海水の設定?
「成る程。スライムは水遊びが好きなんだな。覚えておこう」
普段遊んでいる宿泊所よりも大きな水槽と水の流れに、大はしゃぎして遊んでいるスライム達を見て、ヴォイスさんが何故かうんうんと頷いている。
「ちなみに、ちょっと質問なんだが、海にスライム達を連れて行っても大丈夫だよな?」
その時、遊ぶスライム達を見ていたアレクさんが、振り返って真顔で俺に質問してきた。
「ええと、すみません。それは俺も知らないですね。なあ、ちょっと聞いて良いかな」
一瞬、大丈夫だと答えようとしたが、この世界に来てからまだ一度も海水に触っていない俺は、咄嗟にそう言ってから水遊びしているスライム達に話しかけた。
「はあい、どうしたの? ご主人」
ちょうど水槽から飛び跳ねて出てきたアクアが、そのままもう一回ポーンと飛び跳ねて俺のところへ来てくれたので両手で受け止めてやる。
「おう、遊んでいるところをごめんよ。ちょっと質問なんだけど、お前らって海水でも平気か?」
「海水って?」
ビヨンと伸びたアクアの質問に、無言になる俺。まさかの海水を知らない事態発生。
でも、海産物を普通に処理しているんだから、火が駄目なように、塩分も駄目って事はないよな?
あれ? ちょっと待てよ。そもそも海水が塩水ってのは向こうの世界の常識だぞ。まさかとは思うけど、こっちの世界の海も、海水って塩水なんだよな?
不意に、根本的な部分に気が付きちょっと慌てる。
『なあ、シャムエル様。今どちらですか〜〜?』
自分の肩にシャムエル様がいないのを確認してから、慌てて念話で呼びかける。
『はあい、どうしたの?』
すぐに答えが返ってきて、密かに安堵しつつ半ば無意識にアクアを両手でおにぎりにする。
『ちょっと質問なんだけど、この世界でも海水って塩水だよな?』
『海の水? そうだね。確かに塩水ではあるけど、ケンの元いた世界に比べると塩の濃度はそれほど濃くもないかな。でも、海水から塩は取れるよ』
『あ、そうなんだ。でも塩水には違いないんだな。了解。ええと、ちなみに今どちらに?』
新作料理が食べられる機会をシャムエル様が逃すとは思えなくてそう尋ねると、何故か大きなため息を吐かれた。
『ハスフェル達が言っていたでしょう? 地脈の吹き出し口の回復具合が遅いって。詳しく調べてみたら、ちょっと色々と不具合が出ているみたいでね。それでハスフェル達の様子を見ながら、色々と直しているの! めっちゃ忙しいんだからね!』
地脈の吹き出しそのものは自然現象なので手出しは出来ないと言っていたけど、何か別のやり方で手出し……というか、神様の立場で修正的な事をしてくれていると思われる。
激おこっぽくそう言われて、慌てて謝る。
『お忙しいところを申し訳ありませんでした! ええと、鎧海老の解体が無事に終わったので、俺は午後からは料理をするから、シャムエル様の手が空いたらいつでも試食に来てくれて良いからな』
『わあい、じゃあ一段落したら戻りま〜〜す!』
嬉々とした声でそう言われて、咄嗟に吹き出しそうになるのを腹筋を総動員して必死で堪えた。
『シャムエルだけ先に戻るなんてずるいぞ!』
『そうだそうだ!』
『俺達だって、もうへとへとなんだからな!』
『『『腹減ったぞ!』』』
話が終わったので念話を切ろうと思った瞬間、ハスフェルとギイとオンハルトの爺さんの叫ぶような抗議の声が届き、今度は堪えきれずに吹き出した俺は、咄嗟に咳き込んで誤魔化したよ。
『頑張ってください! とりあえず鎧海老の身が大量に手に入ったぞ、それを使って色々作るから、出来上がりをお楽しみに! って事で、それを励みに頑張ってください!』
とりあえず、力一杯応援しておく。
『わあい、楽しみだなあ』
完全に棒読みなハスフェルの声が聞こえた後に、三人の笑う声が聞こえてからトークルームが閉じられた。
ここで改めて、まだ捕まえたままだったアクアを見る。
「ええと、海水って、塩分、つまり塩が溶け込んでいて舐めると塩辛いんだよ。塩分は、お前達は大丈夫なのか?」
そこまで聞いたところで、また頭の中にトークルームが開くのがわかった。
『それなら大丈夫だよ。スライム達の体は完全に独立しているから、体が水に浸かっていても、その水に含まれる例えば塩や砂糖、油なんかには体についても中には入らないし特に何か反応したりもしないよ。実際に海岸沿いの土地に住むスライムの中には、海に潜ってお魚を獲って食べる子もいるよ。まあ、昔の話だけどね』
笑ったシャムエル様の言葉に驚く。
『へえ、そりゃあ凄いな。自力で漁まで出来ちゃうんだ。じゃあ、時間が出来たらスライム達を海へ連れて行ってやろう』
せっかく海沿いの街まで来たんだ。スライム達にも海を見せてあげないとな。
「ええと、一応この子に聞いてみたんですが、別に海水も大丈夫みたいですね。それどころか、海に潜って魚を捕まえたりも出来るかもしれませんよ」
アクアを見せながらヴォイスさんにそう言っておく。
「おお、それは楽しみだ。冗談抜きでテイマーの求人を出すべきだな。これは」
「しばらくこの街にいるつもりですから、料理講習会以外に、テイマー希望者があれば、テイムについての説明くらいはしますよ」
「おお、それは是非お願いしたい。なあ、俺でも出来るようになるかな?」
キラッキラに目を輝かせたヴォイスさんにそう聞かれて、思わず吹き出した俺だったよ。
「まあ、せっかくですからやってみてください。魔獣使いになれる程の人は少ないでしょうが、テイマーになる素質を持つ人は、案外多いみたいですからね」
普段なら適性判断をしてくれるシャムエル様が今日はいないので、迂闊な事は言えない。
なので、主語を誤魔化してそう答えておく。
「そうか。講習会をする際には俺もギルドマスターの立ち会いって名目で参加させてもらうよ」
職権濫用を堂々と宣言するヴォイスさんの言葉に、もう一回吹き出した俺だったよ。




