今夜の予定と昼食準備!
「美味しかったで〜〜す!」
「ごちそうさまでした〜〜〜!」
残っていた鎧海老の殻もサクッと片付けてくれたスライム達が、ぴょんぴょんと跳ね飛びながらご機嫌でそう言っている。
「おう、ご苦労さん。ええと、午後からって皆さんの予定はどうなっていますか?」
また水槽に跳ね飛んでいって水遊びを再開し始めたスライム達を見て和んでいた俺は、そう言ってアレクさん達を見た。
「ん? 特に無いぞ」
「思ったよりも早く終わったから、家へ戻って一杯やろうかと思っていたんだが?」
「まだ、何かやるのか? それなら手伝うぞ」
当たり前のようにアレクさん達がそう言ってくれる。
「何かするなら、ここを使ってくれて構わんぞ」
ヴォイスさんまでが、笑いながらこれまたそう言ってくれる。
「いえ、午後から俺は宿泊所へ戻って料理をするつもりなんですが、よければ今夜の夕食をご一緒したいなあと思いまして。もちろん、ギルドマスターもご一緒にどうぞ。この、鎧海老の身を使った新作料理も作ってみるつもりですので、食べてみて意見を聞かせてください」
にんまりと笑った俺の言葉に、アレクさん達とヴォイスさんの歓声が重なる。
「い、良いのか?」
「もちろんです。ああ、その前にギルドへ戻って、さっきの鎧海老のお支払いの手続きをしないといけませんね」
俺の言葉にヴォイスさんも笑顔で大きく頷く。
「よし、それじゃあここは一旦撤収してギルドへ戻ろう。それと、商人ギルドのギルドマスターのホークシーからの伝言だ。明日以降のいつでも構わないので、早いうちにケンさんの都合の良い時に料理講習会をして欲しいそうだ。なんでも、噂を聞きつけた参加希望者が山ほどいて、商人ギルドでは大変な騒ぎになっているらしいぞ。さすがは商人。皆、耳が早い」
ガハハと笑うヴォイスさんの言葉に、俺は堪えきれずに吹き出す。
でもまあ、ここの人達がお寿司や生のお魚を気に入ってくれたのなら嬉しいよ。
「ああ、例のお寿司の作り方ですね。もちろん喜んでやりますよ。じゃあ、鎧海老の調理方法も考えておかないと。それなら、尚更試食役をお願いします。是非とも、専門家の忌憚ないご意見を聞かせてください」
俺の言葉に、アレクさん達が揃って笑顔になる。
「もちろん、喜んで押しかけさせていただくよ」
「よし、それじゃあここは一旦撤収だな」
ヴォイスさんの言葉に、俺は水槽を振り返った。
「おおい、ここはもう撤収するから水遊びは終わりだぞ〜〜」
「はあい、では戻りま〜〜す!」
ご機嫌なアクア達の返事が聞こえ、次々に水槽からスライム達が跳ね飛んで出てくる。
笑った俺は、置いてあった鞄の蓋を開けて差し出してやる。
綺麗な弧を描いて次々にスライム達が鞄にインするのを、アレクさん達は目を輝かせて見つめていたのだった。
「それじゃあ、また後で」
「おう、日が暮れた頃に、宿泊所へ押し掛けさせてもらうよ」
身支度を整えてから建物を出たところで一旦アレクさん達と別れ、俺はヴォイスさんと一緒に冒険者ギルドへ戻った。
ちなみにアレクさん達は、さっき使った鎧海老専用の解体用道具を、漁師ギルドが管理する専用の保管庫へ運ぶ仕事が残っているんだって。ご苦労様です!
漁師ギルドは、商人ギルドに所属するギルドらしい。
一口に商人ギルドと言っているけれど、要するにそういったそれぞれの仕事専門のギルドが集まって商人ギルドになっているわけだ。
そういえば川沿いの街では独立している船舶ギルドも、バイゼンでは商人ギルドの中にあるって聞いた覚えがあるな。
「結局、スライム達が活躍してくれたおかげで、鎧海老の解体に必要な道具を買わなくて済んだな」
冒険者ギルドへ戻る道すがらそんな事を考えていると、ヴォイスさんが笑いながらそう言って俺を見る。
「確かにそうですね。でも、あのデカい出刃包丁は他にも使い道がありそうだからちょっと欲しいですね。それにあの鎖帷子の手袋は、普通に装備品としても使えそうですよね。指の怪我とかから守ってくれそうです」
そう言いながら両手を開いて見せると、ヴォイスさんは笑いながら首を振った。
「もちろん、購入するなら仕入れ先を紹介するぞ。あの手袋についてはまあ……」
何か含んだその様子に、不思議に思って首を傾げる。
予算はあまりあるくらいにあるんだから、出来ればあの手袋も買いたいんだけどな。
そう考えていると、苦笑いしたヴォイスさんがもう一度首を振った。
「まあ、あれだけのジェムを持っているケンさんなら予算を気にせず何でも作れるだろうが、普通は、手袋にそんな大金はかけられんよ。それに、いくら薄く作ってもやはりあれは金属だからな。剣を握った時に邪魔になる。咄嗟の際に致命的な事態を招きかねんから、鎖帷子の手袋はあまりお勧めはせんよ」
最後は真顔になったヴォイスさんにそう言われて、驚きつつ腰に装備したヘラクレスオオカブトの剣を見る。
そして、抜きはしないが右手で柄を握ってみる。
「成る程。革の手袋と違って薄くても金属だから、握った時にどうしても違和感が出るのか」
先ほどの手袋の感触を思い出しつつ納得した。
確かに柄を握った時のこう……ぎゅっと吸い付くような、手と一体になる感じが、金属を経ると絶対に分からなくなるだろう。下手をすれば、咄嗟の動きの際に握り損なう可能性だってある。
戦いの最中にそんな事になったら、もう結果は見えているよな。
どれだけ凄い武器でも、ちゃんと握って構えられなければ何の意味もない。
苦笑いした俺は、剣から手を離して大きく頷いたのだった。
冒険者ギルドに到着した後は、ヴォイスさんが何やら明細を取り出しながらスタッフさんに指示をしてくれて、しばらく待った後に、俺の口座からアレクさん達三人の口座にそれぞれ支払うように手続きを取ってくれた。
手続きが終わったところでヴォイスさんと別れて、俺は宿泊所に戻った。
「さあてっと、まずは昼飯だけど、何を食べようかなあ……」
そう呟きながらキッチンへ向かう。
「よし、海老天うどんにしよう!」
ちょっと体が冷えている気がしたので、ここは熱々のうどんといこうじゃあないか。
にんまり笑った俺は、いそいそと雑魚海老を取り出し、それからさっき引き取ってきたばかりの、鎧海老の脚の部分を取り出した。
「じゃあ、まずはこれを天ぷらにして、うどんに入れてみるぞ」
「ご主人、天ぷら、ですか?」
わらわらと集まってきたスライム達が、不思議そうに俺の手元を見ている。
「ああ、天ぷらってそういえばあんまりした事なかったな。天ぷらは、こんな風にして小麦粉を玉子と冷水で溶いて、具材に絡めてから油で揚げるんだ。アクア達には、下拵えくらいは手伝ってもらえるかな」
火を使う部分は、スライム達には厳禁なので、天ぷらの場合は具材の仕込みくらいしか手伝ってもらえるところがない。
「分かった〜〜! じゃあ、これの殻を取ればいいんだね!」
自分用に少しだけ揚げるつもりだったので、雑魚海老も鎧海老の脚も数本ずつしか出していない。
ビヨンと伸びたアクアが雑魚海老を、隣にいたサクラが鎧海老の脚をそれぞれまるっと飲み込み、すぐに綺麗に殻を外してくれた。
「ああ、ちょっと待った。雑魚海老の尻尾の部分は残しておいてくれるか」
尻尾の部分まで全部綺麗に剥がされてしまった雑魚海老を見て苦笑いした俺は、それは一旦別にしておいてもう一度殻付きの雑魚海老を数匹取り出してアクアに渡す。
「ああ、ごめんなさい。エビフライと同じ処理の仕方でよかったんだね」
ちょっとだけペチャリとなったアクアが、すぐに新しい雑魚海老を飲み込んで尻尾だけ残して処理してくれる。
「ありがとうな。じゃあ揚げていくか」
笑ってアクアをしっかりとおにぎりにして形を整えてやってから、俺は溶いた小麦粉液に雑魚海老を絡めてから、ゆっくりと加熱した油の中へ沈めたのだった。




