クーヘンのジェムと委託用のジェムを整理する
俺の悲鳴に、ハスフェルとギイが揃って振り返り、揃ってドヤ顔になった。
何だよ、その完璧な同調率は。
「良いだろう? これを地下の倉庫に置いておけば、預ける大量のジェムの安全性も保証される。もう一つ、これよりも大きな引き出し式のジェム入れを贈るから、単価の低いジェムは、幾つかはそっちに入れておけば良い」
「良い考えだろう? これよりも安全な置き場は、そうは無いぞ」
胸を張る二人に、俺はもうなんと言ったら良いのかわからなくなって、混乱する考えを明後日の方向にまとめて放り投げておく事にした。
「はあ、もう良いよ。しかし、五万倍って言われても数字が大き過ぎて実感が無いよ」
苦笑いしながら首を振る俺を見て、ハスフェルとギイも笑っている。
「これは元々、シャムエルの奴から貰った物なんだけど、そもそも定住する家を持たないうえに、収納の能力を持っている俺達にこんな物をくれたって、はっきり言って意味は無いんだよ。捨てようかと思ったんだが、勿体無いからいつか使う日が来るまで置いておけってハスフェルに言われて、収納したまますっかり忘れていたんだ」
ギイの言葉に、机に座ったシャムエル様は笑っている。
「良いじゃないか。今、役に立ったんだからさ」
開き直ったかのように胸を張ってそう言うのを聞いて、ハスフェルとギイは鼻で笑った。
「って事で、これはクーヘンにあげるぞ」
「良いよ、また作ってあげる。今度は十万倍かな?」
「やめてくれ。そんな物貰っても迷惑だ」
真顔で断られたシャムエル様は、尻尾を振り回して不満気に足踏みをした。
「ええ、良いじゃん。それを作るの楽しいんだからさ。まあ良いや、それなら今度はケンに持たせてやろうっと」
「待て待て待て! なに俺にさらっと押し付けようとしてるんだよ。俺だって、定住する予定は無いから、そんなとんでもない物貰っても困りますって!」
「良いじゃんか。どうせスライム達の収納力は無限なんだから。入れておいても邪魔にならないでしょう?」
「いや、そりゃあそうだけどさあ……」
「じゃあ決まり。まあ、今から作るから、今すぐってわけじゃ無いから気長に待っててね」
ドヤ顔のシャムエル様に言われて、もう俺は言い返す気力を無くして頷いた。
「分かった。もう好きにしてくれ」
その時、気配がして振り返ると、神様軍団が大きな馬に乗ってこっちへ向かって来ている所だった。
「見つけたー! ずいぶん遠くまで行ってたから、探すの苦労したわよ」
文句を言いつつも笑顔のシルヴァに、笑って手を振る。
「街を出てもいなかったから、どうしたのかと思ってたんだ。そっか、騎馬を買ったんだな」
「そう、私達だけ歩きってなんだか悔しいからさ。他の人目がある場所では、早々転移の術は使えないしね。それで、騎馬専門店をギルドで紹介してもらって、全員分の馬を手に入れたの。どう可愛いでしょう?」
それぞれ、かなり大きな馬に乗っている。馬具も、パッと見ただけで分かるよ。あれは、相当な値段がしそうな良いものだ。
「確かに、まだしばらくいるのなら、足になる馬は必要だよな」
「ケンが、恐竜をテイムしてくれたら嬉しいんだけどなあ」
シルヴァが目を輝かせてそんな事を言うので、ちょっと遠い目になった。
この、無駄に顔面偏差値が高過ぎる団体が、全員、何かの恐竜に乗っている姿を想像する。
もう、目立ち具合が半端ない。うん、無理。テイムするのは却下。
「もう、馬を買ったのなら、足は確保出来たんだからいいじゃないですか」
誤魔化すようにそう言って、テントを張り始めた神様軍団用に、また冷たいドリンクを出してやった。
神様軍団が集めた大量のジェムは、レオとエリゴールがまとめて持ってくれているらしいので、俺の分はアクアに、クーヘンに渡す分はサクラに一旦渡してもらった。
両方が収納の持ち主だと、外に出さずに持っている物を渡す方法があるらしい。
何をしたのか分からないけど、あっと言う間に譲渡は完了したらしい。
アクアとサクラが、俺の足元に戻って来て得意気に伸び上がるので、それぞれ紋章の部分を撫でてやった。
「さてと、それじゃあクーヘンに渡すジェムをその引き出しに入れていくか」
アクアとサクラが足元にいるので、まずは預かっているクーヘンの分のジェムを整理する事にした。
オンハルトの爺さんが、持っていた布製の大きな巾着を大量に取り出してくれたので、各色別にそれぞれのジェムを袋に入るだけ詰めていく。
机の上に取り出した大きな紙に、整理したジェムの名前と数を書き込んでいく。
少し考えて、袋の口を縛る紐にも、布を切って作った名札を括り付けておく事にした。
その布に、中に入っているジェムの名前を書き込む。それから、別の布にはスライム達に数を聞いてそこに書き込み、さっきの名札の下にこれも一緒に括り付けていった。
これで、何が何個あるのか分かるだろう。まあ、数に関しては取り出す時に数を記入する台帳を作れば問題なかろう。最初の数が分かっていれば、少なくともいくつ減ったかはすぐに分かるもんな。
ハスフェルとギイ、それから神様軍団も、黙々とジェムの整理をする俺を見て、黙ってジェムの整理を手伝ってくれた。一応、やり過ぎた自覚はあるみたいだ。
途中、マックス達が狩りから戻ってきて、待っていた猫族軍団と交代した。
巨大化した猫族軍団は、揃って大喜びで狩りに出かけて行ったよ。
一番上の引き出しには、最初の頃に神様軍団が集めてくれた大量の下位のジェムが全部入ってしまった。
そして二段目には、ベリーが集めてくれた大量の恐竜のジェムを入れる事にした。
これも、袋に入るだけ詰め込んでは、括り付けた名札に名前と数を書き込んでいった。
これは二段目に全部入った。凄えぞ、さすがは五万倍の収納力。
ティラノサウルスのジェムだけは、そこに入れずに一応避けて別に置いておく。
三段目には、後半に神様軍団が集めた滅多に手に入らない樹海産のジェムや、最上位種や亜種のジェム、それから他の地域の地下洞窟で集めた恐竜のジェムを、これまた種類別に袋に整理しては名前と数を書き込み、入るだけ詰め込んでいく。
樹海のジェムは、皆からどんなジェムモンスターなのかを説明して貰いながら整理していった。
それから四段目には、あの結晶化したダークグリーンオオサンショウウオのジェムの半分も入れた。大型犬サイズのジェムは、入る袋が無かったので、そのまま投入。
それからここに、ティラノサウルスのジェムもそのまま入れておいた。
クーヘンの分だけでもとんでもない量だ。もう、はっきり言って気が遠くなったよ。多分、これは一生かかっても絶対完売はしないだろう数と種類だ。
うん、ごめんよクーヘン。君の健闘を祈るよ。
最後の段には、俺達三人の委託のジェムを入れる事にした。
とは言っても、よく考えたら俺達が委託する予定だったジェムって、全部今までの在庫に有るじゃん。
「まあ良いや。こうなったら、ダブっても気にせず渡す事にしよう」
巾着の側面に、インクでそれぞれの名前を書いておく。こうすれば、誰の委託品か分かるだろう。
三人それぞれに委託したいジェムの名前と数を、ノートに控えてせっせと巾着に整理していった。もちろん、名前と数を書いた布を括り付けるのも忘れない。
俺は。ブラウングラスホッパーのジェムを一万個、亜種も一万個、まずは巾着にひたすら詰め込んだ。
それから、これも大量に有る恐竜のジェムを、せっせと数を聞いては袋に詰めていった。
少し離れた所で、ハスフェルとギイも委託用のジェムを大量に袋に入れて積み上げている。
その三人分の大量の袋が全部、五段目に入った時には三人揃って大笑いしたよ。
休憩して見ていた神様達も、笑って拍手していた。
さて、総額いくらになるのか、考えるのも怖い在庫の整理が、とりあえず出来ました!
お疲れ様でしたー!