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ギルドで買い取り依頼をする

「全く、お前らは朝から何をしてるんだ」

「ええ、ハスフェル酷い。私は被害者だよ。大事な尻尾を撫でたり揉んだりさすったりして、散々弄ばれたんだからね」

「それはお前が約束したんだから、当然だろうが」

 笑いながらハスフェルに言われて、シャムエル様は誤魔化すように笑った。

「えへへ、そうだね。確かに私が言ったんだったね。好きなだけもふらせてあげるって」

「だろう? だったら俺は何も悪い事してないぞ」

 笑って尻尾を突っついてやると、シャムエル様も笑って尻尾をブンブン振り回して俺の指を叩いた。


 おお、それも良い攻撃だな。良いぞもっとやれ。




「さて、それじゃあ、まずはギルドで獲物を捌くのをお願いして来よう」

 立ち上がった俺を見て、従魔達が小さく戻ってそれぞれの定位置に収まる。

「じゃあ行くか。さて、外はどうなってるかな?」

 ハスフェルとギイも立ち上がり、それぞれの従魔達を連れて、隣のギルドの建物に向かった。

 外の飾り付けはすっかり撤去されていて、見たところ、もう祭りの騒ぎは昨日で終わったみたいだった。


 ギルドの建物の中は、いつものように賑やかな冒険者であふれていた。

「いよう。昨日の英雄殿のお越しだぞ」

 入り口にいた冒険者の声に、皆が笑って振り返る。

「いやあ、やってくれたな。あの馬鹿どもの顔を見たかよ」

「楽しませてもらったぞ。お疲れさん」

 何人もが駆け寄ってきて、俺達の背中や肩を好きに叩いて行く。

「……そういやあの後、あいつらどうなったんだろうな」

 小さな声で呟くと、無言でハスフェルが背中を叩いてくれた。

「エルに聞いてみよう、何か知ってるかもな」

「だな。だけど、正直言ってもう関わり合いになりたくないよ」

「確かにそうだな」

 ハスフェルも嫌そうにそう言うと、肩を竦めてカウンターへ向かった。

「やあ、来たね。まさかもう旅立つのかい?」

 丁度奥から出てきたエルさんが、俺達を見てすっ飛んできた。

「さすがに、まだ行きませんよ。クーヘンの店の開店を見ないとね」

「そうだよね。それで今日はなんだい?」

「ええと、従魔達が獲物を獲って来ているんで、捌いていただきたいなと思いまして」

「ああ、それなら専門家を紹介するね。誰か、ハリーを呼んできてくれるかい」

 エルさんの声に、職員が返事をして階段を降りて行った。

「へえ、気が付かなかった。地下があるんだ」

「そう、ハリーの仕事場だよ」

 笑ったエルさんも一緒に来てくれて、先程と別のカウンターに座って待つ。



 しばらくすると、ハスフェルほどでは無いが、筋骨隆々の男性が地下から出て来た。

「おう、ハスフェルじゃねえか。ギイも一緒か。いやあ、やってくれたな。おかげで少しだけど儲けさせてもらったぞ」

 豪快に笑って、互いの背中を叩きあっている。軽く叩いたとは思えないほどバシバシいってる、その音が怖いんですけど!

 無言でビビる俺に、ハリーと呼ばれた男性は満面の笑みで右手を差し出して来た。

「素材担当のハリーだよ。よろしくな。魔獣使い。それで、獲物を持って来てくれたんだって?」

「ケンです。よろしく。ええと、肉が欲しいので、それ以外で買い取ってもらえる素材があれば、買い取りをお願いします」

「肉は返して素材は買い取りだな。で、何があるんだ??」

 改めて聞かれてちょっと考える。

 これだけ大勢の人目がある中で、あれだけの貴重な獲物を大量に出していいか?

「ええと……」

「待て、了解だ。奥へ行こう」

 俺が躊躇っているのに気付いたハリーさんが地下へ行く階段を指差して立ち上がった。

「ええと、こいつらは? 一緒でも良いですか?」

「おう、もちろんだ。さあどうぞ」

「じゃあここは任せるよ、また後でね」

 別の職員に呼ばれたエルさんは、名残惜しそうにそう言って手を上げて、呼びに来た職員さんと一緒に奥の部屋に行ってしまった。

 忙しそうな後ろ姿を見送り、ついて行った部屋は、真ん中に大きな机が置いてあるだけの椅子もない広い部屋だった。

 マックス達は、部屋の隅で固まって好きに転がっている。



「噂には聞いていたが、本当にこうやってみるとすげえ光景だな。冒険者時代に殺されかけたのと同じ種類のジェムモンスターが、俺の職場で寛ぐ日が来るとはね」

 腕組みして従魔達を眺めるハリーさんは、そう言いつつも顔は嬉しそうだ。

「ええと、ちなみに、どの子ですか?」

 ハリーさんは苦笑いしながらレッドクロージャガーのフォールを指差した。横ではハスフェルの肩から飛び降りたスピカと、ギイの足元にいたベガも集まって来て、三匹仲良くじゃれ合っている。

「あれ、ちっこくなってるけど……クロージャガーだよな?」

「ええ、そうです。レッドクロージャガーですよ」

「やっぱりな。どうやって捕まえたのか、聞きたいような聞きたくないような」

 そう言ってブルっと体を震わせたハリーさんは、話を変えて笑って机を叩いた。

「俺の事はいいよ。ほれ、獲物を出しな」

 頷いた俺は、鞄に入ってもらったアクアから、まずはハイランドチキンの残りを全部取り出した。

「ええと、まずはハイランドチキンが7羽お願いします」

 デカいニワトリもどきを順番に引っ張り出す。

「おお、凄えなこりゃ」

 手にした書類に書き込みながら、まだ驚いた顔をしている。

「それから……」


「まだ何かあるのか!」


 ものすごい勢いで振り返って迫って来られて、思わず仰け反る。

「有りますよ。ええと、まずはグラスランドチキンが20羽、亜種は5羽。グラスランドブラウンブルと亜種同じくグラスランドブラウンボアと亜種、各1匹ずつお願いします。あ、ブラウンマッドフィッシュも有りますけど、要りますか?」

 普通の牛や猪よりも大きいブラウンブルとブラウンボアは、一応まずは1匹ずつお願いしてみる事にしたのだ。

 呆気にとられて声も無いハリーさんは、しばらくすると突然笑い出した。

「連れてる従魔が桁違いなら、持って来る獲物も桁違いだな。さすがは超一流の魔獣使いだ」

 ようやく笑いの収まったハリーさんにそう言われて、俺は誤魔化すように肩を竦めた。

「今言った中では、俺が自力で確保したのはブラウンマッドフィッシュだけですよ」

「じゃあ、それも10匹もらって良いか?」

「10匹ね。了解です」

 指先で摘んで取り出そうとしたら慌てて止められ、奥から大きなバケツを持って来た。

「ここに頼むよ。机の上に泥まみれのを出すんじゃねえよ」

「悪い悪い。じゃあこれな」

 取り出した泥まみれの魚が入ったバケツは奥に置かれ、机に並んだ巨大な獲物をハリーさんは無言で眺めた。

「なあ、ちょっとだけでも分けて貰えないか?」

「肉ですか?」

「肉だ」

 顔を見合わせてそう言い。俺は笑って鞄に手を突っ込んだ。

「分かりました。何匹要ります?」


「今、何つった?」


「そこのグラスランドチキンと、ブラウンブルとブラウンボアは、まだまだあるんですけど、何匹要ります?」

 俺の顔を見て沈黙した後、口を開いた。

「そんなに有るのか?」

「まあそれなりに」

「なら、チキンは同じだけ、20羽もらっても良いか?」

 頷く俺を見て、ハリーさんはまた考える。

「牛と猪は、5匹ずつ有るか? 亜種もあるなら2匹ずつ、それだけ分けて貰えたら有り難いんだがな。無ければ、お前さんが良いだけ出してくれ」

「大丈夫ですよ。じゃあ出しますね」

 そう言って、机の上に取り出していく。


 並べて取り出すと、先程とは比べものにならないレベルの量になった。机の上一杯に屍累々状態。ちょっと怖い……。




「良いわよー! それ位なら全然へっちゃらよー! また捕まえてくるからねー!」

 転がっている猫族軍団が、完全に遊んでる声でそんな事を言っている。

「おう、よろしく頼むぞ」

 振り返って従魔達にそう言ってから、あいつらの声はハリーさんには聞こえていない事を思い出した。

「何だ? 何か言ってるのか?」

 笑いながら聞かれたので、俺はこっちへ来たタロンを抱き上げて背中を撫でてやりながら振り返った。

「また捕まえて来てくれるそうですよ」

「あははそりゃあ良いな。また何か捕まえたら、いつでも遠慮無く持って来てくれよな。ところで、さっきから思っていたんだ、そいつは何のジェムモンスター何だ?」

「この子?」

「ああ、真っ白で可愛いな」

「この子は猫です。俺のペットの猫です」

 その言葉を聞いた瞬間、ハリーさんは思いっきり吹き出してその場にしゃがみ込んで大爆笑になった。

「ペット、まさかのただの猫かよ……」


 ケット・シーだけどね。


 っていつもの言葉をぐっと飲み込んで、誤魔化すようにタロンの柔らかな頬毛に思い切り頬擦りするのだった。

 ああ、やっぱりこの懐かしいサイズも良いよな……。

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