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大騒ぎの新店オープン!

「はい、1番と3番各一袋ずつですね。こちらが引き換え札になりますので、このままお会計へどうぞ」

 スノーさんが、カウンターの内側に作った小さな棚から1番と3番の札を一枚ずつ取り、二枚一組の赤い札のうちの一枚をお客様に渡して、二枚の番号札と一緒に後ろの俺に渡してくれた。

 札を受け取った俺は、カゴに1番と3番のジェムの入った袋を入れて、二枚の番号札と一緒に赤い札を上に乗せる。

 レジにいるクーヘンにそれを渡したら、クーヘンは手元のリストから1番と3番の値段を確認して、合計金額を計算してお金を受け取り、ジェムの入った袋をお客様に渡す仕組みだ。



 これも、俺が考えてクーヘンに教えた方法で、お客様用の赤い二枚一組の方は、同じ番号が彫り込まれている。トランプのカードくらいのサイズだから、早々無くす事もない大きさだ。

 ジェムのセットにはそれぞれ番号が振ってあり、その番号を書いた木札を取って在庫の棚から取り出すようになっている。

 単体で販売しているジェムにも同じく木札があり、インクでジェムの名前が書いてある。こちらも、ジェムを取ったら木札と一緒に籠に入れて計算する仕組みだ。同じジェムを複数個買う場合でも、木札を個数分入れるので、幾つ買ったか分かるようになっている。



 このお客様用の番号札は、もしも人が沢山来て忙しくなりそうなら大変だな。程度に思って、余っていた木屑で作ってもらったんだが、もうこれが無いと大混乱になっていただろう事は簡単に想像出来た。


 というか、この方法めっちゃ良い。

 自分で提案して言うのも何だが、めっちゃ分かり易い。


 だって、赤い木札は目立つし、お客様も面白がってそれを握ったままレジにすぐに並んでくれる。ジェムを入れた籠とお客様の番号札を合わせれば、お買い上げのジェムが誰が買ったものなのかわかる仕組みだ。

 間違いないか読み上げて確認してもらい、合っていれば会計をしてジェムを渡すだけだ。

 お帰りは専用出口からなので、店に入る人とぶつかる事もない。



 最初こそ心配だったが、思ったほどの混乱も無く、時間はあっという間に過ぎて行く。

 しかし、人の流れは一向に途切れる事は無い。

 時折、表から歓声が上がるのは、恐らくチョコが頑張ってくれているんだろう。大丈夫かな? あんまり無理するなよ。



 その時、表から一際高い歓声が上がった。

「んん? 何事だ?」

 思わず外を見たが、表に並んでいる殆どの人達が、横の通路を見ている。

「あれ? チョコに何かあったのかな?」

 朝から頑張ってくれているみたいだし、疲れて倒れたりしたらどうしよう。だんだん心配になってきた時、不意に念話が届いた。

『心配いらないよ。タロンがチョコと一緒に遊んでるだけだからね』

 それは、いつのまにか姿が見えなくなっていたシャムエル様の声だ。

『あれ? シャムエル様今どちらにいるんですか?』

 てっきり何処かへ出掛けているんだとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。

『従魔達も、チョコだけに仕事させるのは申し訳ないって心配しててね。それで、最初にタロンを連れてきたんだ。ほら、タロンならただの猫に見えるから、構わないでしょう?』

 あ、また歓声が上がった。


「何なのこの子、可愛い!」

「怖くないのかしら?」

『おいおい。タロンのやつ、一体何をしてるんだよ?』


 頭の中で会話しつつも、手は動かして木札どおりのジェムの袋を集めている。

『だから、一緒に遊んでるだけだって。心配いらないからね』

 一方的に念話は切れてしまい、気を取り直すように小さくため息を吐いた俺は、次々に渡される番号札を確認しては、せっせと取り出す作業に没頭していたのだった。



 ううん。これは、まずい。

 何がまずいって、もう昼を過ぎているのに、一向に人が減る気配がないって事だよ。

 ジェムはガンガン売れるし、驚いた事に細工物もかなり売れている。贈り物だと言われた時は、スノーさんが手早くリボンを掛けてくれている。その時は、俺が注文を聞くのをやったりもした。

『駄目だ。グレイ、シルヴァ、悪いけど、どちらか一人で良いから上がってきてくれるか』

 元気な返事が聞こえて、シルヴァが上がって来てくれた。

 俺は丁度足元に来てくれていたサクラを捕まえて、差し入れのボアカツサンドを取り出した。

「これ、悪いけど差し入れの昼飯。奥の休憩室で交代で食ってくれるか。一人四切れまでだから、食い過ぎないようにな。あとタマゴサンドと果物もあるから」

 木箱に入れた差し入れを渡すと、目を見開いて受け取りあっという間に収納してくれた。

「じゃあ、置いてくるから先に彼女達に食べに来てもらってよ。朝から休み無しでしょう?」

「そうなんだけど、そうするには交代要員がいないんだって」



 まさか、幾ら何でも昼ぐらいには人が切れるだろうと予想した俺の考えは完全に甘かった。



 手早い接客と、初めて見る木札による素早い販売方法。単価や品名を見える所に表示した新しい店のやり方を店に行った人があちこちで話して回り、それを聞いた他の人までが押しかけるという、なんとも有難い状態になっていたらしい。



 とにかくシルヴァとグレイに先に食ってもらって、そのあとネルケさんとスノーさんに食べてもらう。それが終わったらマーサさん……ああ、駄目だ、外で人の整理が出来る奴がいない。

 申し訳なさに気が遠くなりかけた時、商人ギルドのアルバンさんが、表の扉から一礼して列の横から中に入って来た。

「裏から入ろうと思ったが、人がいなかったんでな。手伝いに来てやったぞ。どこに入れば良い?」


 神の助けキター!

 いや、もう既に神様方には手伝っていただいてますけどね。あはは。

 脳内で自分で自分に突っ込んでおき、俺はギルドマスターを見た。

「ありがとうございます。昼の交代要員がいなくて困っていたんです。まず、表のマーサさんと交代していただけますか。人の整理をお願いしたいんです」

「了解だ。じゃあ、お前らが行け」

 手早くやり方の説明をして、ネルケさんとスノーさんにとにかく昼休憩に行ってもらう。シルヴァがカウンターでの注文を聞くのをやってくれると言うので、もう一人、ギルドからの応援の人にカウンターでの受注をしてもらう。レオにも先に食事に行ってもらい、ピッキング要員も一人入ってもらう。

 何と、ギルドマスターがクーヘンと交代してレジに入ってくれたよ。素晴らしい。

 そのあと来てくれた、やたら体格の良い人が、まずハスフェルと交代してくれた。

 彼にも先に食べに行ってもらう。

 最初こそ、戸惑っていたようだけど、応援の人達もすぐに皆やり方を理解してくれて、人の流れが滞ったのは一瞬だけだった。



 しばらくしてレオが戻って来てくれて、ようやく俺も昼休憩に行けたよ。まあ、もう昼はとっくに過ぎている時間だったけど、まだ食べられただけ良しとしなくちゃな。



 休憩室には、バケツに入った氷で冷やされた何本ものジュースが置かれていた。

「差し入れです、どうぞお飲みください。……アルバン。へえ、ギルドマスターからの差し入れってか」

 置かれていたカードの文字を読み、手を合わせて有り難く一本頂き、ボアカツサンドをふた切れお皿に取る。

 椅子に座ると、一気に疲れが押し寄せて来た。

「サクラーいるか?」

 廊下に向かって呼ぶと、しばらくしてポンポンと跳ねてサクラがすっ飛んで来てくれた。

「呼んだ? ご主人」

「万能薬入りの水ってまだあったよな?」

「有るよー。出そうか?」

「ああ、頼むよ」

「はいどうぞ。満タン入ってるからね」

 受け取ったその水を一気に飲む。これでとにかく疲れは取れる。

「ああ、染み渡るよ」

 大きく息を吐いて、椅子に座りなおした俺は、ボアカツサンドにかぶりついた。

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