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クーヘンの開店準備と狩りへ出発

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「おう、明後日までには仕上げておくよ」

 解体担当のスタッフ総動員で取り掛かってくれるそうだ。

 見送ってくれたハリーさんに手を振って、俺たちは一階へ戻った。

「それじゃあ、クーヘンの店に顔を出してから狩りに行くとするか」

 そのままギルドの建物を出ようとした時、カウンターの中からエルさんが何か言いたげに手招きしているのが見えた。

「あれ、なんか呼んでる?」

「みたいだな。ちょっと待っててくれ」

 ハスフェルが手を上げて従魔達を置いたままカウンターの前へ行った。

 ギイと顔を見合わせて、そのまま壁際に寄って大人しく待つ。


 しばらくすると、立ち上がったハスフェルがエルさんに首を振るのが見えた。

 エルさんが苦笑いしながら頷き、ハスフェルはそのままこっちに来た。

「お待たせ、じゃあ行こうか」

 なんの話だったのかは言わずに、そのままギルドの建物を出てクーヘンの店へ向かった。



 街の中をマックスの背に乗ってゆっくり歩いていると、あちこちから声がかかり手を振られる。

 愛想笑いをして時々手を振り返し、また愛想笑いをする。うう、これは地味に疲れるよ。

 隠れて、密かにため息を吐いた。モブその1。くらいの扱いが俺には合ってるんだって。



 到着したクーヘンの店は、ウィンドウを覆っている板の外側に『間も無く開店!』と、大きく描かれた幕が張られていた。それを潜って横の通路から裏庭のある側に入る。

 厩舎はまだ柵は閉じられたままだが、もうすっかり出来上がっているように見えた。

 真新しい木製の大きな屋根。そして木製の板を重ねて作られた壁。大きな窓は全面がブラインドみたいになっている。板の間には斜めに隙間があって通気性も良さそうだ。

 厩舎の大きな扉は今は閉められているので、まだ入れないみたいだ。残念。




 裏庭側の扉から声を掛けると、返事が聞こえてマーサさんが顔を出した。

「ああ、いらっしゃい。早駆け祭りの英雄達のお出ましだね。さあ、どうぞ。入っとくれ」

 目を細めて嬉しそうにそう言うマーサさんに、皆揃って照れたように笑った。

 勧められるままに中に入り、店に行ってみると、内装はもう完璧に仕上がっていた。

「おお、凄え。商品棚とかも仕上がってるんじゃん」

 今からなのだろう、布が掛かった商品棚がいくつもまとめて並んでいる。

「ケン、ハスフェル、ギイも来てくれたんですね」

 奥から声がして、エプロンをしたクーヘンとお兄さんが出て来た。

「祝勝会の時にはご挨拶出来ませんでしたね。クーヘンの兄のルーカスと申します。この度は弟が本当にお世話になりました。話を聞いて、貴方方は創造主様の化身ではないかと本気で思いましたよ」

 そう言って深々と頭を下げられて、俺は慌てた。

「いやいや、全然大したことはしてませんって、店に協賛したのも、手持ちのジェムを売ってもらうっていう下心あっての事ですから」

 慌てて手を振り、頭を上げてもらう。

 お兄さんはクーヘンによく似た、更に小柄な人だった。

「娘と息子を紹介します。ほらお前ら、こっちへ来てくれって」

 奥から、よく似た男女二人が駆け出してくる。二人ともお揃いの大きなエプロンをしている。

「初めまして。ルーカスの息子のヘイルと申します、父と同じく細工師をしております」

 こげ茶の髪の小柄な男性の方が、笑顔でそう言って頭を下げる。

「初めまして。スノーリーフって言います。どうぞスノーって呼んでください。販売担当です」

 やや赤っぽいこげ茶の髪の女性が、満面の笑みでそう言って頭を下げた。この笑顔はファンが付くぞ。なんて言うか、いい笑顔だ。

「初めまして。ネルケと申します。本当に、皆様にはどれだけ感謝しても足りません」

 これも小柄な女性が出て来た。彼女がクーヘンの義理のお姉さんに当たる人だね。うん、優しそうな方だ。

 お兄さん家族は、家の方の改修工事が終わった部屋の掃除に順番に取り掛かっているらしい。まあ、工事したら埃だらけになるからね、掃除は必須だよ。

 一通りの挨拶が済むと、お兄さん達はまた掃除に戻って行った。




「ようやく店の改修工事が終わって、今は住居部分の補修工事の最中です。ああ、裏の厩舎を見てくださいましたか。思った以上の仕上がりになりましたよ」

 満面の笑みのクーヘンに、俺も笑顔になった。

「おお、外からだけだけど見たよ。凄え綺麗だったな」

「まだ中は空っぽですので、従魔達には裏庭で過ごしてもらっていますけれどね」

「そうなんだ。厩舎で使う干し草とかはどうするんだ?」

「もちろん、専門の業者がいて手配中です。今日にはまとめて届く予定なので、そうなったら皆を屋根のある場所で寝かせてあげられます」

 嬉しそうにクーヘンはそう言い、俺を見た。

「ようやくここまで来ました。まだ開店まではあと一息と言ったところですね」

「思った以上に仕上がってて驚いたよ。ええと、それはそうと俺達は、今から従魔達の狩りに出掛けるんだけど、肉食チームの子達も良かったら一緒に連れて行くぞ」

 レッドクロージャガーのシュタルクと、レッドグラスサーバルキャットのグランツ。それからミニラプトルのピノは狩りをさせてやる必要があるので、一緒に連れて行こうかと思っていたのだ。

 だけど、クーヘンは笑って首を振った。

「色々食べさせてみたところ、新鮮な鶏肉があれば、皆、それで大丈夫だって事が分かりました。商人ギルドで紹介してもらって、郊外の農場から定期的に締めたばかりの鶏肉を届けてもらう事にしました。まあ、時々は狩りにも出掛けますが、皆それでいいと言ってくれましたよ」

 確かに、猫族は、狩りに行けなければ鶏肉でも良いって言ってたな。

「じゃあ大丈夫だな。それじゃあ俺たちは狩りに行ってくるから、開店準備、頑張ってな」

「ええ、気を付けていってらっしゃい」

 拳をぶつけ合って、俺たちはクーヘンの店を後にした。




「思った以上に仕上がってたな。これなら近々開店出来そうだ」

「ああ、そうだな。じゃあ、従魔達が交代で狩りに行っている間に、俺達はクーヘンの店に預けるジェムの整理をするか」

「そうだな。ようやくあれが活躍するんだな。捨てなくて良かったよ」

「だから言っただろうが、絶対いつか必要になる日が来るから、勿体無いから置いておけとな」

「ご明察恐れ入ります」

 自慢げなハスフェルの言葉に、ギイが苦笑いして肩を竦めている。

「何の話だよ?」

「後で教えてやるよ」

 笑ったハスフェルに言われてギイを見ると、彼も笑って頷いている。

「それじゃあ出掛けるとしようか」

 レースの時みたいに、マックスの頭の上にいきなり姿を表してそんな事を言うシャムエル様に、俺は笑って尻尾を突っついてやった。



 そのまま、あちこちから声を掛けられつつ、急いで街を出て街道から離れた道無き道を一気に走り出す。

 マックス達も鬱屈していたみたいで、一気に加速して走り出した。猫族達は、小さくなったままニニの背中の上で並んでご機嫌だ。

 あっと言う間にハンプールの街が見えなくなり、街道も見えなくなると、もうそこにいるのは俺達だけになった。

 そのまま森の中に走り込み、茂みを飛び越えて少し速度を落として更に走る。


 やっぱり郊外は良い。何より街中とは空気が違うよ。


 森を抜けた先にあったのはやや起伏のある広い草原地帯で、更に加速した俺達は一気に草原を駆け抜けて行ったのだった。

 シャムエル様曰く、今日の目的地はこの草原の向こうなんだってさ。

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