魚料理は大好評!
「ええと、ああ、いい感じに砂を吐いたな」
調理の邪魔にならないように部屋の端にまとめて並べておいた海水に浸してあった貝の入ったお椀を見た俺は、思わず笑顔になってそう呟いた。
シジミレベルの小さな貝は、もうすっかり大丈夫っぽいが、大きなハマグリなんかは今まさにぱふぱふと管を伸ばして砂を吐いているのもいるから、こちらはもう少し置いておいた方がいいかもしれない。
「生きているものは収納出来ないから、これは時間経過をスライム達に任せるわけにはいかないんだよな」
苦笑いした俺は、まずはシジミの入ったお椀を取って水場へ持っていき、流れる水で何度も綺麗に洗った。
これは、飲んだ翌朝に食べると良いっていうシジミ汁にするよ。もちろん、普段でもいただくけどね。
それから、俺の知るアサリよりも若干大きめの貝は、大鍋に入れて酒蒸しにしておく。
鼻歌まじりに貝を料理していると、頭の中に不意にトークルームが広がるのが分かった。
『おおい、腹が減ったよ〜〜』
『何か食わせてくれ〜〜』
『お願いしま〜〜す!』
聞こえた腹減り小僧達の心からの叫びに、思わず吹き出す。
「あはは、腹が減って目が覚めたか。もちろん来てくれて構わないぞ〜〜新作の握り寿司や刺身もあるし、魚の煮付けもあるよ。ちょっと待ってくれれば、魚のフライも作るぞ」
うっかり声に出して答えてしまったんだけど、何故か通じたらしく喜びの歓声と共に今から行きますって叫びが聞こえてトークルームが閉じられた。
「じゃあ、腹減り小僧達の為に、揚げ物も作るか。おおい、フライをするから手伝いよろしくな」
俺の呼びかけに、手の空いたスライム達が嬉々として集まってくる。
「ご主人、何をフライにするの?」
作業台に上がってきたアクアの質問に、俺はさっき下処理をしてもらっていた尻尾のついたアジの開きを並べたバットを取り出した。
それから俺が食べたかったので、サクラに頼んでマグロの赤身の部分も一塊取り出してもらう。
「分かった。じゃあ準備するね〜〜!」
張り切ったアクアの声に、スライム達があっという間に準備してくれる。
並べたトレーにアジの開きと一口サイズに切ったマグロの赤身を並べてくれたので、いつも使っている塩胡椒に臭み消しのハーブが入った配合調味料をせっせとふりかけていく。
もちろん、振りかけたら即座にひっくり返してくれるので、俺は生の具材に一切触っていない。
そして、下味をつけ終えたらそのまま衣をつけるチームに渡され、あっという間に下準備が終わる。
ここで、ハスフェル達が部屋にやってきた。
「ああ、ちょっとだけ待ってくれるか」
「おう、じゃあまずは水分補給だな」
大きなフライパンに入れた油を火にかけたところだったので慌ててそう言うと、笑ったハスフェルがワインの瓶を何本も取り出し始めた。
「あはは、空きっ腹に飲むと悪酔いするぞ。サクラ、あいつらにさっき作ったお寿司やしじみ汁とアサリの酒蒸し、それから絶対に足りないだろうから、いつもの肉中心のおかずを適当に出してやってくれるか」
「はあい、じゃあ出しま〜〜す!」
サクラにそうお願いすると、得意そうにそう言ってポーンとジャンプしてハスフェル達のいる部屋に跳ね飛んでいった。
「サクラちゃん、忙しいのにすまないな。おお、これは美味しそうだ!」
嬉々としてサクラにお礼を言う笑ったハスフェルの声が聞こえて、思わず吹き出した俺だったよ。
「よし、とりあえずこれだけあれば良いだろう。お待たせ〜〜アジフライとマグロフライが出来たぞ」
とりあえず出来上がったフライを全部まとめて収納した俺は、そう言いながら部屋に戻る。
「先にいただいているぞ」
「おう、どうぞしっかり食ってくれ。これが新作フライだよ。一応、骨は大丈夫だと思うけど、残っていたらごめんよ」
そう言いながら、山盛りのアジフライとマグロフライのお皿を取り出す。その横には、サクラが出してくれたタルタルソースも一緒に並べておく。
「やっぱりここは白ご飯だよな」
俺はさっき作った魚の煮付けが食いたかったので、ご飯としじみ汁と一緒に一通り出してもらう。
「ん、それは何だ?」
興味津々のギイの質問に、イワシの梅煮を小皿に取り分けていた俺はちょっとドヤ顔になった。
「これは、俺が好きな料理でイワシの梅煮。言葉通りに、梅と千切りの生姜を入れて煮付けてあるんだ。梅と生姜で魚の臭みがなくなって美味しいんだ。それでこっちが、カレイの煮付け。まあ、どちらも骨を取りながら食べなきゃいけないからな。面倒だろうから無理に食べろとは言わないよ。これは俺が食べたくて作った料理だからさ」
「いやいや、ケンが好きな料理なんて、美味しい予感しかしないだろうが。もちろんいただくよ。ああ、成る程。こっちは小魚を丸ごと料理してあるから骨がそのままなんだな。で、こっちの平たい魚も真ん中に太い背骨がそのまま残っているのか。だがこれくらいなら避けて食べられるな。貰ってもいいか?」
「もちろん、まあ無理のない範囲で食ってくれよな」
笑ってそう言い、嬉々として小皿にカレイの煮付けやイワシの梅煮を取る彼らを見ていた。
もちろん俺も、自分の分と一緒にまだ戻って来ていないシャムエル様の分も、まとめてお皿に取り分けていったよ。
新作の和食系お魚の煮物色々は、意外な事にハスフェル達にも大好評だった。
だけど、彼ら的にはこれを主菜にするにはボリュームが全然足りなかったらしく、和定食バージョンで白ごはんとシジミ汁に、イワシの梅煮とカレイの煮付け、それから小さめのアジフライとマグロフライをちょっとだけ取って大満足だった俺と違い、彼らは魚の煮物を一通り食べた後に、いつものように揚げ物やお肉をがっつりと取っていたよ。
うん、相変わらずこいつらの食べる量がバグっている。
ちなみに、俺のお皿の横には彼らが飲んでいるワインではなく、冷えた白ビールが置かれているのは気のせいだよ。
「ああ〜〜〜! 人が一生懸命お仕事しているのに、自分達だけ食べて飲むなんてずるい!」
その時、ズサ〜〜って感じに滑り込んできたシャムエル様が、まだ食べている途中だった俺のお皿を見てそう叫びながらバンバンとテーブルを叩いた。
「はいはい、ちゃんとシャムエル様の分も用意してあるよ。ほら、これをどうぞ」
笑ってそう言った俺が、さっき用意しておいたシャムエル様用のお皿を取り出して目の前に置いてやる。
「で、ビールはどれに入れるんだ?」
まだ半分くらい残っていた白ビールの瓶を見せながらそう言うと、即座にいつもの小さなグラスが取り出されたので入れてやる。
「ありがとう、さすがは我が心の友だね。ちゃんと私の分を準備してくれているなんて……ああ! お寿司の新作もあるじゃない! それもください!」
俺は取っていなかったアジの握り寿司と刺身を見て、慌てたようにシャムエル様がそう叫んで小皿を取り出す。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
苦笑いして小皿を受け取った俺は、シャムエル様用にアジの握りとお刺身も取り分けてやったのだった。




