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買い物と新たなジェムモンスター狩り

 革工房を後にした俺達は、広場へ戻って屋台で串に刺さった肉や野菜を買い、のんびり食べながら歩いた。


「あ! あれってもしかして……やっぱり牛乳だ!」

 肉屋の通りを覗いて、俺は思わず立ち止まった。

 昨日は気が付かなかったけど、牧場直営の看板を掲げた店があり、肉屋に置いてあったような冷蔵庫であろう金属製の箱が、店の中に並んでいた。しかもよく見ると、その中に並んでいるのは、どう見ても牛乳瓶だったのだ。

 1リットルぐらいの大きな瓶もある。そして別の箱の中にあるのはどう見てもチーズとバターだよ。


 これは買いでしょう!


 店の人に頼んで、大きな牛乳瓶を5本と、バターやチーズの塊を色々まとめて買った。

 これで俺の自炊ライフがかなり充実するな。よしよし。


 牛乳瓶は包んでもらい、バターとチーズは受け取って鞄に放り込む。中ではサクラが、鞄の中で次々と飲み込んでくれている。

 その店で、耳寄りな情報を聞いた。

 今日はもう売り切れてしまったが、朝一番に来れば数量限定で入荷するフレッシュチーズが有るらしい。

 クリームチーズとかモッツアレラチーズとか、あったら最高じゃん。

 明日は頑張って早起きしようっと!

 店を離れてからマックスの陰に隠れて、牛乳瓶もサクラに飲み込んでもらった。


 一旦宿泊所に戻り、今日の買い物を整理して、改めて順に説明しながらサクラに預けていく。

 ついでに、注文した時にもらった木札も預けておく。


「じゃあ、今日もジェムモンスター狩りに行きますか!」

 立ち上がった俺の言葉に、皆嬉しそうに鳴いたり羽ばたいたり飛び跳ねたりしている。

 ははは、元気だね君達……。



 マックスの隣を並んで歩いて、まずは街の外へ出る。街を出るのに城門を通る時は、特に何もチェックが無いんだよな。

 外へ出てからマックスの背中に乗り、街道脇を早足で駆けて行く。

 時々、俺達を見て驚く通行人がいるけど、気にしない、気にしない!



 あっと言う間に街道が見えなくなり、更にスピードを上げて幾つもの雑木林を通り抜けた。

「あ、この辺りだよ。少しスピード落としてくれるかな」

 俺の右肩に座ったシャムエル様の言葉に、マックスがゆっくり歩く程度の速さになる。

「この辺りが、ブラウンハードロックの繁殖地だよ」

「……何それ?」

 思わず聞き返した。だって、名前からどんなジェムモンスターなのか想像が付かなかったからだ。

 直訳すると、茶色い硬い岩? それって何? それとも音楽的なアレか?


 混乱する俺を放置して、行こう行こうと大喜びでさっさと進む一行。

 なんか俺って……実はハブられてる?


 ちょっと密かに拗ねていると、どんどんマックス達は森の中に入って行った。 枝が当たって怖いので、マックスの背中に張り付くように伏せる。

 しばらく進むと、岩石がゴロゴロ転がってる広場に出た。何故だかこの辺りには、木や草が全く生えていない。荒涼とした風景だ。

 平地だけど、火山地帯っぽいな。

 そんな事を考えていたら、頬を叩かれた。


「着いたよ。降りてくれる?」


 シャムエル様の声に、俺はマックスの背からゆっくりと降りた。

 見回してみたが、何処にも生き物がいる気配は全く無い。

「なあ、どんなジェムモンスターなんだ? そのブラウンハードロックって」

 一応、周りを警戒しながらそう尋ねた時、足元の岩が転がるように突然動いたのだ。

 まさか、ロックって、本当に生きた岩って意味かよ!

 慌てて剣を抜こうとしたら、またシャムエル様に頬を叩かれた。

「あ、そいつには剣はほとんど効かないから、これを使ってね」

 そう言って、いきなりデカい金槌みたいなのを取り出した。


 ……だから、毎回どこから出すんだよ、それ。


 手渡されたそれは、妙に見覚えのある武器だ。

「あ、これって某ハンティングゲームの武器、ハンマーそのものじゃん」

 軽く振り回してみたが、やや重かったが持てないほどの重さじゃ無い。

「つまり、これでぶっ叩け! って事かよ」

 そう言ってハンマーを両手で構えると、シャムエル様は笑って頷いた。

「足元に転がってるのが、ほぼ全部ブラウンハードロックだよ。岩みたいだけど、これはトカゲの仲間のジェムモンスターでね、丸くなってるのが通常形態。そのハンマーでぶっ叩けば、衝撃で外側を固めてる硬い鱗が割れるんだよ。そうすれば、普通の武器が使えるようになるし、マックスやニニちゃんでも攻撃出来るからさ。つまり打撃系の武器を持てる君が、まずは頑張ってくれないと、このままだと他の子達では歯が立たないの! 分かった?」

「物凄くよく分かりました。ようは俺にまずは働けって事だな!」

 笑ってそう叫ぶと、俺は手にしたデカいハンマーを思い切り振りかぶって、近くにあった岩に振り下ろした。

 ものすごい衝撃が来て思わず後ろに下がったよ。どんだけ硬いんだよ、こいつ。

 パラパラと岩の破片が落ちて、岩だった丸いものが、広がってのっそりと動き出した。


 あ、これって動物園で見たことある奴っぽい!

  ええと……何だっけ?


  ……マルマジロ? 違う、アルマジロだ!


 ようやく思い出して顔を上げた瞬間、マックスが大口を開けてアルマジロもどきに飛びかかった。

 おう、柔らかい腹側に噛み付くって、容赦無いな。


 若干ビビる俺の目の前で、アルマジロもどきは不意に消えて、代わりにかなり大きなジェムになって転がった。

「デカいジェムだな」

 拾って見てみると、最初の時にシャムエル様が出してくれたのと同じくらいの大きさのジェムだった。

「ブラウンハードロックは、ある程度以上の力量のある人じゃないと、狩る事が出来ないんだよ。だからそのジェムも強度があるから高く売れるよ」


 はい、シャムエル様のドヤ顔頂きましたー!


「成る程ね。じゃあ頑張って俺が岩を砕くから、あとはよろしく!」

 笑ってそう言って、俺はまた次の岩にハンマーを振り下ろした。


 もう、それからはひたすらハンマーを振り回して、ガツンガツンと岩を叩きまくった。

 俺が叩いた後、マックス達は嬉々として防御の無くなったブラウンハードロックをやっつけてる。しかし、殴っても殴っても何故か岩は減らない、どうなってるんだ……これ?


 しかも、困った事に、時々中に本物の岩があるんだよ!

 これは本気でやめて欲しい。

 知らずにぶっ叩いた瞬間、あまりの衝撃にハンマーが手から飛んでいったよ。

 手を押さえて転がって悶絶してる俺を、シャムエル様が呆れた目で見てるし。

 何だよ。どう見ても不可抗力だろうが! 一生懸命やってるのに、もう拗ねるぞ!


「そっか。ケンは、ジェムモンスターと自然物の見分けが付いてないんだ」

 頷きながらそんな事を言われて、俺は思わず腹筋だけで起き上がって叫んだ。

「いや、普通そんなの分からないだろうが! 完全に、どう見てもどれも岩だろ?」

 しかし、そんな俺に構わず、シャムエル様はまた何かブツブツと呟きながら考えてる。


「でも、あんまり強く見せると日常生活に支障をきたすからなぁ……どの程度まで見せるのが良いんだ?」


 何その不穏な独り言……。


「よし、第一段階までなら大丈夫だろう」

 そう呟くと、満面の笑みで俺に向かって手招きをする。


 なんかもう、嫌な予感しかしないんですけど。


 恐る恐る近付いた俺の顔に、よじ登ってきたシャムエル様が小さな手を当てる。

「良いって言うまで眼を閉じていてね」

 そう言われて、大人しく眼を閉じる。


「第二の目、鑑識眼の第一段階を解放する。その眼を以って真実を見極めよ」


 神様っぽい厳かな声でそう言い、俺の両目を叩いた。

「はい、もう目を開けても良いよ。どう、見え具合は?」

 恐る恐る目を開く。しかし、見えてる風景はさっきと変わらないように思う。

「ええと、何が変わったんですか?」

 何度か目を瞬いてあちこち見てみる。すると、転がってる岩石の中に、色の違うのがかなりの数で混じって見えた。いや、普通の色の方がはるかに少ない。

「何だ?岩の色が違うぞ?」

 呟く俺に、シャムエル様は満足そうに頷いた。

「上手く解放したみたいだね。その、色の違って見えるのがジェムモンスターで、そのままの色のは普通の岩だよ。叩くと手が痛いだけだから気を付けてね」

「ええと、つまりアルマジロもどきを探せる目って事?」

 不審そうな俺の言葉に、シャムエル様は首を振った。

「求めているものが見える目って事だね。今はジェムモンスターを狩ってる最中だから、それが見える。色が変わってるのがジェムモンスターで変わらないのは、普通の岩だよ」

 納得した俺は、改めて岩を見てみる。

 うん、ジェムモンスターの方が濃い色で光って見えるよ。

「じゃあ、つまり色の違うこいつを叩けばいいんだな!」


 近くにいた、色の変わって見える岩を思いっきりハンマーで叩いてやった。


 すごい衝撃が手に返ってきて、岩が剥がれてアルマジロもどきが姿を現わす。

 それを見たファルコが大きな爪で掴んで空中へ連れ去る。上空から地面に落とせば、あっという間にジェムに早変わりだ。

 スライム達がジェム回収に走り回り、俺はヘトヘトになって腕が上がらなくなるまで、頑張ってブラウンハードロックをぶっ叩き続けた。


「もう勘弁してくれ……腕が……腕が痛いなんてもんじゃないぞ……」

 地面に転がった俺は、両手を投げ出して放心していた。

 柔らかかった俺の掌は、午後からの数時間の労働でかなり可哀想な事になった。

 つまり、タコが幾つも潰れて血塗れになっているのだ。

「うう、本気で痛いぞこれ……」

 自分の手を見て、本気で泣きたくなった。

「街で薬って売ってるかなあ」

 起き上がったものの、まだ立ち上がれず呆然と呟く俺を、膝に現れたシャムエル様がまた冷たい目で見ている。

「何だよ、痛いものは痛いんだよ。うう、問題は街へ帰るのに、まずマックスに乗れるかな。迂闊に乗ったら落ちそうだ」

 マックスの足でかなり走った記憶がある。ここって街からどれくらい離れてるんだろう。

 不安になった俺は、もう一度地面に転がった。

 またあちこちに、いつの間にか岩が現れているが、もう起き上がる元気は無い。

 うん、また次回の為に増えててください。


 まだジンジンとする手を見て、ため息を吐いた。

 ここで転がってても仕方がない。とにかく手を洗おう。

 立ち上がろうとして、俺は膝に座るシャムエル様を見た。

「起きるから退いてくれるか。とにかく手を洗って街へ戻ろう。店が開いてるうちに薬を探さないと、このままだと今夜はスプーンも持てないぞ」

 しかし、シャムエル様はまたしてもブツブツと呟きながら何やら考えている。

「ふむふむ……怪我の対策も必要だな。案外弱いんだな、人間って」


 だから、頼むからその不穏な独り言を、俺に聞こえるように言うのはやめてくれよ。


 しかし、この数日で分かった事がある。

 確かにシャムエル様は神様らしいが、どうやら俗世の事にかなり疎い、大雑把な神様らしい。

 俺に関してもどうやら、やってみて駄目ならその場で補正しよう! 的な感じをひしひしと感じるよ。

 チュートリアル期間が過ぎても付き添ってくれてるのは、そう言う意味だったんだね。


 何処かから、万能薬とかサッと出してくれたら異世界っぽくて良いんだけどな。

 そんなことを考えながら見つめていると、考えがまとまったのか、顔を上げたシャムエル様はニンマリと笑って俺を見た。

「じゃあ、ひ弱なケンが怪我をした時の為に、お薬を取りに行かないとね」

「ええ、もう既に怪我してるのに、今から取りに行くのか? サービスで出てくるかと期待したのに」

 残念そうに俺がそう言うと、鼻で笑われた。ふん、拗ねてやる……。


「ご主人、ゆっくり行きますから乗ってください」

 そう言ってくれたマックスにもたれて、まずは水筒の水で苦労して手を洗い、布を両手に巻き付けておく。即席の包帯みたいなもんだ。

 ジンジンと痛い事は痛いが、まあ泣く程じゃない。


 カバンを背負って、何とか苦労して伏せてくれたマックスの背中に上がる。

「頼むからゆっくり行ってくれよな。これ、マジで全然掴めないよ」

 握力が殆ど無くなってる。

 マックスの毛をいつものように掴もうとしても、全然力が入らないんだ。

 仕方がないから身体を伏せるようにして、全身でしがみ付く。若干みっともないが、落ちるよりはマシだろう。


 ゆっくりと歩き始めたマックスにしがみつきながら、俺は大きなため息を吐いた。

 自分では鍛えてると思ってたけど、所詮は室内でダンベルあげて、腹筋していたレベルだよ。実戦目的じゃない。

 まさか、本気で剣やハンマーをモンスター相手に振り回す日が来ようとはね。


 ヘトヘトに疲れた今の俺には、ゆっくりとした歩みによる優しい揺れとむくむくのマックスの毛は、はっきり言って揺りかご状態だった。

 いつの間にか、俺はマックスの背の上で、眠ってしまっていたのだった。

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