グラスランドチキン最高〜!
またしても、飯テロ回再び!
お腹空いた方、ごめんなさい!
「じゃあ今夜はグラスランドチキンを焼くけど、バター焼き、照り焼き、塩焼きのどれが良い?」
机の上に、調理道具を並べ、ありったけのコンロとフライパンを並べていく。
「照り焼きー!」
「私は、レモンバターが良いなあ」
「あ、それ良いわね」
「塩焼きが良いぞ」
「俺も塩焼きで頼む」
ほとんど全員同時に答えられて、俺は思わず両手を目の前で振った。
「待った! 同時に喋らないで! じゃあ、挙手してくれるか。照り焼きが良い人!」
オンハルトの爺さんと、エリゴールとレオの三人が手をあげている。
「じゃあ、塩焼きは?」
ハスフェルとギイが笑って手をあげる。
「じゃあ、残りの二人はレモンバター?」
「お願いします!」
「私もそれでお願い!」
おう、これは順番に焼かないと一気には無理だよ。
頭の中で段取りを考えながら、サクラに取り出してもらったグラスランドチキンの胸肉を改めて眺める。
グラスランドチキンは、元の大きさが普通の鶏肉の五倍くらいは余裕である。ハイランドチキンが三倍くらいだったから、更に大きい。
当然、胸肉も比例して大きくこのままではフライパンで焼けないので、焼けるサイズに切り分けていく。
……うん、それでも普通の胸肉の倍近くあるよ。俺は一枚で充分だよ。
「ええと、何枚食べる?」
切り分けた胸肉を見せてシルヴァとグレイに尋ねると、二人は満面の笑みで揃って答えた。
「二枚お願い!」
女性二人が二枚なら、男性陣は余裕三枚だな。
並べてしっかり塩胡椒をしたら、フライパンにオリーブオイルを入れて火にかける。
「焼くのは、皮からな」
四枚の肉を焼きながら取り出したレモンでレモン果汁を絞っておく。
超マッチョがいるので、いくつか半切りにして小皿と一緒に渡して頼めば、あっという間に絞ってくれた。
頼んだ後で気が付いたんだが、足元にいたサクラとアクアが伸び上がって物凄い自己主張をしていたので、どうやら絞りたかったらしい。ごめんよ、気付かなくて。
だけど、あいつらにもたまには手伝ってもらおうよ。
焼けるのを待っている間に、簡易オーブンで食パンを焼いておく。これは、レオとエリゴールがやってくれた。
「パンくらい焼けるよ」
笑ってそう言ってくれたので、パンは任せておく。
並んだ各自のお皿に、サラダとマッシュポテトを適当に取り分けておく。
「お、そろそろ良い感じかな?」
肉の焼け具合が後一息になってきたので、別のフライパンで、レモンソースの準備だ。
フライパンにバターの塊を落として、まずは軽く火にかけて溶かす。強火にして、そこにレモン果汁を一気に入れて軽く煮詰めていく。
肉が焼けたら、レモンバターソースを掛けて絡めれば出来上がり。
「レモンバターソースご注文のお客様。お待たせ致しましたー。はい、どうぞ」
笑って二人が差し出すお皿に二枚ずつ乗せてやる。
焼けた食パンは、レオ達が取り出して、まとめてお皿に乗せて目の前に置いてくれた。
スライム達が、フライパンの汚れを熱いのをものともせずにあっという間に綺麗にしてくれた。相変わらず有能だね、うちのスライム達は。
「ありがとうな。それじゃあ次は塩焼きな」
それを聞いたレオとエリゴールが、泣く真似をしている。
「ごめんよ。先に塩焼きにすると、そのまま同じフライパンで次の照り焼きを焼けるからさ」
そう言って、手早く六枚の胸肉を焼いてやった。
しっかり塩胡椒をした鶏肉は、めっちゃ美味そうだ。
うん、しかし俺の料理スキルでは、六枚焼くのが精一杯だね。
焦がさないようにするのは大変だったよ。
照り焼きソースも大量に作っておき、また六枚焼いて照り焼きソースに絡めていく。
三人に、まず二枚ずつ渡して、自分の分も入れて、最後にもう一度照り焼きチキンを四枚焼いたよ。
ううん。さすがに、この人数の面倒を同時進行で見るのは大変だな。今度は仕込みに肉も少し焼いておこう。
自分用にはご飯をよそい、切ったグラスランド照り焼きチキンを口に入れる。
「何これ、めっちゃ美味いじゃんか。肉の味、濃厚過ぎる」
あとはもう夢中になって食べたよ。
ハイランドチキンも美味かったけど、これも負けない美味さだ。
全員が、美味い美味いと言って大喜びで食べているのを見て、俺も食うのを再開した。
その時気が付いた。床に転がって寛いでいる猫族軍団が、全員ドヤ顔になってる。
「美味い獲物をありがとうな」
笑ってそう言うと、揃って大きな音で喉を鳴らしてくれた。
「あ、そういえばクーヘンとマーサさんも食いたいって言ってたのに、誘ってやるのを忘れたな。じゃあ明日にでも届けてやろう」
ふと思い出してそう呟いた俺は、ふた切れ目を取ろうと手を伸ばした。
「あ、じ、み! あ、じ、み!」
お皿を取り出して、さっきからずっと飛び跳ねて俺の頬を尻尾で叩くシャムエル様に笑って、小さいのを一切れと、サラダとマッシュポテトも少しずつ取り分けてやる。最後に横に一緒にご飯をちょっとだけ置いてやった。
「はいどうぞ。グラスランドチキンの照り焼きだよ」
「わーい、いただきまーす」
嬉しそうに目を細めたシャムエル様は顔からお皿にダイブしたよ。
それを見て、あちこちで小さく吹き出してむせて咳き込む音が聞こえた。
「これは美味しいね。ねえケン。今度この肉で唐揚げ作ってよ、私、グラスランドチキンの唐揚げが食べたい!」
「おお良いね。もちろん作るよ。もうこうなったらいつ食うんだってくらいに、大量に作ってやるぞ」
俺の言葉に、シャムエル様だけでなく、神様軍団までもが大喜びで拍手なんかしてるし。
まあ、まだまだ時間はある。
だって、グラスランドブラウンブルは、熟成に半月近く掛かるって言ってたんだから、合間に狩りに出掛けつつ、俺はまた留守番してひたすら料理をすれば良いんだよな。
大満足の食事を終えて、ハスフェルが出してくれたお酒を皆でのんびり飲んでいて、俺は不意に思い出して慌てた。
「なあ、この部屋って、俺達祭りが終わるまでって言って借りてなかったか? 延泊の手続きしてないよな?」
しかし、慌てる俺を見て、ハスフェルは笑って首を振った。
「大丈夫だよ。エルから好きなだけ泊まってくれて良いと言われているよ。クーヘンは、家の改装が終わり次第あっちへ移るって言っていたけどな」
「あ、そうなんだ、良かった。下手すりゃ不法占拠状態になる所だったよ」
笑って誤魔化し、つまみのナッツを齧った。
「じゃあ、明日はクーヘンの店に顔を出して、ジェムを詰めたあの金庫を置いて来よう。もう内装も大丈夫だろうからな」
「良いなそれ。じゃあ明日はお前らはどうするんだ?」
「我らが泊まっていた宿は一旦引き払ったからな。じゃあ我らもここで部屋を借りるとするか」
オンハルトの爺さんの言葉に、全員が揃って頷いていた。