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新しい店を見せてもらう

「おお、板が外れてるじゃないか」

 到着したクーヘンの店は、店の前側部分に当たる、いわゆるショーウィンドウを覆って打ち付けられていたいた分厚い板が全て剥がされて、中が半分見えるようになっていた。

 店舗正面側の真ん中に大きな両開きの扉があり、そこはまだ閉じられている。

 正面扉の左右と、円形広場側に面した店の部分の壁に並ぶ大きな窓は、40センチ四方くらいの窓ガラス……じゃなくてジェムモンスターの蝶の羽根が三段の枠で区切られていて、つぎはぎ模様のように綺麗に嵌め込まれていた。

 一番下の段は、丁度外側からも陳列している商品が見えるような、L字の壁に作り付けられたショーケースになっていて、その部分は歪みも傷も無い綺麗なガラス状の透明な羽根ガラスが嵌められていた。

 二段目の枠には、分厚い、すりガラスのようなやや薄曇りの加工がされた羽根ガラスが嵌め込まれていた。丁度、人の目線の高さだ。成る程、これは、外から中にいるお客の顔が見えないようになっているんだな。

 しかもそのうちの数枚は、透明だがトンボの羽のような網目状のすじ模様が綺麗に入っていたのだ。

「へえ、これなんて言うんだっけ。あ、そうだ。翅脈(しみゃく)だ。へえ面白い」

 そう呟いて窓を覗き込む。

 これも恐らく(わざ)となのだろう。翅脈が入った窓の部分が、逆に中の景色を不思議に複雑な柄に切り取って見えて、思わず覗き込みたくなる効果をもたらしていた。


「このウィンドウの羽根ガラスには、ゴールドバタフライの羽根を使いました。ちょっともったいないかと思ったんですが、ゴールドバタフライの強度は他の素材とは桁違いですからね。安全面を考えると、これが一番ですよ」


 おお、あの巨大な羽は、やっぱり良いものなんだな。


「何だ、ゴールドバタフライの羽根なら持ってるから、要るなら出してやったのに」

 ちなみに、最初に俺が集めた分だけじゃなく、あの後の神様軍団の乱獲騒ぎで、ゴールドバタフライも凄い数が確保されているんだよ。要るならいくらでも提供してやったのに。

「大丈夫ですよ。お陰様で予算は潤沢に有りますから」

 俺の言葉に、クーヘンは笑って首を振った。

「それに、この曇り加工や翅脈の筋を残して加工するのは、羽根ガラスをつくる上でもかなりの高等技術なんだとか。なので、当然加工が終了するまでに手間も時間もかかりますからね。もしも素材を提供してもらえたとしても、それは今回は使えませんでしたよ」

 成る程。確かに手間は掛かっていそうだ。

 クーヘンについて、店の横の門を通って通路から厩舎の前を通り裏へ回る。



「お! もう厩舎に入れてもらってるのか。良かったなあ。へえ、こりゃあ綺麗だ、住み心地も良さそうじゃないか」

 目に入った明るい厩舎の大きな扉を開き、手前側の区切った場所に、クーヘンは連れていたチョコを入れる。

 留守番していた猫族二匹とミニラプトルのピノ、レッドダブルホーンラビットのホワイティは、厩舎の奥に作られた広い場所で巨大化して好きに寛いでいた。

 クーヘンが戻って来たのを首を上げ見て、嬉しそうに大きな音で喉を鳴らしたり、跳ね回ったりしている。

 モモンガのフラールは、太い柱に作られた専用の巣箱の中に収まっていた。顔だけ出して、嬉しそうにこっちを見ている。

 ミニラプトルのピノは、羽ばたいて飛んできて、チョコの入っている柵の部分に留まって身繕いを始めていた。

 よく見ると、全員の首に、革製のお揃いの首輪が巻かれているのに気付いた俺は、そっと手を伸ばしてレッドクロージャガーのシュタルクと、レッドグラスサーバルキャットのグランツを撫でてやった。

「可愛い首輪だな」

 そう言ってやると、嬉しそうにグランツは俺の手に頭を擦り付けて来た。

「ここは、なかなかに住み心地が良いですよ。それに、これを付けていれば、大きくなってても構わないんです」

「それに我々がこの姿でいると、たまに裏から入ろうとする奴がいても、慌てて逃げていくんです」

 目を細めて嬉しそうに喉を鳴らしながらそう言った二匹は、気持ち良さげに地面に敷かれた干し草の上に転がった。

 奥に、巨大な丸太が置かれているのは、恐らくこいつらの爪研ぎ用なのだろう。あの爪痕を見せるだけでも、かなりの防犯効果はありそうだ。

「あはは、確かに忍び込もうとした家に、こんなデカいのが放し飼いにされていたら、そりゃあ慌てて逃げるよな。凄いじゃんか、警備もバッチリだな」

 笑った俺は、グランツとシュタルクを思い切り撫でてやった。



「皆様の従魔達も、どうぞ中へ、こちら側はお客様用ですから、好きな場所へどうぞ」

 示された、クーヘンの従魔達の入っているのと反対側の厩舎は、明らかに俺達全員分の従魔を意識して作られた広さだった。

 既に、そちら側にも干し草が敷かれていて、一番奥の壁側部分には在庫の干し草が山になって積まれていた。

 大きな水桶が厩舎手前側両横に設置されていて、そこには止まることなく引いてきた水が注がれていて、桶から溢れた水は、地面に作られた溝を通って排水口に流れていくようになっていく仕組みだ。

 マックスとシリウスが、並んで手前側の枠の中に入り、一番奥の広い所に猫族軍団が入って行った。

 草食チームは、小さい姿からもう少し大きくなって、普通の猫くらいのサイズになってその辺りを好きに走り回っている。

 それでもまだ半分以上が空いているので、神様達の馬が全部入ってもこれなら余裕の広さだろう。

『今、念話で呼んだからすぐに来るだろう』

 ハスフェルの声が頭の中で聞こえる。

 振り返ると、五人が笑顔で門の前で手を振っているのが見えた。

「あ、クーヘン、彼らがさっき言ってたハスフェル達の古い友人だよ。女性二人が装飾品を見たいんだってさ」

「何度見ても、ハスフェル達に勝るとも劣らない方々ばかりですね。ようこそ。まだ工事中ですが、どうぞ入ってください」

 笑顔で彼らを迎え入れたクーヘンは、連れていた馬達も厩舎の中に案内してくれた。

「じゃあ、ちょっと中にいるからここで待っていてくれよな」

 馬達が嬉しそうに水を飲み、好きに寛ぐのを見て、笑顔になった俺達は、合流した神様軍団と一緒に中に入って行った。


 廊下の床は、すっかり綺麗になっていてピカピカだ。

 カバンに入ったスライム達だけを連れて、俺はハスフェルの後ろをついて行った。

 神様達も、スライムだけは全員が連れて来ている。見たら、クーヘンの懐にもドロップが入っているのが見えて、なんとなく俺達はまた笑顔になった。



「おお、すっかり店らしくなったな」

 入った店の中は、ショーケースや商品棚が全て定位置に綺麗に並べられていて、一部には既に箱や包みが置かれている。

「じゃあ、先に渡してしまうか?」

 ギイの言葉に、俺とハスフェルも頷いた。

「なあクーヘン、俺達からちょっとした贈り物があるんだ、地下の倉庫はどうなってる?」

「ああ、ジェムを置く場所ですね。もう棚も設置されて、一部の持っていたジェムは、取り出して置いてありますよ」

「じゃあ悪いが、先にそっちへ行こう。お前らはどうする?」

 振り返ったハスフェルの言葉に、神様達は顔を見合わせた。

「お邪魔じゃなければ、ご一緒しても良いかね。せめて祝福だけでも贈らせておくれ」

 オンハルトの爺さんの言葉に、クーヘンはハスフェルを見て、彼が頷くのを見て笑顔で頷いた。

「ええ、もちろんですどうぞご一緒に」

 って事で、大人数で俺達はそのまままずは地下へ向かった。



 地下の広い部屋には壁に新たに作られた大きな棚がいくつも設置されていて、空の木箱が並んでいた。

 反対側の壁には、巨大な引き出しが並んでいる。

「置くなら何処だ?」

「そうだな、何処が良いかな」

 そう呟いたきり無言で部屋を見渡したハスフェルとギイは、二人揃って右奥の棚の置かれていない空間を見た。

「あそこは空いているが、何か置く予定はあるのか?」

「いえ、将来的に足りなくなったらあそこにも追加で棚を作ってもらうつもりなんですが、実際使ってみないとどうなるか分からないので、最初はある程度余裕を持った作りにしてもらったんです」

「それなら、俺達が持ってきた箱をあそこに置いても良いか?」

「箱? 箱を持ってきてくださったんですか?」

 不思議そうなクーヘンを見て、ハスフェルとギイは笑って頷きその空いた場所に行った。



 しゃがんで床を確認し、さらに壁にも手を当てて何かを確認していた。

「大丈夫だな。よし、じゃあここにしよう。ギイ、出してくれるか」

 ハスフェルの言葉に頷いてギイが取り出したのは、俺達が預ける予定のジェムが全部入った、あの収納力五万倍の特別製の金庫、神からの贈り物だった……しかも本物の神様からのな!


 さあ、あの箱が何なのか知った時のクーヘンの反応が楽しみだよ。

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