街への帰還と肉の引き取り
結局、一日中あちこち回ってスライムを集めたのだが、これがなかなか大変だった。
人海戦術で、神様軍団が横一列に広がってスライム達を追い込み、茂みから広い草地に逃げて飛び出てきたところで、目的の色の子を探してテイムすると言う作戦を行ったのだが、色が揃わない。
しかも、どうやらアクアとサクラの色がスライムの定番だったらしく、全体の半分以上はこの色だ。それ以外が、捕まえた五色のスライム達で、逃げ回って広い草原を跳ね回るスライムの色を選んで捕まえるのは、とにかく大変だった。
オレンジと緑、青のスライムが全く見つからないのだ。
オンハルトの爺さんに捕まえてやった黄緑色のスライムは、虹の色とは違うと女性二人が力説するもんだから、結局、黄緑色の子は見つけてもテイムしなかった。
良いじゃん、別に黄緑色でも。
「駄目だな。今までスライムの色なんて気にした事も無かったが、どうやら地域によって、棲息するスライムの色に違いがあるみたいだな」
ハスフェルの言葉に、疲れた俺は無言で何度も頷いた。
さすがにここまで何度もテイムしたのは初めてだったのだが、やってみて分かった事がある。
実はテイムって、案外体力を使うって事がね。
なのでもう、途中から俺は走り回るのは神様達と従魔達に任せたよ。
「もう、勘弁してくれ。疲れて動けないよ」
座り込んでそう言う俺を見て、苦笑いしたハスフェルとギイが黙って手持ちの机と椅子を出してくれた。
「お疲れさん。たかがスライム集めに、まさかここまで手間取るとは思わなかったよ」
ハスフェルが椅子を組み立てて俺の目の前に置いてくれる。
「ありがとな。だけど、ここまでやったら意地でも七色集めてやる! って思っちまうよな」
お礼を言って出して貰った椅子に座り、水筒の水を飲みながら傾き始めた空を見上げる。
「とりあえず、今日は街へ戻ろう。肉を引き取ったら明日はまたスライム狩りの続きかな?」
膝の上に飛び乗ってきたタロンを無意識に撫でながら、考えていてクーヘンのスライムのドロップを思い出した。
「あ、クーヘンのスライムのドロップはオレンジ色だったよな。どこでテイムしたか聞いてみれば良いんじゃね? それに緑色ならミストがそうだし、青ならギイのリゲルがそうだよな。あの子達は確か、レスタムやアポンの街の近くだったんだから、最悪でもそこへ行けば見つかるんじゃないか?」
俺の提案に、シルヴァとグレイが満面の笑みで頷いている。
彼女達の足元にはそれぞれ4色のスライムが並んでいる。最初の二匹は、赤のアインスと黄色のツヴァイだ。後の子達も名前はドイツ語の数字をそのまま使い続け、シルヴァに渡したスライム達は、黄色のゼクスが6、薄紫のアハトが8、濃い青のツェーンは10って意味だ。そして、グレイの足元に並んでいるのが、赤のジーベンが7、薄紫のノインが9って意味だ。後はどうするか考えて、この次はもうヤケでフランス語に突入して命名したよ。濃い青のアンは1って意味だ。
とりあえず、ここまでして今日は一旦終了になったよ。
夕食にはまだ早かったので、少し休憩してから、俺達は急いで街へ戻った。
日が暮れて少ししてから街へ到着した俺は、そのまま冒険者ギルドへ行き、頼んでいた肉を引き取る事にした。うん、疲れたから今夜はステーキにしよう。
「おう、お前さんか。準備は出来てるぞ」
ギルドに顔を出すと、丁度ハリーさんがカウンターの中でエルさんと話をしているところだった。
「ええと、お願いしていた肉って、すぐに食べられるんですか?」
出来たら今夜は、あのグラスランドブラウンブルで、分厚いステーキにしたい。ワクワクしながらそう尋ねた俺にしかし、ハリーさんは苦笑いして首を振った。
「残念だが、今日食っても美味くないと思うぞ。肉には熟成期間ってもんが必要だ。ああ、ハイランドチキンとグラスランドチキンはすぐに食えるぞ。だけどそうだな、今回ならブラウンブルなら冷蔵状態で十日から十五日程度。ブラウンボアなら四、五日程度は置かないと、味はともかく、固くて食えたもんじゃないぞ」
「へ、へえ……それは初めて知ったよ」
呆気にとられる俺を見て、ハリーさんは笑っている。
「何だよ。お前さん、そんな事も知らなかったのか? どうする。必要なら、ギルドの冷蔵庫で熟成させてやるぞ」
ハリーさんの有難い提案を聞き、俺は安心した。
預かり代が掛かるらしいけど、それは当然だもんな。もちろんお願いする。
だって、サクラとアクアの収納は時間停止だから、そのまま入れたらいつまでたっても肉が固いままって事になるもんな。
結局、ハイランドチキンとグラスランドチキンの肉を各部位ごとに分けた物をまとめてもらい、せっせと鞄に入ったサクラに飲み込んでもらう。
ハリーさんは黙って俺が大量の肉を鞄に入れるのを見ていた。
「なんでわざわざ鞄に入れるんだ? 普通、収納の能力者って、その場で一瞬で収めちまうんだけどなあ」
それは鞄の中にスライムのサクラがいるからです!……なんて言える訳も無く、俺は無言で慌てた。
「こいつは不器用な奴でな。収納する時に中に入れるって動作が必要らしい。収納は感覚的なものだから、こんな風に何かをする動作に紐づける奴も結構いるぞ」
苦笑いしたハスフェルが、慌てる俺を見て助け舟を出してくれた。
「成る程そりゃあ失礼した。いずれによ、凡人には羨ましい能力だな」
ハリーさんは肉の預かり伝票を書いて俺に渡してくれた。
「それと、肉だけで良いって言ってたけど、内臓はどうする?」
伝票を受け取りながら、そこまで考えていなかった俺は固まった。
さすがに、内臓の処理の仕方は知らない。モツ鍋って食わない訳じゃないけど、実は、それ程好きって訳じゃないんだよな。
「ええと、肉だけで良いです。って、出来ますか?」
「おお、じゃあ内臓は引き取って良いんだな、有難い。内臓は下処理に手間が掛かるが、好きな奴も多いんで、案外居酒屋の料理なんかでは人気があるんでな」
一瞬どうしようか考えたんだけど、伝票に書かれた肉の量を見て、俺は速攻で内臓を引き取るのをやめた。
だって、ブラウンブル一頭だけでも300ブルク、つまり300キロ近い肉が取れてるんだよ。当分、野生肉には、不自由しなくて済むのは確実になりました。
デカいとは思ったけど、牛一頭って700キロ近くあったんだ。それを何十頭も持ってて平気って……スライム達の中がどうなってるのか、本気で心配になってきたよ。
無言で感心していると、また奥から大きな袋を持って来た。
「ほれ、これが譲ってもらったグラスランドチキン20羽と、ブラウンブルとブラウンボアを五匹ずつ、亜種が2匹ずつ。それからブランマッドフィッシュ10匹分の買い取り金だ。こっちの袋が、肉以外の皮や羽根、それから追加の内臓の買い取り金だよ。ほら、これが明細だ」
笑顔のハリーさんから買い取り金の明細をもらって、若干気が遠くなった。
買い取り金を貰い、お肉の熟成してもらう為の預かり金を払う。微々たる金額で、何だか申し訳なくなったよ。
残念ながら、今夜の野生肉のステーキは出来なくなったので、代わりに、美味いと言ってたグラスランドチキンを焼いてみる事にしよう。
お礼を言ってギルドを後にして宿泊所に戻った俺達は、そのまま俺の部屋に当然のように全員集合した。
さてと、それじゃあ噂のグラスランドチキンを焼くとしますか。