び出してきた。
「よっしゃー! オレンジいただき!」
剣でぶっ叩くと、これまた間抜けな音を立てて、見事に吹っ飛んで少し先にあった木に真正面から激突した。
「あ……」
見事にぺシャリと広がって、木に張り付いたオレンジのスライムは、そのまま流れ落ちるようにズルズルと落ちていった。
「ご、ごめん、死んだかも……」
慌てて駆け寄って見ると、バレーボールくらいの大きさに戻ったオレンジのスライムは、プルプルと震えて縮こまっていた。
「おお、ちゃんと生きてた。よしよし。お前、俺の仲間になるか?」
ホッとして小さく笑い、手を伸ばして掴んでそう言ってやる。
「はい! よろしくです、ご主人!」
元気良くそう言ったスライムは、いきなり大きくなりいつもの子達よりもふた回りくらい大きくなった。
「亜種か?」
「スライムに亜種はないはずだぞ?」
背後から覗き込むハスフェルの言葉に俺も首を傾げつつ、右手を額に当てて命名してやる。
「お前はディス。だけどお前は俺の所じゃなくて、別の凄い人の所へ行くんだぞ。可愛がってもらえよな」
額の紋章が光った後、先程のバレーボールサイズに戻った。
「ええと、これはシルヴァかな?」
満面の笑みで両手を差し出す彼女にオレンジの子を渡してやる。
「ほら、この人が新しいご主人だよ。可愛がってやってくれよな」
「よろしくねディスちゃん。シルヴァよ」
嬉しそうに話し掛けるシルヴァに笑って頷き、俺は振り返ってハスフェルに合図をした。
すぐにまたスライムが、一斉に茂みから飛び出してくる。
「だから数が多いって!」
今度も、グレイが自分で発見した。
「ケン、行ったわ!」
グレイの言う通り、透明なスライム達の中に、オレンジのが跳ね飛んでいるのが見えた。
「よし、見つけた!」
先程よりも少し緩めにぶっ叩くと、やっぱり横の木に激突して地面に落ちたが、さっきよりは原型を留めていたと思う。
捕まえてテイムしてやり、オンズ、と名付けた。
さっきのディスがフランス語の数字の10で、オンズは11って意味だ。
「はい、どうぞ。これで全部だな」
グレイに渡してやり、嬉しそうにスライムに話し掛けるグレイを眺めていた時だった。
「ええ!ちょっと何これ! 何これ! 何これー! 私のスライムちゃん達はどこへ行ったのよーー!」
泣くようなシルヴァの悲鳴が聞こえて、俺は慌てて振り返った。
そして、目に飛び込んで来たその光景に、俺も思わず声を上げた。
「ええ、ちょっと待てって! そいつ何だよ?」
叫んだ俺は、間違ってない……断言。
「ええー! スライムちゃん達消えちゃったよぅ……」
半泣きになっているシルヴァの目の前にいるのは、掌に乗るくらいの大きさの、羽の生えたスライムだった。なんと、スライムなのに宙に浮いている。
まるで天使のような金色の一対の翼を広げたそのスライムは、見事なまでに全身金色だった。
しかしつるんとしたその額には、間違い無く俺の紋章が刻まれている。そしてその大きさは、羽を広げていてもリアル雀サイズ。ちっさ!
全員が呆気にとられて声も無く呆然としていると、今度はグレイの悲鳴が聞こえてまたしても振り返る。
一瞬だったけど確かに見たよ。俺の目には見えたよ。
オレンジの子が透明な子にくっついた瞬間、全部のスライム達が、まるで吸い込まれるように透明のにくっ付いていき、次の瞬間、もうそこにいたのはシルヴァの目の前にいたのと同じ、羽の生えた全身金色の小さなスライムだったのだ。
パタパタと羽を軽く羽ばたかせたそいつは、軽々と浮き上がってグレイの目の前に浮かんだまま留まった。
「ああ、ついに見つかっちゃったよ。超レアな隠しキャラ発見だね。二人共おめでとう」
一人平然としているシャムエル様の言葉に、見事なまでに全員が揃って俺を振り返る。
「ま、まさかの隠しキャラだったのかよ……」
膝から崩れ落ちた俺は、そのまま地面に座り込んで笑い出した。
もう、驚きすぎて笑いが止まらない。
「ま、まさかの虹色スライム七匹に、クリアー二匹で合成かよ。シャムエル様、最高だな」
笑い転げる俺に、右肩に座っていたシャムエル様が地面に現れてドヤ顔になった。
「ケンは、隠しキャラを見つける醍醐味を分かってくれたみたいだね。あ、ちなみにその子達はいつでも分解して元に戻るよ。それからその金色のスライムは、凄い力を秘めているから大事にしてあげてね。合体させたい時は、クリアーの子とオレンジの子をくっ付けると、全員集合して合成するからね。分解したければそう言えば良いよ。元に戻れって」
半泣きだったシルヴァが、目の前にいる金色のスライムに向かって口を開いた。
「元に戻ってください」
次の瞬間、ボトボトと元に戻ったスライム達が地面に落っこちてあちこちに転がる。
それを見た瞬間、全員が同時に吹き出して大爆笑になったよ。
「良いなあ、隠しキャラ。ちょっと俺も欲しいかも……」
地面に転がったまま、笑い過ぎて出た涙を拭きながらそう呟くと、アクアとサクラが凄い勢いですっ飛んできた。
「お願いご主人! アクアもやりたい!」
「金色合成やりたい!やりたい!」
俺の目の前でポンポンと跳ね回る二匹を見て、小さく笑った俺は大きく頷いた。
「よし、こうなったら俺も隠しキャラゲットするぜ!」
俺の宣言を聞いた全員が、ほぼ同時に手を上げて声を揃えて叫んだ。
「俺も欲しいぞ! お願いします!」
ってな訳で、相談の結果、まずはここで全員分のオレンジのスライムをテイムして、大鷲達にも手伝ってもらい、転移の扉で移動したよ。
その結果、丸一日かかって俺達全員が、カラースライム七色とクリアー二色で合計九匹ずつのスライムを、無事にテイムした。
めっちゃ疲れたけど良いんだ、七色揃ったスライム達は確かにめっちゃ可愛い。しかも、神様が秘めた凄い力があるなんて言うんだからな。そんなの、知った以上は集めない訳には行かないよな。
勢揃いしてドヤ顔になるスライム達を前に、俺達は大喜びで合成と分解を何度もやっては、その度に笑って手を叩き合っていたのだった。