三面クリアお疲れ様でした
見事に散らばっていたゴールドバタフライのジェムと羽根が全部集められて、見事に花畑が復活した。
「次が出るまで、もう少しかかるな。どうする?」
奥の林を見ながらそう言うハスフェルに、俺は思い切り首を振った。
「とりあえずここから移動しよう。ちょっと疲れたから休憩したいです!」
手をあげる俺に、ハスフェルは鼻で笑った。
「だから言っただろうが。たまには戦わないと腕が鈍るぞ、とな」
思いっきりその通りなんだけど、素直に認めるのはちょっと悔しい。
笑って誤魔化し、サクラから万能薬入りのお茶を入れた水筒を取り出した。
「はあ、染み渡るよ……」
一気に飲み干してそう呟くと、それを見ていたハスフェルがニンマリと笑った。
「無事に体力が回復したみたいだな。で、思ったよりも早く次が出るぞ。そろそろ構えろよ」
「ふえっ?」
水筒の蓋を閉めながら顔を上げた俺が見たのは、奥の林から先ほどと変わらないくらいの数のゴールドバタフライが湧き出してくるところだった。
「か、勘弁してくれー!」
叫んだ俺は、悪く無いよな?
結局、そのまま否応無く戦いに突入してしまい、二面目をクリアーする頃には、もう疲れ切ってヘトヘトになった俺は地面に転がって伸びていたよ。
「お疲れ様。しかし相変わらず、持久力無いね」
胸元に現れたシャムエル様に呆れた様に言われたが、呻き声が出ただけで、もう口答えする元気も残っていない。
無言で地面に転がる俺を見て、シャムエル様は小さくため息を吐いた。
「仕方ないなあ、ほら、これ飲みなさい」
出してくれた水筒の水を、重くなった腕で受け取り素直に飲んでみる。
「おお? 何だこれ、めちゃめちゃ甘くて美味い水だな」
一口飲んで驚いた。さっき飲んだ万能薬入りのお茶とは比べものにならないくらいに甘くて美味しい。
そして気が付いた。あんなに疲れ切っていた筈の体が軽い。
驚く俺に、シャムエル様はドヤ顔になった。
「まあ、特別製のお水だからね。あ、この水筒もあげるから、サクラに持っててもらうといいよ。以前あげたのと同じで、勝手に水が増えるからね。今みたいに動けないくらいに疲れた時にはオススメだよ」
おお、またしてもレアなマジックアイテムもらっちゃったぞ。
「ええと、この美味しい水が出る水筒?」
「そうそう。あ、これは直接飲む為の水であって、お茶にしたりお料理に使ったりすると、以前あげた水筒と同じ、ただの水になちゃうから注意してね」
そう言われてよく見ると、以前もらった、いくらでも水が出てくる水筒とは色が違う。
「ありがとうございます。大事に飲ませてもらうよ」
今みたいに体力根こそぎ持っていかれた時でも、これを飲めば少なくとも体力は全回復するみたいだ。ある程度の回復をする万能薬入りのお茶や水よりも、こっちの方が回復具合は格段に良い。
うん、ありがたく頂きます。
サクラが足元に来てくれたので、水筒の蓋をしっかりと閉めて渡した。
「ええと、全回復の水入り水筒だよ。普段使ってる水筒と間違えない様にな」
「分かった。じゃあ出す時は全回復の水入り水筒?」
聞かれてちょっと考える。ううん。ちょっと語呂が悪いな。
最初にもらった水筒は、水が出る水筒と呼んでる、それ以外に預けているのは、普通の水筒と万能薬入りのお茶、って呼んでる二つがある。
「美味い水の水筒。で良いんじゃね?」
「分かった。じゃあそれで預かるね」
細長い触手がニュルンと伸びて一瞬で貰ったばかりの水筒を持っていった。
起き上がって大きく伸びをする俺を、ハスフェル達は面白そうに眺めている。
「成る程。あんな風に追加で色々と調整しているのか」
「そりゃあ面白がって、ずっと付いてる訳だ」
「まあ、人の子はすぐに壊れるから、微調整は大事だな」
「確かに」
何やら漏れ聞こえる会話が、若干怖いんですけど……。
頼むから、そう簡単に壊さないでくれよな。
振り返ると、ニンマリと笑った彼らと目が合う。
「ほら、次がもうすぐ出るぞ」
「いやもうマジで勘弁してください! もうジェムも羽根も充分集まりましたから!」
慌てて立ち上がり、とにかくマックスの背中に飛び乗ろうとして振り返った。
あれ、マックスがいなくて、ニニ達巨大化した猫族軍団が帰っている。
「ええと、いつの間に交代したんだ?」
すると、ニニは嬉しそうに目を細めて俺の体に頭を擦り付けてきた。
「さっき、シャムエル様とお話ししていた時よ。皆お腹いっぱいになったもんね」
「そっか、そりゃあ良かった。おかえり。じゃあ行くか」
しかし、ニニは何を言ってるんだ、こいつは? みたいな目で俺を見たのだ。
「ほら、そろそろ次が出るわよ、ご主人!」
当たり前の様に言われて、素直に従いそうになって焦った。
「いやいや、だからもう良いって!」
「何言ってるのよ、マックスやご主人だけ楽しんで狡い。私もゴールドバタフライやっつけたいわ!」
巨大化した猫族軍団総出でやる気満々で身構えられてしまい、俺はちょっと気が遠くなったよ。
結局、大喜びの猫族軍団が、ほぼ全てを駆逐してくれて、俺は端っこの方で巻き込まれない様に、逃げてくる奴を叩き切り続けた。
少しは楽になったとは言え、結局三面完全クリアーするまで、必死になって頑張ったよ。
「もう、今日は終了! もう帰ろう。キリがないよ!」
叫ぶ俺に、苦笑いしたハスフェル達もようやく頷いてくれた。
そこで我に返る。
マックス達がまだ戻って来ていないのだ。
「仕方がない。歩くか」
疲れてるし、またあの水を飲んでおくか。そう考えていると、レッドクロージャガーのフォールが俺の側へ来てくれた。
「ご主人、私の背中なら乗れるんじゃなくて? 毛はしっかり掴んでくれて良いわよ」
そう言って伏せてくれたフォールの背中は、骨ががっしりしている分、ニニよりは乗りやすそうだ。
「どうだろうな。じゃあちょっと乗せてもらっても良いか?」
そう言って胴体部分に跨ってみたが、首を振って降りる。
「ごめん、せっかくだけどニニより怖いよ。毛が短いからツルツルで掴むところが無いんだ」
せっかくの申し出だったが、残念ながらネコ科の猛獣は、基本的に騎獣には向いてないみたいだった。
「あら残念。それじゃあ誰に乗る?」
「いや、いいよ。歩くって」
笑ってそう言った時、突然、フランマが姿を表して俺の目の前で一気に巨大化したのだ。
「おお、そっか、幻獣は大きさを変えられるんだったよな。凄え。もふもふ具合も、巨大化して一層パワーアップしたぞ」
思わずそう叫ぶくらい、ニニと同じくらいの大きさになったフランマは、それは見事なもふもふっぷりを見せていた。
「この辺りは、人がいないから私に乗っても大丈夫でしょう? はいどうぞ」
目の前で伏せてくれた、白とピンクのもふもふの背中に乗らせてもらうと。跨った足がほぼ全て、ふかふかの毛に埋もれてしまった。
「うわあ、至福のもふもふタイムじゃんか……」
そう言って、前に倒れ込んで両手両足で首の後ろ辺りにしがみ付いた。
「何この、幸せ空間……」
そう呟いて目を閉じた瞬間、俺は疲れていた事もあり、一気に眠りの国へ墜落した。
うん、仕方がないよ。これは、不可抗力だって……。