食材の大量買いと差し入れ作り
到着した広場で各自好きな屋台で朝食を買っているのを見て、俺もコーヒーとタマゴサンドと鶏肉と野菜のサンドイッチを買った。
広場の端でマックスにもたれかかって、立ったままサンドイッチを黙々と食べる。
両手がふさがっているので、タマゴサンドを時々シャムエル様に齧らせてやりながら一緒に平らげた。
「コーヒーも飲みたいな」
尻尾で頬を叩くシャムエル様を一旦地面に下ろしてやり、盃を持っててもらってコップから直接分けてやった。
ちょっと溢れたけど、気にしない気にしない。
また右肩に現れたシャムエル様は、満足気にコーヒーを飲んでゲップなんかしている、子供かって。
俺の隣では、シルヴァとグレイが、二人して買って来たハムや卵を山ほど挟んだクレープみたいなのを大喜びで食べている。
レオは俺と似たようなメニューだが、サンドイッチの他に、木の皿に乗せた大きな肉の突き刺さった串焼きが三本もあるのを見て、やっぱり食う量がおかしいと再確認したよ。
しかも、巨大クレープを完食した二人は、レオが食べている串焼きを見て、わざわざ店を聞いて買いに行ったよ。
それを無言で見送った俺は、カットフルーツを売っている店で、ブドウとメロンっぽいのを買って自前の皿に入れてもらった。
シャムエル様にメロンを一欠片渡してやり、俺はブドウを口に放り込んだ。
うん、美味しい。俺はこれくらいで充分だよ。
「さてと、腹もいっぱいになったし、それじゃ朝市を見に行くか」
手を上げて、広場を後にするハスフェル達を見送り、俺も寄りかかっていたマックスから離れて、大きく伸びをして振り返った。
「何を買うんだい?」
レオの質問に、俺は笑って肩を竦めた。
「いや、もう手当たり次第に買うよ。相当買ったつもりだったんだけど、肉類と芋は在庫がかなり少なくなってきてるんだ。それに果物の在庫も減ってきているから、今の内に買い込んでおこうと思ってさ。だから朝市で野菜や芋、果物を大量買いして、それから別の通りにある肉を見に行くよ。それが終われば戻って料理かな」
「果物なら、ベリーは食べる量はもう少し減らしても良いって言ってたよ」
「え? そうなのか?」
果物の在庫は、もちろん俺達も食べるけど、ベリーとフランマの為ってのが一番の目的だ。
「もちろん食べるけど、以前ほどの量は必要無いって言ってたよ。もう身体が元に戻ったからじゃないか?」
「確かにそんな事言ってたな。でも、ベリーとフランマは果物が主食だから、色々あった方が良いだろう?」
「それには同意するね。じゃあ行こうか。果物ならあそこが良さそうだよ」
平然とそう言って歩き出すレオに驚きつつ、何となく納得もした。
「大地の神様って事は、収穫物なんかも当然詳しいのか。よし、この際だから詳しく教えてもらおう」
慌てて後を追う俺達の後ろを、串焼きを食べていたシルヴァとグレイが、追加で買っていた別のお菓子を食べながら後をついて来た。
何となく、俺の横にシルヴァが並び、レオとグレイが並んで俺達の前を歩いている。
「デートみたいだね」
嬉しそうなシルヴァが笑いながらそんな事を言うのを聞いて、俺は苦笑いした。
「デートには、ちょっと場所がイマイチだな。朝市ってさ」
「ええ、そんな事無いと思うけどな。朝から一緒に買い物に来てるって考えたら、幸せじゃなくて?」
下から覗き込むように言われて、俺は真っ赤になった。
そ、それはもしかして……新婚ってやつですか!!!!!
俺の脳内でもう一人の俺が叫んでいる。
あ、不整脈、不整脈……頼むから落ち着け、俺。
しかし、幸せに浸ったのは一瞬だった。
シルヴァもグレイも、とにかくフリーダム。
人混みの中を、あれが良いこれが良いと勝手に動き回り、店の主人に気に入られて試食なんかをちゃっかりもらっているのだ。
もう途中から、小学生の子供を連れた親の気分だった。
勝手に動かないようにと手を握って確保しながら、レオのオススメの店で色んなものを買いまくった。
買いながら、美味しい野菜の見分け方や。良い店の見分け方なんかを教えてもらう。
野菜や豆類、根菜類も料理方法を店の人に時折聞きながら、ひたすら大量買い。
合間に、ちょっと目を離すとすぐ勝手にいなくなる二人を確保しつつ、また別の店に移動する。
もう大丈夫だろうと思えるまで大量に買い込み、肉屋のある通りへ向かった。
「この辺りは、土地の物だけじゃなくて、かなり離れた場所の物も普通に朝市で並んでいるね。さすがは川沿いの街だね」
感心したようなレオの言葉に、そういえばホテルでの料理には魚料理も多く出たな、なんて呑気に考えていた。
「あ、ホテルに料理を頼んでおかないとな。それなら寸胴鍋を探さないと。ええと、それなら道具屋通りかな?」
「何を買うって?」
俺の呟きが聞こえたレオが、不思議そうに俺を見る。
「ああ、昨日、ホテルの料理が美味いって話をしてたらさ。支配人さんが、早めに言えば料理の注文を受けて配達もしてくれるって言うから、この際だから、俺には作れない料理は頼んでおこうと思ってさ」
「それは良い考えだね。確かに、あのビーフシチューは美味しかった」
「そうだよな、さすがはプロって感じの料理だった」
「美味しかったよね」
「また行こうね」
二人も横からそう言って笑っている。
「めっちゃ食ってたよな。お前ら」
レオの呆れたような声に、シルヴァとグレイは笑っているだけだ。
まあ、燃費が悪いって言ってたもんな。そうなると、何処まで一緒にいてくれるのかは分からないけど、一緒にいる間は腹が減るような思いはさせたく無い。
うん、やっぱり遠慮せずに買う事にしよう。
見つけた大きな肉屋で、ステーキ用の肉を大量買い。それから赤身の肉の塊もいくつも買い込む。これは以前教えてもらったローストビーフを作る為の肉だ。豚肉も売っていたのでそれも大量買い。トンカツと冷しゃぶは皆お気に入りみたいだからな。
それから養鶏場の専門店でも、鶏肉各種を大量買い。
普通サイズの胸肉やモモ肉を見て、小さいって思ったんだけど……うん、これは俺が間違ってるな。
それから、牛乳やチーズ、バターも大量に買い込んでから、ようやく宿泊所へ戻った。
買い物している俺達を置いて、シルヴァとグレイは、総菜屋さんみたいなのを見つけて勝手に何か買って食べていたよ。
いや本当によく食うな。
「さてと、じゃあ先ずは差し入れのグラスランドチキンのクラブハウスサンドを作るか」
しかし、何故か三人共俺の部屋についてきている。
「手伝うよ。俺も料理は少しは出来るから言ってくれたら肉を焼くくらいはするよ」
しかし、シルヴァとグレイは笑って椅子に座って完全に見学モードだ。
そうだよね、あの爪見たら、料理する訳ないって分かるよ。
女性二人は細く伸ばした綺麗な爪をしている。あれでは料理は無理だろう。
って事で、男二人で手早く作っていく。
スライム達がパンを切ったり肉を切ったりするのを見て、三人は大喜びだったよ。サクラとアクアも、ちょっと得意気だったので、俺は笑って肉球マークを突っついてやった。
「じゃあ、これを焼いてくれるか。で、焼けたらお皿に乗せてサクラに預けてくれれば良いよ。それだと熱々のままで置いておけるんだ」
「成る程ね。時間停止だとそんな使い方も出来るんだ。それは考えた事無かったよ」
感心したレオがそう言って笑い、熱したフライパンに塩胡椒をしたモモ肉を皮側から焼いていくのを見て、安心して任せた。
「これ、二本全部八枚切りで切ってくれるか」
アクアに食パンを二本まるごと渡して切ってもらう。これで6斤分ある。
「サクラ、ベーコンエッグってあといくつある?」
「全部で46個あるよ。全部出す?」
「おお足りるな。ええと24個出してくれるか」
にょろんと触手が出て、俺の机にお皿に乗ったベーコンエッグが取り出されていく。
洗ったトマトを厚切りの輪切りにして、洗ったレタスも出しておく。
簡易オーブンで切った食パンを焼いては、取り出してサクラに預けておく。
全部焼けたら一気に作っていく。
手早く作る俺を見て、レオは取り出した具材を次々に渡してくれた。
瓶入りのケチャップを渡す時、ちゃんと蓋を開けて匙まで入れて渡してくれた時には、ちょっと感動しました。
出来上がった大量のクラブハウスサンドを見て、見学していたシルヴァとグレイを振り返る。
「なあ、お使い頼んで良いか? 二人の分も一緒に渡すから、クーヘンの店へ、これ全部持って行ってくれるか」
レオは驚いたようだったが、指を折って人数を数えて納得したようで小さく笑って頷いた。
「確かに、あいつらならこれくらい食べるな」
「あと、作り置きのタマゴサンドとカツサンドも持たせてやるから、まあ大丈夫だろう。収納の能力持ちがいるから、余っても心配ないって」
「……余ると思うか?」
真顔のレオにそう言われて、俺は思わず無言になる。
「まあそうだな……残るとは思えないな」
顔を見合わせて大笑いし、出来上がったクラブハウスサンドを二つに切って、空いたお皿に並べた。
それから残りのカツサンドやタマゴサンドも取り出して二人に渡す。
「ありがとう、じゃあ行ってくるね」
「行ってきまーす」
笑顔の二人を見送って、俺とレオは顔を見合わせてため息を吐いた。
「じゃあ俺達も昼飯にしよう。俺は米が食いたいんだけど、レオは何が良い?」
「米も良いね。何があるんだい?」
嬉しそうにそう言ってくれたので、俺達の昼飯は、肉入り炒飯とだし巻き卵、豆と野菜のスープと唐揚げと蒸し鶏というメニューになった。
唐揚げと蒸し鶏は、俺よりも沢山食べるレオの為のメニューだ。俺は蒸し鶏を少しだけもらったよ。
大満足の食事を終えて、食後のお茶を飲みながら、午後から何を作るか頭の中で考えていた俺だった。