おかえり〜〜〜!
「いやあ、どれも甲乙つけ難いなあ」
「確かに、どれも美味しすぎて選べないよな。ってか俺はこの美味しさに感動しているよ」
「塩辛は知っていたけれど、このごま油を入れるってのは初めて食った。いやあ、これは美味い。帰ったら俺もやろう」
アレクさん達が、イカの塩辛を使った料理各種を前に感想を言いながら、水みたいにガバガバと吟醸酒を飲んでいる。
その隣では、ヴォイスさんが満面の笑みでもう何本目か数える気もない新しい地ビールの瓶を開けている。もちろん、彼の前にも色々と新作料理を取り分けた小皿が並んでいる。
そして飲みながら思いついて準備した鎧海老の脚のしゃぶしゃぶ鍋も、食べた全員から大好評をいただいたよ。
お出汁は、一番出汁にお酒とみりんと醤油を入れただけのシンプルイズベストな和風鍋だ。
ちなみにこれ、しゃぶしゃぶして火を通して赤くなった鎧海老の脚の身が、本当に綺麗な花みたいにふわりと開いて見た目がめっちゃ華やかになったんだよ。それを見たヴォイスさんが大感激していたから、これは確実に今後流行るだろう。
元々鎧海老の脚は殻が硬い為に割るのが大変で、ほぼ出汁を取る用にしか使われていなかったらしいからね。
ついでに言うと、一通りの鎧海老の脚でのしゃぶしゃぶを終えたそのお鍋は、今は一口サイズに切った鎧海老の切り身が白菜とネギと一緒にぐつぐつと茹でられている真っ最中で、俺は冷えた白ビールを手に、切り身に火が通るのを待っているところだ。
「そういえば、市場でカニを全然見なかったな。よし、今度市場行ったら探してみよう」
真っ白に茹で上がった鎧海老の切り身を小皿に取りながら不意に思いついてそう呟くと、俺の声が聞こえたらしい全員が同時に俺を見た。
「ケンさん。残念だがカニ漁は時期がもう終わっているよ。あれは秋から冬だから、今は市場には出ていないよ。脚の身を干したのや塩漬け、あとは茹でた身を油で漬けた瓶詰めものなら魚屋でも売っている店が何軒かあるぞ。生のは収納袋に保存していたのを売っている店は何軒かあるから、少々値段は張るが欲しいなら紹介するぞ」
「是非お願いします!」
予算は潤沢にあるんだから、これは是非とも確保しておきたい。
ついでに言うなら、今年の冬はバイゼンへ行く前にもう一回ここに来て、がっつりカニも手にいれておこうと心に誓った俺だったよ。
だって以前のサラリーマン時代には、冬のボーナスが出ると一年頑張った自分へのご褒美に、通販で産地直送のカニを買うくらいにはカニが好きなんだよ。
こっちの世界へ来てからは、小さな川海老やサワガニみたいなのはあったけど、いわゆるズワイガニやタラバガニ的なものはなかったから、かなり残念だったんだよ。
「あの、まだ当分はここにお世話になるつもりですが、ここを旅立つ際に高性能の時間遅延の収納袋を資金と一緒に預けておきますので、冬場に市場に出るカニを買い込んでそこに入れておいてもらっても良いですか! 春になったら引き取りにきます! もちろん手数料は払いますので、お願いします!」
ギルドマスターのヴォイスさんの腕を掴んでそうお願いすると、ヴォイスさんだけでなく全員が揃って吹き出した。
「おう、もちろん喜んでそれくらいしてやるよ。目利きはまかせろ! それなら旅立つ前にケンさんの名義で、ギルドで俺宛の指名依頼を出してくれてればいいぞ」
ドヤ顔でそう言われて、思わず両手を合わせて拝んだ俺だったよ。
「おいおい、人が疲れて帰って来たってのに、なんだよこの有様は」
その時、呆れた様なハスフェルの声が聞こえて、俺達は揃って驚いて顔を上げた。
「おう、おかえり〜〜〜新作料理が色々と出来ているぞ〜〜」
開いた扉の前では、帰ってきたハスフェル達が揃って呆れた様にこっちを見ていた。
「ただいまご主人!」
「ただいま帰りました〜〜〜!」
当然、その直後に飛び込んで来た従魔達に俺は座っていた椅子ごと押し倒される。
「ご主人危ないよ〜〜」
のんびりしたアクアの声の直後、俺は椅子とマックス達ごと一瞬で巨大化したスライムベッドに受け止められた。
当然、まだ食べていなかった鎧海老の切り身が入った小皿と冷えた白ビールが入ったグラスも確保されているので、安心だ。
「あはは、お前らもおかえり。お疲れ様だったな」
笑ってマックスの顔を両手でにぎにぎしてやってから、飛びついてきたマニもおにぎりにしてやる。
「新作料理が色々と出来上がったから、皆で試食をしていたところ。あ、紹介しておくよ。こちらが鎧海老漁師のダイさんとナフさんです!」
恐らくここは初対面だろうと思ってそう言ったが、顔を上げたダイさんとナフさんは揃って驚きに目を見開いた。
「ええ、ちょと待て。ケンさんってハスフェルやギイとも知り合いだったのか?」
「ああ、そちらの方は初めてですね。ナフです。よろしくお願いします」
笑顔で二人と手を叩き合ってから、オンハルトの爺さんににこやかに挨拶するナフさんとダイさんを見て俺の方が驚きに目を見開いたよ。
「ええ、お二人ってハスフェル達と知り合いだったんだ」
「おう、以前鎧海老漁師の数が足りなくて、急遽漁に駆り出された事が俺もギイも何度かあってな。その時に、彼らには世話になった事があるんだ」
驚く俺に、笑ったハスフェルがそう教えてくれる。
確かにアレクさんとは知り合いだったみたいだから、まあ、知り合いでも別におかしくはないんだけど……。
そう考えながらなんとかスライムベッドから起き上がった俺は、超マッチョで大柄な六人が居並ぶ目の前の光景を見て、ちょっと気が遠くなった俺だったよ。
俺は当然としても、オンハルトの爺さんが小柄に見えるって……こいつら揃ってどれだけデカいんだよ。
「お疲れさん。じゃあがっつり出すから好きに食ってくれよな」
苦笑いしつつサクラの入った鞄を手にそう言った俺は、新作料理をはじめ、腹減り小僧達の為に作り置きの料理も山盛りに取り出していったのだった。
新作料理はどれも大好評で、当然そのまま宴会になったのは言うまでもない。




