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朝食と地図

「じゃあサクラ、大きい方の机と椅子を出してくれるか」

 夕食準備の為に、早速出してもらった机と椅子を組み立てる。

「おお、これがあるだけで良い感じだ」

 それを眺めていた俺は、不意に思い出した。

「ああ! テントを探そうと思ってたのに! 家具屋には無かったけど、絶対あの辺りの店にあったっぽかったのに!」

 思わず頭を抱える。今こそ、テントが必要なのになあ……。

 まあ、無い物を考えても仕方がない。取り敢えず晩飯だ。


 サクラに頼んで色々出してもらう。疲れたから、今日のメインには肉を焼くぞ!

 取り出した大きいフライパンに、塩を振った肉とソーセージを入れて火にかける。

 うん、やっぱり机があると、料理するのが楽で良いね。


「しかし、食事の時はお茶が欲しいよな。街へ戻ったらお茶の葉を売ってる店を探してみよう。後は、絶対欲しいのが胡椒だな。これがあると、肉の味が絶対違うよ」

 そんな事を考えながら、適当に野菜をちぎって洗っておく。

 そろそろ肉が焼きあがったので、椅子に座って焼きあがったソーセージと分厚いステーキを味わった。

「シンプルなパンも欲しいな。探しておこう」

 付け合わせはクラッカーだったんだが、やっぱり違う。

 うん、米とは言わないからせめてパンが欲しい。

 頭の中の欲しい物リストを更新して、手早く後片付けをした。


 綺麗に後片付けも終わり机と椅子も畳んでしまう。そうなるともうやる事もないので、少し早いが寝る事にする。

「じゃあニニ、今夜もよろしく!」

 そう言って、横になったニニの腹に飛び込む。

「ああ、このもふもふの腹毛の海、何度味わっても幸せだよ……」

 潜り込んで欠伸をした時、重なるようにマックスがくっついて来た。

「ご主人が地面に落ちないように、私はこっち側で寝ますね」

 丁度、横向けに寝ているニニの腹の下側に、マックスが背中を向けて横になった。折り重なって寝ているみたいな状態だ。で、ニニの腹とマックスの背中の間に俺が挟まってる。


 ……何、このパラダイス空間。


「お前ら本当に最高だよ。ありがとうな。じゃあ、おやすみ……」

 もふもふとむくむくに幸せサンドな状態で目を閉じた俺は、それはもうあっという間に熟睡したのだった。



 ぺしぺしぺし……。

「うう、起きます……」

 ぺしぺしぺしぺし……。

「だから待って、起きるから……」

 返事をしながら、もふもふに顔を埋めた俺の頭を、シャムエル様のちっこい手が容赦なく叩いた。

 そのちっこい手、見た目以上に痛いんだよ。

「痛い! 暴力反対!」

 もふもふの海から転がり落ちた俺は、大きな欠伸をして起き上がった。おお、マックスはもう起きていたんだな。

「おはようございます、ご主人。今日も良い天気みたいですよ」

 同じく、起き上がって大きな伸びをしたニニがそう言ってる。


 顔を洗ってから、机と椅子を出してもらい、ちょっと寒いので、朝飯にはスープを作る事にした。

「あ、そうだ。あの豆を使ってみるか」

 以前、水に浸けたままサクラに預けていた乾燥豆を炊いてみる事にした。

 ふやかしていた水を取り替えて、豆の入った小鍋を火にかけておく。

 ウインナーを一本刻んでその小鍋に放り込み、乾燥野菜も適当に刻んで入れる。いつもの適当煮込みスープだ。

 スープを煮込んでいる間に、コーヒーをパーコレーターに仕込んでこれも火にかける。

 後は待つだけ。


 しかし、明るくなった今、横に聳え立つ断崖絶壁は、到底生身では近付く事さえ出来なさそうだ。

「ここを駆け下りて来たのかよ。すげえな、ニニとマックス」

 思わず呟いて思い出した。うん、戻る時も絶対俺はファルコに乗せてもらおう。



 適当豆入りスープに火が通ったのを見て、塩を一振り。それから牛乳を少し入れてみた。題して、クリームシチューもどき。よしよし、何だかとっても美味しそうになったぞ。

「しかし、考えたら朝から贅沢な食事だな」

 考えてみたら会社員時代は、朝なんて少しでも寝ていたかったから、ギリギリに起きてトースト焼いて牛乳飲んで終わりだったよ。

 そんな事を考えながら、椅子に座ってのんびりと朝ごはんを楽しんだ。


 その後、食事の後片付けをしていて、思い出した。

「なあ、ちょっと聞くけど、今いるのってどの辺りなんだ?」

 俺は鞄に入れていた地図を引っ張り出して、机に座っていたシャムエル様を見る。

「ああ、地図を買ったんだね。見せて見せて」

 手招きするシャムエル様の前に、大きい方の地図を広げた。

「へえ、ちゃんと見なかったけど、この世界ってこんな風になってるんだ」

 感心してみていると、シャムエル様が呆れたような声を出した。


「うわあ、雑な地図」


 思わず吹き出した俺は間違ってないと思う。

「そんなこと言うなよ。これでも銀貨二枚もしたんだぞ」

「うわあ、ぼったくり……」

「なんで? ギルドの窓口で買った地図だぞ! 冒険者の総本山じゃないのかよ」

 それを聞いたシャムエル様は、またしても考え出した。

「そうか、冒険者ギルドでもこの程度の地図しか作れないんだ。技術と知識の水準はかなりバラバラになってるんだな……」

 おお、なんか神様っぽいお言葉頂きましたよ。

 面白がって見ていると、立ち上がったシャムエル様は、地図の上に乗って、上側の山らしき場所に立った。

「だいたい、今いるのはこの辺りだね。それで、今君が泊まってるレスタムの街はあそこだね」

 ラパンが机に飛び上がって来て、レスタムと書かれた場所に飛び移った。

「へえ、かなり離れてるんだ。ちなみに、最初に俺がいた場所ってどの辺りなんだ?」

「それはここ」

 この地図は、確かにシャムエル様が雑な地図だと言うのも頷ける程に、確かに情報量がかなり少ない。街の場所や街道、川らしき線はあるが、高低差などは描かれていない。山なんて三角みたいな模様が適当に描かれているだけだ。

「これって、自分で色々書き込んで地図を完成させろって意味なんじゃ無いのか?」

 そう思って、書き込もうとして右手を見た。

「……買い物リストに、ペンとインクも追加だな」

 その呟きを聞いたシャムエル様が顔を上げた。

「まあ、ケンだからね。よし、ここはサービスしておいてあげよう」

 手招きされて、シャムエル様の側に顔を寄せた。

「なんだ? 何かあるのか?」

「目を閉じてくれる?」

 また何かするらしい。

「了解。これで良いか?」

「良いって言うまで、目を開けちゃ駄目だよ」

 何やらごそごそと音がしていたが、今回は俺に触ってない。一体何をしてるんだ?


「もう良いよ、目を開けて」

 シャムエル様の声に、俺はそっと目を開いた。

「ええ!なんだよこれ!」

 驚くのも無理はない。目の前に広げていた地図は、俺がよく知る普通の地図に変わっていたのだ。

 細かく描かれた等高線、詳しく描かれた川や街道、それから細い道。山にもものすごい数の等高線が描かれている。ああ、遥か先に見えるあの稜線なら、確かにこうなるわな。

 そして、端っこに描かれた十字とNマーク。うん、紛う事なき俺の知る地図だね。

「こっちの小さい方の街の地図は、別にこれでも良いけど、世界地図は詳しいのが必要でしょう?」


 そう、この地図は、さっき見た地図よりも描かれている範囲が広いのだ。


「へえ、西側には海があって島国があるんだ。あ、これが最初にコンロを買った店で聞いた、ドワーフの工房都市だな」

 かなり左側の山のすぐ横に、バイゼンと書かれている。

 他にも、街道沿いに幾つも街の名前が描かれていて、旅をするのが楽しみになった。

「ここでの生活に慣れたら、順に移動してみるのも面白そうだな」

 地図を眺めながらそんな事を言ってると、シャムエル様が俺の腕を叩いた。

「ちゃんと見えたみたいだね。これは、君に与えた鑑識眼の効果で見えているだけで、他の人がこの地図を見ても、さっきの雑な地図だからね」

 おお、ジェムモンスターだけじゃなくて、鑑識眼とやらでこの詳しい地図まで見えるのかよ。すげえな。

「ありがとう。これなら旅する時に、充分使えるよ。で、今いる場所って……ここか?」

 山に近い場所に等高線で真っ黒になった一帯があり、その真ん中あたりを指差す。

「そうそう、このまま南下すれば街道に突き当たるから、帰るならこっちだね」

 指差す街道を見て納得した。

「よく分かりました。じゃあ今日はどうする? もう帰るのか?」

 地図を畳みながらそう尋ねると、シャムエル様は周りを見渡した。

「ここって、実は、そう簡単に人が来る事が出来る場所じゃないんだよね。せっかくだから、もうちょっと薬草を摘んでおけば?」

「ああ、そうなんだ。じゃあそうさせてもらうよ。ええと、お前らはどうする? ここで待っててもらっても良いけど、腹が減ってないか?」

 マックスとニニを見ると、顔を見合わせて何やら相談を始めた。


「この辺りは、確かアレがいるんですよ」

「ですよね。せっかくだから私も食べたいです」

「だよね。じゃあ交代でまた狩りに行く?」

「良いですね。じゃあそうしましょう」

 相談がまとまったようで、揃って振り返った。

「じゃあ、ご主人はここでまた薬草を摘んでいてください。私達は交代で狩りに行って来ます」

 マックスがそう言い、ラパンを乗せたままいきなり坂道を斜めに駆け上がって行った。

 呆然と見ていると、斜め斜めに飛び跳ねながら、あっという間に遥か上まで登ってしまった。


 何あれ、お前……重力って言葉の意味、知ってるか?


 遠い目になった俺は、間違ってないよな。

 ってか! あんな曲芸みたいに坂を駆け上がる背中になんて、俺は絶対に乗らないからな!

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