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朝の大騒ぎとごめんなさい

 ぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみ……。

 カリカリカリ……。

 いつものモーニングコールチームの攻撃に、俺はニニの腹毛に埋もれたまま呻く様な声で返事をしただけだった。

 駄目だ。全く目が開かない。

 眠い……ただひたすらに、眠い。

 耳元で何やら話す声が聞こえたが、俺はそのまま再び眠りの国へ気持ち良く再出発してしまった。



「寝ちゃったみたいねえ」

「まあ、昨日は大活躍だったからね」

「どうしますか?」

「起こしますか?」

「お疲れみたいだし、今日くらい休ませてあげてもいいんじゃない? ハスフェル達もまだぐっすりみたいだしね」

「じゃあ、もうちょっと一緒に寝るー!」

「あ、ずるい。わたしもー!」

「私も一緒に寝るー!」

「良いんじゃない? じゃあ私はここで寝るー!」



「ううん……喉乾いた……」

 喉の渇きを覚えて目を覚ました俺は、横向きに寝ている俺の目の前に転がっているタロンの後頭部に小さく笑って、指で突っつこうとした。

「あれ? 腕が動かないぞ……?」

 無言で自分の状態を確認した俺は、堪え切れずに吹き出した。

 ニニの腹に乗り上げるみたいにして横向きに寝ている俺の胸元には、フランマが潜り込んでいて見事に抱き枕状態になっている。その下側になった俺の左腕をフランマが完全に抑え込んでいて、そしてその上に乗せられた右腕の上からは、ソレイユとフォールの二匹が並んで全身で抑え込んでいる状態になっていた。

 要するに、ニニの腹の上に、横向きに寝ている俺の左腕、フランマ、俺の右腕、その上にソレイユとフォールと云う密着ミルフィーユ状態になっているのだ。

「そりゃあ、俺の腕が動かない訳だ」

 ため息を吐いて、なんとか腕を引っこ抜いて起き上がろうとしたが果たせなかった。

 両腕が思いっきり痺れていて、全くと言っていい程に感覚が無い。

「うわあ、これってヤバイぞ。痺れが半端ないって」

 そのまま後ろ向きに転がってウサギコンビにもたれかかって悶絶していると、ニニの腹の上でミルフィーユ状態になっていた皆が起き出した。

「あ、ご主人起きた。おはよう」

 ご機嫌なフランマが、俺が伸ばしたままの腕に頬擦りするのと、俺の悲鳴が部屋中に響き渡るのはほぼ同時だったよ。





「全く、驚かせるんじゃないよ」

「本当だ。一体何事かと思ったじゃないか」

 ハスフェルとギイのからかう様なその言葉に、俺はようやく動く様になった腕を振った。

「いや、本当にごめんって。マジで、本気で痺れて痛かったんだよ」

 彼らの後ろでは、レオとエリゴール、それからオンハルトの爺さん。それにシルヴァとグレイの二人も揃って頷いている。机の上ではシュレムも笑っている。

 皆、服は着ているが防具の類は一切無く、何とも身軽な服装だ。

 俺の足元では、申し訳なさそうな従魔達が揃って並んでいる。

「別に誰も怒ってないみたいだからもう気にしなくて良いぞ。だけど、出来ればあそこまで完全に痺れる前に退いて欲しかったよ」

 笑いながら、順番に撫でてやると、皆嬉しそうに喉を鳴らしていた。


「じゃあ、まずは食べよう。ってか、朝飯にはかなり遅いけどさ」

 作り置きのサンドイッチを取り出す俺に、揃って苦笑いしている。そんな彼らを見て、俺はコーヒーも取り出して各自のマイカップに注いで回った。




 さっきの痺れた腕にいきなり思いっきり頬擦りされて悲鳴を上げた瞬間、ハスフェルとギイの二人が突然、俺の目の前に現れたのだ。

 二人共、身支度は整えているがまだ防具や剣帯は身に付けていなくて、手に剣を握っただけの状態だ。

 突然の事に驚きのあまり声も無い俺に向かって、部屋を見まわした二人はほぼ同時に叫んでいた。

 大丈夫か? 一体何事だ? と。

 その直後に、ものすごい音と共にレオ達他の神様軍団も一斉に武器を手に部屋に現れたのだ。


 おお、これって……まさかのあの転移の術だよね……。


 全く、こうなった意味が分からなくて固まる俺を見て、ハスフェルとギイは無言で顔を見合わせた。

「ちょっと質問するが、今の悲鳴の理由は?」

 眉を寄せたハスフェルの質問に、俺はようやく状況を理解して申し訳無さに消えたくなった。

 要するに彼らは、何らかの方法で常に俺の事を守ってくれているのだ。

 それで、俺が突然本気の悲鳴を上げたものだから、即座に全員が転移の術で駆けつけてくれたのだろう。

「うわあ……ごめんなさい。今の悲鳴は思いっきり痺れている俺の腕に、フランマが擦り寄ってきて激痛で上げたものです。別に誰かに襲われた訳ではありません」

 ベッドにまだ転がったまま叫ぶ俺の言葉を聞いた彼らの、もうこれ以上無い様な大きなため息に、俺はもう一度心の底から謝ったのだった。

 それから、全員揃って大爆笑になったのだった。




 とにかく、どうやら彼らもまだ起きて間が無かったらしく、一旦それぞれ部屋に戻り、改めて身支度を整えて食事の為に俺の部屋に集まったのだ。

「まあ、何事も無くて良かったよ」

「そうだな。さすがに寝起きでは何かあっても加減が出来ん。ここに迷惑を掛けるのは本意では無いからな」

 笑いながら平然と話す内容に、俺はちょっと気が遠くなったよ。

 いやいや、そこは神様なんだから、人に迷惑はかけない様に加減してくれって……!




 食事の後、部屋で好きに寛ぐ彼らを横目に、俺は差し入れのサンドイッチを量産した。

 今日のメニューはハイランドチキンのシンプルチキンカツサンドと、グラスランドブラウンボアのポークステーキサンドだ。あ、豚じゃ無くて猪だから、正確にはポークじゃ無くてボアステーキサンドか。


 味は、すり下ろした玉ねぎに砂糖と醤油と味醂と味噌を入れた甘辛味噌だれにしてみた。こっちのパンは、食パンでは無く、やや硬めのコッペパンみたいなパンにしてみた。

 試しに作ってみたら、味の濃厚な野生肉(ジビエ)に負けない甘辛味噌だれがピッタリだったんだよ。

 これは、美味いので今後の作り置きの予定にも入っている。それから、ご飯にも絶対合いそうなので、ぶつ切りにした肉で丼も作る予定。



「お待たせ。じゃあ差し入れを店に持って行ったら、そのまま従魔達の狩りに行くか」

 差し入れを詰めた木箱をサクラに飲み込んでもらい、鞄に入ってもらって俺は立ち上がった。

 ギルドにお願いして預けてあるグラスランドブラウンブルの肉の熟成期間は、まだ仕上がるまで一週間ほどあるので、それまでは遠出は出来ない。

 近場でジェムを集めたり料理をしたりしながら、従魔達には狩りに行ってもらう予定だ。

「そうだな。じゃあ思い切り身体を動かせる様に、何処へ行くかな?」

「いやいや、俺はまだ料理をするからね」

「なんだ、たまには一緒に来いよ。腕が鈍るぞ」

 真顔のハスフェルにそう言われて、言い返す間も無く他の皆まで同意したのもだから、今日はそのまま俺も一緒に、ジェムモンスター狩りに連れて行かれる事が決定したみたいです。


 相変わらず、俺の決定権は食事関係にしか無いみたいだね。あはは……。

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