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おはようございます

 ぺしぺしぺしぺし……。

「おう、今日は起きるぞ」

 なんとなく目を覚ましていた俺がそう言って目を開いたら、俺の額を叩いていたシャムエル様と、ごく近くで目が合ってお互いに飛び上がった。

「うっわあ、ビックリした。どうしたの? そんなに早く起きるなんて。何処か具合でも悪い?」

「あはは、ひでえ言われ様だな。たまには俺だって早起きくらいするよ」

「へえ、珍しい事もあるもんだね」

 笑ったシャムエル様を突っついてやる。

「なんだ、今日は私の出番は無しなの?」

 タロンがそう言って俺の顔に頭を擦り付けて来た。

「おはよう。それじゃあ起きるとするか」

 ニニの腹から起き出して、大きく伸びをして立ち上がる。

 水場へ行って思い切り顔を洗う。びしょ濡れになった顔を振って振り返ると、足元にサクラが来ていた。

「綺麗にするね。ご主人」

 ニュルンと伸びたサクラが、一瞬だけ俺を包む。元に戻った時にはもう、身体も服もサラサラだ。

「有難うな」

 ぽんぽんとサクラを撫でて水の中に放り込んでやる。跳ねて飛んできたアクアも続いて抱き止め、撫でてから同じく水に放り込んだ。

 バシャバシャと足元で水浴びをするファルコとプティラに、水桶から大きく手で水を掬って掛けてやる。喜んで羽ばたくもんだから、置いてあった手桶でさらに掛けてやったらせっかく乾いた服がまたしてもびしょ濡れになったよ。

 水から上がって来たサクラに、もう一度綺麗にしてもらってから部屋に戻った。


『おはよう。起きてるか?』

 念話でハスフェルの声が聞こえる。

『おう、おはよう。もう起きてるよ。ちょっと早いけど飯にするか?』

『ああ、じゃあ行かせてもらうよ』

 気配が途切れて声が聞こえなくなる。

「さてと、朝は何を食べようかな?」

 ちょっと考えて、作り置きのサンドイッチを並べておいた。アイスコーヒーとミルクを並べたところでノックの音がした。

「アクア、扉開けてやって」

「はあい」

 扉に近い所にいたアクアに頼んで、ドアの鍵を開けてもらう。

「おはよう。良い天気みたいだな」

「おはようございます。絶好の祭り日和ですね」

 身支度を整えた三人が入って来て、広かった部屋が一気にむさ苦しくなる。

 俺は、タロンに鶏肉を出してやりながら振り返った。

「おはよう。せっかくの祭りなんだから、晴れてくれないとな」

 続いてベリー達に果物を箱ごと出してやる。

「サンドイッチ、出してあるから好きに食ってくれよな」

 嬉しそうに席に着く彼らを見て、俺も立ち上がって席に着いた。



 食後に暖かいコーヒーを淹れてのんびり飲んでいたら、ノックの音がしてエルさんが顔を出した。

「おはようございます」

 振り返った俺とクーヘンの声が揃う。

「はい、おはようございます。もう少ししたら本部へ行くから、良かったら一緒に行きましょう。今ならまだ人出もそれ程じゃないしね」

「了解です。あ、飲みますか? 冷たいのもありますよ」

「冷たいの?」

 不思議そうに俺を見るので、取り出したカップに氷を入れて砂糖入りのアイスコーヒーを入れて手渡した。

「ミルクがいるなら、これをどうぞ」

 机に出してあったミルクの瓶を見て、渡したカップを見る。

「これは冷たいコーヒーなのかい?」

 俺達の間では定番になっているが、そういえば最初に俺がアイスコーヒーを作った時、ハスフェル達が驚いていたのを思い出した。

「ええ、それは少し甘くしてあります。ブラックで飲むならこっちに有りますよ」

「へえ、面白い事をするんだね」

 口をつけたエルさんは目を輝かせた。

「これは美味しい。どうやって作っているんだい?」

「今勧めたのは、この前ここを出る前に商人ギルドに頼んで買った深煎りのコーヒー豆で淹れたやつですよ。普通のコーヒー用の豆だと、冷やすと香りが飛んで薄くなるし、味も水臭くなるんですよね。だから、アイスコーヒーを淹れる時は深煎りの豆で濃いめに淹れるんです。それで、氷や水で一気に冷やせば出来上がりです」

「へえ……これ、君が考えたのかい?」

「俺っていうか、俺の故郷では普通に暑い時期には飲んでましたよ。まあ、氷を作る奴がいないと出来ませんが、俺は自分で氷が作れるんで」

「これは……屋台で出せば絶対に売れるぞ……」

 半分くらいまで飲んで、真剣な顔でぶつぶつ言ってる。

「確かに、これは暑い今の時期には売れそうですね」

 クーヘンまでがそんな事を言い出し、いきなりエルさんと並んで何やら相談し始めた。

「ケン、これ売っても良いですか?」

 いきなりそう言われて、片付けていた俺は驚いて顔を上げた。

「へ? それって俺が許可するようなものか?」

「だって、これは貴方が始めた事ですし……」

「いやだから俺の故郷では、皆普通に飲んでたって。だから、別に構わないよ。確かに、暑い時期だし売れるかもな」

「ありがとう! 是非やらせてもらうよ!」

 目を輝かせたエルさんにそう言われて、俺はもう笑うしかなかった。



 綺麗に片付けて、皆で揃ってエルさんと一緒に祭りの本部へ向かった。

 人が少ないってエルさんは言ったけど、それは絶対嘘だ。

 当然のように大歓声に迎えられ、またしても拍手の中を本部まで行く事になった。

 街を出て旧市街へと続く幅の広い一直線の道路の両端は、聞いていたように屋台で埋め尽くされていた。

 香ばしい匂いがあちこちから上がり、屋台の飯が大好きな俺は密かに悔し涙を堪えた。

 屋台巡り、したかったなあ……。


 旧市街に突き当たった、外環の外側部分に広い公園があったんだけど、そこが祭りの本部になっていた。本部の奥には聞いていたように、幾つものテントが並んでいる。

「君達のテントは、あの大きい奴だよ。もう入ってもらえるから、従魔達はそちらへどうぞ。あ、テントの奥に水場があるから、従魔達に水を飲ませるならそこの水をどうぞ」

 お礼を言って奥に行ってみると、確かに俺がいつも使っているみたいな六本柱のガレージタイプのテントが、整然といくつも張られている。

「これだな、確かに連結してくれてある」

 ハスフェルが一際大きなテントの垂れ幕をめくって中に入った。

 俺達も続いて中に入る。

 並んだ隣同士の重なった部分の垂れ幕を、二枚一緒に巻き上げて止めてあるのだ。確かに、こうすれば隣との壁が無くなり広い空間が確保出来る。

 広い空間に喜んだ従魔達が、めいめい好きに転がって寛ぎ始める。

 真ん中部分に大きな机と椅子が全部で八脚置かれている。よく見ると、机も四台並べて置かれているので、多分、テント一つにつき机と椅子が二脚セットになっているんだろう。

「それで、紹介の後って俺たち何をすれば良いんだ?」

「さてなあ。どうするかな?」

 他人事みたいな言い方のハスフェル達は、この状況を楽しんでるみたいだ。

「客席とかが有るのなら、他のレースも見てみたいけどな。子供のレースとか面白そうじゃん」

「確かに、どうだろうな、後で聞いてみるよ」



「お待たせ。じゃあ行こうか」

 閉じた垂れ幕の向こうから、エルさんの声が聞こえて、俺達は立ち上がった。

「あ、従魔達は?」

「ここには見張りを残すから、従魔達は置いて行ってくれて大丈夫だよ。レースに出る騎獣だけ連れて来てくれるかな」

 残していくのがちょっと心配だったが、不意に耳元で声が聞こえた。

『ここには私とフランマが残りますからご安心を』

『ああ、ついて来てたんだ。じゃあすまないけど、皆の事よろしく頼むよ』

『いってらっしゃい』

 フランマの声も聞こえて、振り返った俺は従魔達に手を振って、皆の後に続いてテントを出た。


 俺達の姿が見えた途端に沸き起こった、今までとは桁が違うものすごい大歓声にビビったのは……内緒な。

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