スライム集め開始!
「よっしゃー!一番取ったぞ!」
ハスフェルの喜ぶ声に、僅かに遅れた俺とギイは笑って拍手をしてやった。
「ああ、悔しい! だけど、これでそれぞれ一勝二敗だな。よし、次は絶対勝つぞ」
まだ興奮して飛び跳ねるマックスを宥めるように首筋を叩いてやりながら、俺はマックスにそう話しかけた。
「ええ、次は絶対に負けませんよ。私も悔しいです!」
そう答えるマックスの尻尾はものすごい勢いで振り回されているので、俺の背中にブンブンと風が来ている。
「分かったから、ちょっと落ち着こう。振り落とされるって」
俺の言葉に、慌てたようにマックスが大人しくなる。
ようやく追い付いてきた馬に乗った神様達が、それぞれハスフェルの背中を叩いて行く。
全員揃ったところで、スライムがいる茂みを探す事にした。
「さてと、緑と青のスライムちゃんは何処にいるのかな?」
俺の呟きに、シルヴァとグレイが笑って拍手している。皆で少し離れて並び、ゆっくりと周りを見ながら静かに林沿いの茂みの横を進んで行く。
「ああ、見つけた。あの奥の黄色の花が咲いている茂みにスライムの巣があるぞ」
オンハルトの爺さんがそう言って指差した場所には、確かに黄色い小花が咲いたこんもりとした大きな茂みがある。
「じゃあ、前回同様に、俺が飛び出て来たところを捕まえてテイムするから、追い込みよろしく!」
マックスの背から降りて、茂みに近づいて行く。
ハスフェル達も、全員が従魔や馬から降りてこっちを見て身構えている。
剣を抜いた俺は、振り返って彼らに頼んだ。
「準備オーケーだよ。こっちへ追い込んでくれるか。あ、グレイとシルヴァは、自分で捕まえてくれても良いぞ。俺がやったみたいに、棒や剣の横面で引っ叩いてやれば良い」
しかし、二人は顔を見合わせて首を振った。
「私達がやったら、多分、スライムの核ごと破壊しちゃうわ。申し訳ないけど、ケンに頼むのが安全だと思います」
神妙な顔で揃ってそんな事を言われたらもう笑うしか無いよ。
って事で、今回も俺が捕まえる事になりました。
「じゃあ行くぞ」
横に並んだ神様軍団が、ゆっくりと奥側から茂みに近寄って来る。
一瞬、茂みがざわついて、気配を隠さない神様軍団に怯えたスライム達が、次々と茂みから飛び出して来た。
アクアとサクラタイプのクリアーもしくはピンククリアーな子が多いんだが、中から濃い緑の子が飛び出して来た。
「緑見っけた!」
そう叫んで、背後から思いっきりぶん殴る。
スポーンと間抜けな音がして、緑のスライムは吹っ飛んで隣の茂みに突っ込んでいった。
「何処ですか?緑のスライムちゃんは?」
剣先で茂みをかき分けると、縮こまってブルブル震えている緑のスライムを発見した。
そのまま掴んで引っ張り出してやると、嫌がるように身をくねらせたが、逃げる事は無かった。
「俺の仲間になるか?」
「はい! よろしくです!ご主人!」
そう答えて唐突に光り、ビーチボールよりも大きくなる。
手袋を外した俺は、右手をスライムの額に当ててやり名前を告げる。
「お前の名前はドゥ。お前は俺じゃなくて、凄い人のところへ行くんだからな。可愛がってもらえよ」
紋章の浮いた額が光り、シュルシュルと小さくなる。そっと抱き上げてやり、振り返った。
「どっち……はい、シルヴァだな。よろしくな。ドゥだよ」
そう言って、抱いたスライムをシルヴァに向けてやる。
「この人がお前のご主人だよ」
ドゥは、伸び上がって俺を振り返ってから前を向いてシルヴァを見た。
「貴女がご主人ですか?」
「そうだよ。私はシルヴァ。よろしくね。ドゥ」
満面の笑みで差し出された両手にスライムを乗せてやる。
「新しいご主人、よろしくですー!」
嬉しそうにそう言うドゥに、シルヴァは満面の笑みで抱きしめた。
それからもっと小さくなって、シルヴァの右肩に並んで留まった。
う、羨ましくなんて……。
もう一匹緑のスライムをテイムしてやり、トロワと名付けてグレイに託した。
その後何度か茂みからスライムを追い出してもらったんだが、緑と透明と透明ピンクばかりで青い子がいない。
「ふむ、場所を変えるか。青はここにはいないようだな」
オンハルトの爺さんの言葉に皆も頷き、少し離れて待っていてくれたマックス達の元へ向かった。
「探すと案外見つからないものだな」
マックスの首に抱きついて、ため息を吐いて呟く。
「全くだ。ジェム集めをしていた時は、色など気にもしていなかったわい」
オンハルトの爺さんの言葉に、全員が笑って頷いている。
「じゃあ次へ行こう」
マックスに飛び乗ってそう言うと、全員素早く騎乗してまた別の林を目指して走り出した。
その後、無事に青のスライムも見つけて、二匹テイムしたよ。名前は、シルヴァのがカトル。グレイのがサンク。
はい、ここまで引き続きフランス語の数字の2、3、4、5だよ。だってそんなに名前考えるの大変だし。
「あとはオレンジを見つければ終わりだな。じゃあ転移の扉のある場所へ行くのか?」
まだ、たいして時間は経っていないので、このまま河口の街のターポートへ向かう事になった。
普通ならこのまま街へ戻って船でターポートへ行くんだけど、早く地下迷宮に行きたい神様軍団なので、時短の為に転移の扉で行くよ。
ハスフェルが呼んだ大鷲と、一緒に来てくれたその仲間の大鷲達に全員が乗り込む。俺達は、巨大化してくれたファルコにプティラ以外は全員乗せてもらい、一気に空に飛び立って行った。
かなりの高度で川を越え、あっと言う間に到着した西アポン側の川沿いの森の中にある転移の扉を開く。
そこは粗末な石の祠跡で、足元の敷石が出入り口になっていた。
相変わらず急な階段を降りて降り立ったそこは、やっぱり何処から見ても、まんまエレベーターホールだったよ。
定員オーバーで、全員一度では乗れなかったので、二組に別れて乗り五番の扉で出る。
エレベーターホールで合流して、そのまままた階段を上がって地上へ出たよ。
ここの目印は石の置物で、なんだかよく分からない古いオブジェみたいな石板が置かれているだけだった。
石板自体がはね窓みたいに上に上がって開き、そこから出入りする仕組みになっている。
誰かに出入りしているところを見られないかちょっと心配したけど、周りには結界があって大丈夫なんだって。
それに、ここに入って来られるのは、この石板が見える人だけらしい。
石板から離れると、そこは深い森の中だった。森を抜けて川沿いの草原へ出て、クーヘンから聞いた辺りへ向かう。
しばらく探した結果、無事にスライムの巣を発見したよ。
「じゃあ、さっさとテイムしようぜ」
俺がマックスの背から降りると、シルヴァとグレイが顔を見合わせて頷き合い、揃って俺の所へ来た。
「ねえケン。お願いがあるんだけど聞いてもらえる?」
両手を握ったお願いポーズのシルヴァの様子に、嫌な予感がしたが、とりあえず頷く。
「おお、改まって何だよ。一応聞くけど、無茶はやめてくれよ」
「あのね、サクラちゃんとアクアちゃんの色の子達も欲しいの!」
「お願いします!」
揃ってお願いポーズの二人を見て。俺は安堵のため息を吐いた。
「何だよ、改まって言いにくるからどんな無茶振りかと思ったよ。構わないぞ、透明の子達は幾らでもいるから、好きな子を選べば良いよ」
「ありがとうケン! 大好きー!」
モテ期第二弾キター!
両隣から抱きつかれて、俺は脳内ファンファーレの音を聞きつつ、前回同様どうしたら良いのか分からずに、またしても固まってしまったのだった。