料理の仕込みと優秀なアシスタント登場!
「ごちそうさま。それで? あとは何を作るんだい?」
お茶を飲みながら考えていると、こっちを向いたレオに聞かれて、俺は飲んでいたお茶を飲み込んだ。
「ええと、作り置き分のサンドイッチの在庫がもう、ほぼ壊滅状態なんだよな。なので、午後からはまず目玉焼きとベーコンエッグを大量に作って、ハイランドチキンとグラスランドチキンのクラブハウスサンドと、BLTサンドを作るよ。後はゆで卵もな。で、明日はトンカツとチーズ入りトンカツをあるだけ作って、フライドポテトと各種チキンカツ、あ、ビーフカツも作りたいな。で、それを使って各種カツサンドも作る、それからタマゴサンドも大量に作っておけば、サンドイッチの在庫は良いかな。まあ、後は屋台でも幾つかは買おうとも思ってるから、作るのはそれぐらいだな。後は、ハイランドチキンとグラスランドチキンのバター焼きと照り焼きも作っておきたい。それから、レタスを有るだけ洗って千切ってサラダにしておくだろ。あ、付け合わせに使う豆とジャガイモも茹でておかないとね。米を炊いて野菜スープと味噌汁、シチューも在庫がほぼ無いから作っておかないとな。それから、以前ローストビーフのレシピを貰ってるから、せっかくだから、一度それにチャレンジしてみようと思ってるんだ。まあ、これは俺も初めて作るから、上手くいくかどうかはやってみないとわからないけどね。後はホテルで作ってもらう分があれば、しばらくは大丈夫じゃ無いかと思ってるよ」
指を折りながら俺の話を聞いていたレオは、何度も目を瞬いた後、突然ガバリと立ち上がって頭を下げたのだ。
「ご、ごめんなさい!」
突然謝られて、俺はびっくりしたよ。
待ってくれって。今の話のどこに、謝られる要素があった?
頭上にはてなマークを飛ばしている俺に構わず、レオはもう一度頭を下げてごめんと謝る。
「おおい、一体その謝罪は何に対してだ? 俺、レオに謝られるような事、何かされたか?」
「だって、俺達美味い美味いって言うだけで、何も考えずにバクバク食ってたけど、そんなに大変な思いして作ってくれてたなんて今初めて知ったよ。俺は素材については詳しいけど、料理はそれほどやるわけじゃ無いからね。そもそも、そんなに一度に大量に作らないよ」
まあ、サンドイッチ六斤分とか普通は作らんよな。
「でも、美味いって言って、いつも残さず食ってくれるだろう? これで文句言って残されたら、もう知らんぞって言って作るのやめるけどさ。美味かった、ご馳走さんって言ってくれると、やっぱり嬉しいぞ」
「良いの?」
「俺が料理を作ってるのだって、自分が旅先で不味い携帯食なんて食いたく無いってのが一番の理由だからさ。そんなに申し訳なく思われると、逆にこっちも気を使うよ。そもそも本当に嫌だったら、大変だからやめるって正直に言うよ。そんな無理してまで作りゃしないって」
笑って顔の前で手を振ると、レオは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。ケンの作ってくれる料理は本当にどれもすっごく美味しいよ。じゃあ、この後も手伝うから、何をするか言ってよ」
おう、スライムに続き、人のアシスタントまで出来たよ。
まあ、神様軍団がご一緒してくれてる間は、作る量も半端無いからな。確かに一人でも手伝ってもらえると有難いよな。
「こっちこそありがとうな、じゃあ頼りにしてるよ。スライム達は、材料を切ったり後片付けはしてくれるんだけど、火を使うのは怖いみたいで駄目なんだよな。だから、揚げたり焼いたりするのを手伝ってもらえると、本当に有難いよ」
「さっきみたいに?」
「そうそう」
「任せて! 煮たり焼いたりするくらいなら充分戦力になると思うからね」
自信有り気なその言葉に、俺はちょっと考えた。
「でも、それが出来るんなら、別に充分料理出来るって言って良いと思うぞ」
俺の言葉に、レオは照れたように笑った。
「実を言うと、ケンと会う少し前に、俺が簡単なスープをあいつらに作った事があるんだけどさ、味付けがイマイチだって言われたんだ。確かに自分でも思った。どうも、塩を入れ過ぎたみたいで、塩辛いって言われたんだ。自分一人前だと大丈夫なんだけど、今みたいに沢山作ろうとすると、途端に加減が分からなくなったんだよね。あれってどうしてなんだろう?」
「まあ、確かに量を作ろうとすると、塩加減は難しいよ。軽くするだけだと全然効かないし、かと言って入れ過ぎると言ったみたいに突然塩辛くなるんだよな。しかも、塩は一度入れ過ぎると、後から減らせないのが難点だよ。で、水を入れたぐらいじゃ塩味ってあまり薄くならないんだよ。無理に具材を追加したりして、とんでもない量になったりするんだよな」
そう言って顔を見合わせた俺達は、二人して乾いた笑いを零した。
その時俺は、バイト時代に初めて作った味噌汁の味を思い出してちょっと遠い目になったよ。
定食屋の店長に、これも経験だから一度賄い料理を作ってみろと言われたんだけど、味噌汁の味噌の加減が分からなくて、大量に入れて酷い目にあったんだよ。店長は笑ってお湯を足してくれたけど、それでも辛かったよ。以来、量を作る時は少しずつ入れて味見しながら適量を覚えたんだよな。
あの時は、覚えたところでこんなに量を作る事なんてもう無いと思っていたけど、おかげで今めっちゃ役に立ってます。ありがとう、店長。
「まあ、味付けは俺がするから、焼いてくれるだけでも充分有難いよ」
「じゃあ、味付けは任せます!」
もう一度顔を見合わせて笑った俺達は、手早く食べたものを片付けて料理に取り掛かった。
しかし、一人でもアシスタントがいると、めっちゃ作業が進む進む。
結局、各種クラブハウスサンドは食パン三本ずつ作り、BLTサンドも同じく食パン三本分。各種九斤分だぞ。それでも時間があったので、ゆで卵を大量に作りながら、トンカツの仕込みを手伝ってもらった。
結局、時間切れまでに、トンカツとチーズ入りトンカツ、それからハイランドチキンとグラスランドチキンの各種チキンカツ、が大量に出来上がったよ。
なにこれ、めっちゃ楽じゃん。
揚げ物の後半、お皿が足りなくなって困っていたら、レオが念話で連絡してくれたようで、シルヴァとグレイが大量に買い込んで持って来てくれたよ。
だけど、二人はまたすぐにクーヘンの店に戻ってしまった。
なんでも皆で、販売用のジェムを細かく割る作業をやっている真っ最中らしい。
成る程な。最初から割っておけばいちいち手間賃取ってその場で割らなくて済むもんな。
高いジェムでも細かく割れば一つあたりの値段は下がるから、買う側としても、必要な分だけ買う事が出来る。
あれだけ大量のジェムがあるからこそ出来る事なのかもしれないけど、確かに良い考えだ。
多分、オンハルトの爺さんの考えなんだろう。
「あっちも楽しそうだな」
「皆、めっちゃ喜んでたみたいだから、昼食だけでもまた差し入れてやっても良いな。そう言えば明日は、ハスフェル達はどうするんだろうな?」
「明日もまだジェムを割るって言ってたよ。それの整理と袋詰めもしなくちゃいけないらしいから、明日も全員出掛けないってさ」
レオの言葉に、俺はちょっと笑ったよ。
なんだかんだ言って、皆も楽しんで手伝ってくれてるみたいだな。
「あ、お前らはまだ狩りに行かなくて大丈夫か? 腹減ってないか?」
すると、ニニが顔を上げて嬉しそうににゃーと鳴いた。
「大丈夫よ。お弁当があるから。お腹が空いたら庭で食べるわ」
目を瞬いてレオと顔を見合わせる。
「いやいや待てって。街中でスプラッタは不味いだろう。食べるなら郊外へ連れて行ってやるから……」
「大丈夫ですよ。私が見えないように、食べている間だけ庭の空間をここから切り離してあげます。以前、レースの際にテントの中でやった時も大丈夫だったでしょう?」
姿を表したベリーが平然とそんな事を言う。
ってか、そもそも庭の空間を切り離すって……ナニ?
また分からない話になったが、それを聞いたレオは満面の笑みで頷いた。
「さすがはケンタウロスだね。空間魔法もお手の物なんだ。凄いや。それなら大丈夫だよ、安心だね」
俺の肩では、味見のトンカツを齧っていたシャムエル様も嬉しそうに笑って拍手している。
おう、さっぱり分からんが、神様が大丈夫って言うんなら大丈夫なんだろう。
俺は、疑問を全部まとめて明後日の方向にぶん投げておき、取り敢えず目の前の片付けに専念した。