それぞれの紋章と街への帰還
「ところで、ケンさん。ちょっと時間をもらっても構わないかな」
がっつりスライム狩りをして、テイム希望者達はしっかりテイムを終え、そろそろ街へ戻ろうかと言っていたところで、何やら真顔になったヴォイスさんにそう言われた俺は、マックスの背の上から慌てて飛び降りた。
「ええ、どうしましたか?」
そう言いながらヴォイスさんの向かいに立つ。
すると、ヴォイスさんの後ろにアレクさんとザックさんまでがやってきて、それはそれは真剣な顔をして並んだのだ。
何事かと身構える俺に、三人が揃って胸元から取り出した紙を見せる。
「あ、もしかして紋章ですか?」
図形の様なものがチラリと見えて、身を乗り出す様にしてヴォイスさんの手元を覗き込む。
広げた紙に描かれたそれを見た俺は、思わず声を上げちゃったよ。
だって、ヴォイスさんの差し出すその紙には、シンプルな魚の形の中に肉球マークの入った紋章が描かれていたんだからさ。
「勝手に使わせてもらって申し訳ないんだが、その、ケンさんの紋章があまりに可愛くてな。どうだろうか?」
「あの、俺も……」
「俺もなんですが……」
恐る恐ると言った声でそう言った、ヴォイスさんの後ろから差し出されるアレクさんの手にある紙には、ホタテ貝っぽい縁取りの真ん中に肉球マークの入った紋章。
そして、同じく遠慮がちな声のザックさんの手にあるのは、明らかに鎧海老をシンプルに線で描いた形の中に、肉球マークが描かれた紋章だったのだ。
「勝手に、ケンさんの事は師匠だと思っている。師匠の紋章を引き継ぎたくてな」
「俺も師匠と呼ばせてください!」
「俺も! 俺も師匠と呼ばせてください!」
ヴォイスさんの言葉に続き、アレクさんとザックさんも紙を差し出しつつ大声でそう言ってくれた。
うん。またしても、俺の紋章を受け継いでくれる人が出来たよ。
「もちろん、全然構いませんよ。いや、それどころかとても嬉しいです」
笑顔の俺の言葉に、揃って安堵のため息を漏らす三人。
それを見て、まだテイマーなダイさん達までが口を揃えて、魔獣使いになれた暁には、俺達にもそのマークを使わせてください! なんて言ってくれたもんだから、もちろんです! って返事をしながらちょっと嬉し涙が出てしまい、慌てたのはナイショの話だ。
「じゃあ、無事に紋章も決まった事だし、街へ戻ったらそのまま神殿へ行って、三人一緒に紋章を授けていただこうじゃあないか」
「いいですね!」
「ぜひ行きましょう!」
笑ったヴォイスさんの言葉に、アレクさんとザックさんも笑顔で頷く。
って事でまだ明るい草原の中、それぞれの馬や騎獣に飛び乗った俺達は、街を目指して一斉に駆け出していったのだった。
「ところで、紋章を授けるのってどんな風なのかご存知ですか?」
ギルドマスターなら知っているかもしれないと思い、マックスを走らせながら近くにいたヴォイスさんにちょっと大声で聞いてみた。
「え? 登録するだけでしょう? 何かあるんですか?」
驚くヴォイスさんの返事にご存知ないのが確定して、もう俺は笑いそうになるのを必死で堪えていた。
横で聞いていたハスフェル達も同じく笑いを必死になって堪えている。
「確かに、どうやって紋章を授けるのかなんて考えた事なかったな」
「確かに。神殿にこれを渡して登録するだけ、じゃないのか?」
さっきの紋章を描いた紙の入っている小物入れを叩くアレクさんの言葉に、ザックさんも首を傾げている。
「じゃあ、何も言いませんので楽しみにしていてください。きっと忘れられない体験になりますよ」
「ええ、そんなこと言われたら逆に気になってきたぞ」
「だよな。何があるって言うんだ?」
「ええ、気になるぞ!」
笑った俺の言葉に、魔獣使い三人は揃って首を傾げて顔を見合わせていたのだった。
さて、この三人の紋章付与はどうなるんだろうね?
ってか、ここは三人同時に授けていただきたいんだけど、さすがにそれは無理かな?
はるか先に街への街道が見えてきて歓声を上げる三人を見ながら、密かにそんな事を考えていた俺だったよ。
2026年3月12日、アース・スターコミックス様より発売となりました。
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」第六巻です。
いよいよ、早駆け祭りが始まります!
そして、お祭りの後のあれやこれやからクーヘンのお店が開店まで。
怒涛の展開な第六巻を、どうぞよろしくお願いします!
2026年2月13日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」十三巻の表紙です。
もちろん今回も、れんた様が最高に可愛いくて素敵な表紙と挿絵を描いてくださいました!
冬のバイゼンでの冬祭り、スライムトランポリンでまたしても大騒ぎです!
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m




