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細工物とその値段

「どうぞご覧ください。ここにあるのは、開店時に店頭に出そうと思っている品々です」

 クーヘンの言葉に、大人しく座って待っていた神様達が嬉しそうに立ち上がった。


 結局、俺が出した大きい方の机だけでは乗り切らず、もう一つ人間サイズの大きな折りたたみ式の机を出して、品物の入った箱ごと並べたのだ。

「ほお、これは素晴らしい。クライン族の細工物、ドワーフ達に勝るとも劣らぬ」

 オンハルトの爺さんが手にしたのは、数枚の葉が作られた柊の枝で、真ん中の葉には真っ赤な宝石を乗せてある大振りのブローチだ。

 俺には、正直言ってこういう物はよく分からないけど、女性の胸元に飾るときっと綺麗なんだろう。

「ありがとうございます。細工物の知名度では、どうしてもドワーフの方が高いので、今まではこちらの商人に卸す際にも、かなり安値で買い叩かれるような始末だったんです。私は郷から外に出て、あちこち移動して見て確信したんです。絶対に我らが作る品はドワーフに負けないと。唯一我々に足りないのは知名度なんです。なので、王都に近いこの街で、まずはしっかりとクライン族の名前を売り、王都の商人達に知ってもらって直接卸す事が目的なんです」

 胸を張るクーヘンの言葉に、オンハルトの爺さんは大きく頷いた。

「確かに仰る通りだ。道のりは険しかろうがこれだけの品を作れる以上、値段に妥協する必要は有りませんぞ。堂々と胸を張って、正しい評価を受けられるよう、時に戦う事も必要ですな」

 オンハルトの爺さんの言葉に、クーヘンだけでなく、お兄さんのルーカスさんと息子さんのヘイル君も感動して涙を必死で堪えていた。

「あ、ありがとうございます。そう言っていただけるだけで、ここに店を出そうと決心した事が報われます」

 クーヘンも、目を潤ませながらそう言って深々と頭を下げた。



「己の誇りをかけて戦う其方達のこれからに幸あれ」

 オンハルトの爺さんはそう呟くと、そっと品々の上に手を伸ばした。

 一瞬、爺さんの手が光ったように見えて、俺は思わず瞬きをした。

「あれ?今のは……?」

「気にしないで良いよ。それにしても、どれもとっても綺麗だね」

 肩に座ったシャムエル様の言葉に、なんとなく事情を察して俺は黙った。

 多分、祝福か何かをくれたんだろう。

 だって、オンハルトの爺さんって、忘れてたけど装飾と鍛治の神様だって言ってたよな。この細工物って……めっちゃ彼の担当じゃん。



「私これが良い!」

「私はこれ! ああ、こっちも可愛い!」

「ねえねえ、見て見て、これも素敵よ。私の髪につける為にあるような品よ!」

 俺達が、なんとなく感動の余韻に浸っていたその雰囲気をぶっ壊すかのように、突然、甲高い声でシルヴァとグレイの女性コンビが大喜びで騒ぎ出した。

 どうやらヘアーアクセサリーを見て騒いでいるらしい。

「どれだ?」

 レオとエリゴールが後ろから覗き込む。

「おお、よく似合ってる、確かにグレイの黒っぽい銀色の髪にはミスリルに青の石が似合うな」

「私は? 私のはどう?」

「銀髪には白金と赤が似合うな。良いではないか。何なら贈らせてもらうぞ」

「エリゴール大好きー!」

 左右から飛びつかれて、ドヤ顔でこっちを見たエリゴールに、俺は無言で嫉妬の炎を燃やしていた。負けてたまるか!


「あ、良ければ俺からも好きな品を贈らせてもらうよ。どれが良い?」

 今こそ無駄に貯まった資金を使う時だろう。出来るだけ何でもない事のようにそう言ってやると、シルヴァとグレイの二人が振り返って満面の笑みになった。

「本当?」

「良いの? ケン」

「ああ良いよ。どれでも好きなのを……」

「ケンも大好きー!」

 シルヴァがそう叫んで俺の胸元に飛び込んで来た。


 モテ期キター!


 脳内でそう叫んで、飛び込んで来たシルヴァを抱き止めてやる。

 おう、なにこの柔らかい生き物は……。

 抱きしめようにも、ふわふわ過ぎて潰しそうで怖いぞ。

「嬉しいわ、ありがとう」

 横からグレイも抱きついてきた。

 あの……二の腕に当たるこれは、いわゆるアレですね! アレなんですね!

 俺の脳内は、完全に二の腕に当たるそれに集中していた。

「ケン、鼻の下伸びてるよ。なにそのだらしない顔」

 耳元で聞こえる呆れたようなシャムエル様の言葉にも、俺は言い返す事も出来ずに、抱きつかれたまんま固まっていた。

 彼女いない歴イコール年齢の俺には、美女二人に抱きつかれるなんて急展開は、完全に無理クエだった模様。

 ヘタレと笑ってください。正直言って、どうしたら良いのか全くわかりません!



「あはは、ケンったら固まっちゃったよ」

「あら本当ね。やだわ、純真な子を誑かしてる気分になるわ」

 苦笑いするシルヴァとグレイの言葉に、神様軍団が揃って大爆笑している声が聞こえる。

 言い返そうと思ったんだが、なんだかおかしくなって、一緒になって大笑いしたよ。

 べ、別に泣いてなんか無いぞ!



「で、結局どれが良いんだ?」

 ようやく笑いも収まり、改めて俺も細工物を見せてもらった。

 彼女達が見ていたのはヘアーアクセサリーとペンダントがセットになったやつで、確かにどれも驚く程繊細な細工と綺麗な石が嵌め込まれていた。

 満面の笑みの二人は、ヘアーアクセサリーとペンダントのセットと、大振りのブローチ、それから手首に付けるブレスレットも選んでいた。

「……良い?」

 アクセサリーの値段なんて、縁のなかった俺には全く未知の代物だ。

「なあ、定価で買うけど全部で幾らくらいになる?」

 小さな声でクーヘンに聞くと、驚いたように顔を上げてこっちを見た。

「お安くしますよ」

「いや、そこはきちんと買うって。ってか駄目だぞ、安易に値引きするのは」

 無言になったクーヘンは、そろばんみたいなのを無言で弾き、黙って俺に見せた。

「これで、これだけ?」

「はい」

「ええ! 安すぎだろう! なあ、シルヴァ、これだけ買って、この値段っておかしくないか?」

 だって、彼女が選んだ品を全部合わせても、金貨数枚分って絶対安すぎる。

 シルヴァとグレイも、それを聞いて顔を見合わせて首を振っている。



 オンハルトの爺さんが無言でそれを見て、クーヘンとルーカスさんを手招きした。

 二人が爺さんの横に行き、顔を寄せて、何やら真剣に話を始めるのを、俺達は無言で見守っていた。



「ええ、それは幾ら何でも……」

「そうですよ。それは幾ら何でも……」

「馬鹿を言うな。言ったであろう。己の腕を安売りするな」

 低い声でそう言われて、クーヘンとルーカスさんは絶句している。

「分かったら、値段表を見せろ、俺が見直してやる」

 真顔の爺さんの言葉に、二人は壊れたおもちゃみたいにブンブンと頷き続けていた。



 オンハルトの爺さんとクーヘンとルーカスさんに息子のヘイル君も加わって、品物を見ながらの値段チェックが進んでいた。

 彼女達が買う分を値段は後ほど決めることにして取り置きしてもらい、俺は他の箱を順番に見て回った。

 まあ、さすがに俺が買えそうなアクセサリーは無いだろうけれどな。でも、せっかくだから後学の為に一通り見せてもらおう。

 ほら、出会いなんてどこに転がってるかわからないからさ!



「へえ、短剣なんかも有るんだ」

 端っこに置かれた箱の中には、綺麗な装飾が施された短剣がいくつも並んでいた、

 柄の部分には宝石が嵌められていて、とても綺麗だ。

「以前買ったこれはあるけど、せっかくだからもう一つくらい欲しいな」

 あまり使わないけど、ベルトの横の部分には以前クーヘンの短剣を買った時に一緒に買った、青い石の嵌った短剣が装備されている。確か、術を使う時にこれを使うと威力が増すって言ってたよな。

「あ、それならこれが良いよ」

 俺の呟きを聞いて、シャムエル様が机の上に現れて一振りの短剣を指差した。

 柄の部分には濃い青色の石が嵌め込まれたその短剣は、他よりも少し大振りで確かに何となく惹かれるものがあった。

 手にとってみてゆっくりと鞘から抜いてみる。

「あ、これってもしかしてミスリルか?」

「うん、そうだよ。これにしなよ、絶対これがお勧め!」

 創造主様に断言されたんでは買わないわけにいかないよな。

 頷いた俺は、取り置きの箱に、言われた短剣を取り出して並べて置いた。

 まだ嬉々として木箱の中を覗き込む彼女達を見て、小さく笑った俺は、サクラに水筒を出してもらって喉を潤したのだった。



 何だかものすごく疲れた気がするのは、気のせいじゃないよな?

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