チーム戦表彰式とその後の災難
「ああ、降りないでください。この後、チーム戦の表彰式も引き続き行いますので、このままお待ちください」
もう終わったのかと思って花束を抱えて舞台から降りようとしたら、慌てた係員に止められた。
「あ、そうか。チーム戦もあったんだ。すっかり忘れてたよ」
苦笑いして、係の人に、一旦もらった花束と封書を渡す。
それぞれの花束と封書を持ったまま、係員の人達は少し離れて俺達の後ろに並んでくれてた。
「では最後に、三周チーム戦の表彰に移らせて頂きます。いやあ、しかし凄い戦いだった。特に最後の強烈な加速に、私は途中から鳥肌が立ちっぱなしでした」
拍手と同意する声があちこちから聞こえて俺達も笑顔になる。
「では、順番に発表します。まあもう皆さまお分かりですけどね」
やや投げやりな司会者の声に、会場から笑いと拍手が起こる。
「チーム戦の第三位は現役教授コンビのチームマエストロ! 個人戦、初表彰台となった五位と六位を確保しての受賞だ! お見事! 本当に素晴らしい戦いでした。堂々と胸を張って商品を受け取ってください! 皆さま、温かい拍手をお願い致します」
大歓声と拍手が沸き起こるなか、ウッディさんとフェルトさんが並んで前に進み出る。
エルさんが、大きな盾を手渡し、また封書を観客に見せてから手渡した。
「チーム戦第三位の副賞は、船舶ギルド提供、豪華客船エスメラルダで行く、王都インブルグとハンプールのペア往復乗船券! しかも一等船室! さあ、学生諸君、準備は良いか? 果たして主席は誰が取るのか!」
司会者の言葉に、前列の学生達が大笑いして拍手している。どうやら、チーム戦の副賞も、学生達が使うみたいだ。彼らを見てウッディさんとフェルトさんも笑ってる。
そして、俺とハスフェルは、思わず顔を見合わせた。
この副賞……もし、俺達のもこれなら、何枚もらっても意味無いよ。
だって俺達、一等船室の無期限乗り放題乗船券持ってるし。
「チーム戦第二位は、戦神の美丈夫、金銀コンビ! 個人戦二位と三位を確保しての受賞だ! これも凄いぞ!」
大歓声の中、二人が前に進み出て、大きな盾とまた封書を受け取る。
「チーム戦二位の賞は、これも船舶ギルド提供、豪華客船エスメラルダで行く、王都インブルグとハンプールのペア往復乗船券!一等船室に船内レストランのお食事券も付いてるぞ!」
『これはクーヘンにまとめて進呈だな』
ハスフェルからの念話が届き、俺は笑って頷いた。
『一位もそれなら、俺も提供するよ』
念話で答えると、笑う気配がして気配が途切れた。
「そして最後に見事な追込み一位を確保したのは、チーム愉快な仲間達! 最高の仲間達だあ!」
大歓声の中を、クーヘンと一緒に進み出る。
「チーム戦一位の副賞は、これも船舶ギルド提供、豪華客船エスメラルダで行く、王都インブルグとハンプールの往復乗船券がなんと10枚! これも、一等船室に船内レストランのお食事券ももちろん付いているぞ!」
予想通りの副賞に、苦笑いした俺は盾を、クーヘンが封書を受け取った。
改めて拍手が起こり、俺達は互いの手を取って腕を突き上げた。
表彰式が終わり舞台から降りた俺達は、一旦、テントへ戻って待っていてくれるように係員の人に言われた。
まあ、この大騒ぎの中を迂闊に宿泊所に戻ると、また揉みくちゃにされそうだもんな。
護衛役の係員の人に囲まれて、テントへ戻る。
「なあ、あいつらどうしたかな?」
寄って来てニンマリと笑うギイの悪そうな顔を見ながら、俺は小さなため息を吐いた。
「なんだかもう、どうでも良くなったよ。俺は降りるから後は任せる」
「なんだ、遊ばないのか?」
「敗者をいたぶる趣味は無いんでね」
肩を竦めてそう言った時、ニニの物凄い威嚇の唸り声が聞こえて俺は飛び上がった。
「ニニ! どうした!」
係員が止めるのも聞かず、垂れ幕を引き上げてテントの中に飛び込む。
俺が見たのは、短刀を手にしたあの馬鹿二人が地面に転がっていて、揃って爪全開のニニの前足に押さえ込まれている所だった。
しかも、ニニの左右にはレオとエリゴール、それからオンハルトの爺さんまでが剣を抜いて馬鹿共の首元に向けていた。
「今、警備兵を呼んだから、死にたくなければそのまま大人しくしていろ」
オンハルトの爺さんの凍りそうな声が聞こえる。
真っ青になったまま硬直している馬鹿二人を見て、俺は思わずしゃがみ込んだ。
「……なあ、状況説明を求めます」
駆けつけた警備兵に二人が連行されていくのを見送り、まだ呆然としていた俺達は、とにかく椅子に座った。
警備兵と一緒に、レオとエリゴール、そして何故かギイがついて行った。
シルヴァとグレイの美人コンビは、あの騒ぎの間も平然と椅子に座って屋台で買って来たのだという揚げ芋なんか食べてた。それの方が、犯人取り押さえるよりも逆に凄いかも。
「それで、貴方達はどうやってテントに入ったんだよ。ここは関係者以外立ち入り禁止の筈だけど?」
「あら酷い、ケンは私達は仲間に入れてくれないの?」
シルヴァさんに拗ねたようにそう言われて、慌てて必死で首を振る。
「いや、俺は全然構わないよ。どうぞ好きに寛いでて下さい。だけど、勝手に入るのは不味いんじゃないかと思ったんだって」
俺はてっきり、転移の魔法で勝手に中に入り込んでいたんだと思ったんだが、オンハルトの爺さんが、笑って胸元からなにかのカードを取り出して見せてくれた。
「何これ?」
「入場許可証。つまり、ここに入れる許可証じゃよ」
笑ったオンハルトの爺さんに続き、グレイもカードを取り出して見せてくれた。
「私達は、エルさんに許可証をもらって、表彰式の間ここで待たせてもらっていたの。シュレムがここで良くない事が起こりそうだって言ったからね」
「……それで、あれ?」
思い切り嫌そうに言うと、三人も揃って嫌そうに頷いた。
「我らがテントの中で寛いでいると、あの馬鹿二人がいきなり飛び込んで来てな。短刀を抜いてニニちゃんに飛び掛かって来たんだよ。まあ、大人しく刺されるわけもないけど放っておくわけにもいくまい。で、ああなったわけだ」
「つまり、俺達に負けた腹いせに、俺達の従魔達を殺そうとしたと?」
「まあ、そう言う事だろうな」
思いっきり嫌そうなオンハルトの爺さんの声に、俺はもう一度大きなため息を吐いて頭を抱えた。
「土下座云々の話どころじゃねえよ。馬鹿もここに極まれりだな。やっていい事と悪い事の判断もつかねえのかよ。完全にこれは犯罪だろうが」
「まあ、思い通りにならないからと言って、腹いせに武器を抜いた時点で色々終わりだな、馬鹿決定だ」
「馬鹿よねー!」
「馬鹿だわ」
神様達のこれ以上無い的確で容赦のない表現に、もう笑いしか出ない。
「本当にあの馬鹿共、マジでいい加減にしてくれ。せっかくのお祭りに水を刺しやがって」
そう叫んだ俺は、俺にさっきからずっと頬ずりしているニニのふかふかの首元を抱きしめて、もう一度大きなため息を吐いた。
「偉かったぞ。よく殺さないでいてくれたな」
ニニが本気で叩いたら、それだけで人間なんて確実にイチコロだろう。奴らが武器を持っていたとしても 、そんな事をしたら、ニニや俺が罪に問われる可能性だってあった。我慢したニニが一番偉い!
「獲物はいたぶって遊ぶのが楽しいのよ。一撃でなんて殺さないもん」
嬉しそうに喉を鳴らしながら、とんでもなく物騒な事を嬉々として言うニニに、思わず遠い目になった俺は……悪くないよな?