スライムの成長?
「こ、これは……今すぐにでもスライムをテイムしたテイマーを雇うべきだ。これは素晴らしい! 素晴らしいぞ!」
拳を握って絶叫するヴォイスさんの隣で、揃って目を見開いたままで完全に固まっているアレクさん達。
とりあえず、瞬きはしてくれ。見ていてちょっと怖いぞ。
でもまあ、全く何も知らない状態で、目の前でアレをされたら、そりゃあこうなるのは当然だよな。
「いや、ちょっと待てよ。この際だからテイマーを雇って、新たにスライムをテイムしてから譲ってもらうのもいいかもしれないな」
我に返ったヴォイスさんが、そう呟きながら考え込む。
「いいと思いますよ。ちなみにバイゼンでは、新人テイマーを雇ってスライムをテイムしてもらって、従魔も丸ごと雇っていましたね。特に俺がいたのは冬だったので、バイゼンでは主に雪かきで活躍してくれていましたよ。ここなら、漁の手伝いや、今のように捌いたり下拵えをしたりすることですかね。まあ、土地によって求められる仕事が変わるのは当然ですね」
笑った俺の言葉に、ヴォイスさんだけでなくアレクさん達も納得したように頷く。
「そうか。まだ上位の依頼を受けられない新米テイマーを、スライムごと雇っちまうのはいい考えだな。それなら定住してくれる確率も高くなるし、安定した仕事と収入があるのなら、喜んで雇われるテイマーは案外多いかもしれないな」
うんうんと頷くアレクさんの横では、ダイさんとナフさんが二人揃ってどうしたらテイマーになれるのかと呟きながら真顔で考え始めていたよ。
「ケンさん、ちょっと気になったんだが一つ質問してもいいか?」
こちらも真顔になったヴォイスさんの言葉に、驚いた俺が慌ててヴォイスさんに向き直る。
「例えばさっきの鎧海老を処理したスライム達なんだが、ケンさんが連れているスライム達が特別優秀だから出来たとか、そういう事はないよな?」
「ええと、つまり俺の連れているスライムが特別な特殊能力持ちなのではないかと、そういう意味ですね?」
真顔で頷くヴォイスさんを見て、思わず側にいたサクラを見る。
まあ、確かに俺の連れているスライム達は特別優秀なのは否定しないけど……今やったような事なら、教えれば他の子でも出来るよな?
頭の中でそう考えた俺は、サクラをそっと捕まえて手に乗せて顔の前まで持ってくる。
「なあ、今やった鎧海老の解体とかって、他のスライム達でも教えてやれば出来るようになるよな?」
俺の質問に、サクラが何故かビヨンと伸び上がって他の仲間のスライム達を見た。
肉球が反対向いたから、そうなんだろう。多分。
「そうだね。小さな子達にはいきなりこれはちょっと難しいかもしれないけど、大きな子達なら大丈夫だと思うよ。もちろん、詳しく教えてもらう必要はあるけどね」
「へ? 小さな子達とか大きな子達って、何?」
驚いた俺の質問に、またサクラがビヨンと伸びる。
「だから、小さな子達や大きな子達だよ?」
あ、これは俺の質問の意味が通じていないな。そう感じた俺は、他のスライム達を見る。
「俺の従魔のスライム達は、全員大きな子達なわけだな?」
「そうだよ〜〜!」
「じゃあ、小さな子達ってのは、俺の仲間の人間なら誰が連れている?」
「ご主人のお仲間の人も、連れているのは大きい子達だよ」
当然のようにそう言われて、少し考えた俺は質問を変えてみた。
「じゃあ、小さなスライムは誰が連れているんだ?」
「えっとね……」
困ったようにまた伸びたサクラがそう言い、少しプルプルしてから答えた。
「えっとね……新人テイマーさんが初めてテイムするようなスライムは、小さな子が多い……かな?」
「つまり、小さいってのは体の大きさじゃあなくて、成長の度合いって事か」
ここまで聞いて、ようやく大きい小さいの言葉の意味を理解した。
確かに、サクラやアクアだって、テイムしたばかりの頃は話し方ももっと子供っぽかったし出来る事も少なかった。
一緒に過ごすうちに俺がする事を見て、料理の下拵えを手伝ってくれるようになったり、いろいろな作業を覚えてくれるようになったんだからな。
「そうだよ〜〜!」
俺の言葉に、得意げにサクラがそう答える。
「じゃあ、新人テイマーさんがテイムしたスライムに、この作業を覚えてもらおうとしたらどれくらいかかるかな?」
俺が、この世界で初めてアクアやサクラをテイムしてからようやく一年だ。
でも、今は出てきていないけれども雪スライム達なんかはテイムしてまだ半年にもならない。
成長度合いがテイムしてからの年月に関係するのなら、大人になるまで半年以内って事になるよな?
「ええと、三十回くらい寝て起きるくらい……かなあ」
若干自信なさげなその言葉に、思わずヴォイスさんを見てからもう一度手の上のサクラを見る。
「ええとつまり、テイムしてからひと月くらいあれば、小さなスライムも大きなスライムになれて、覚えるのも早くなる?」
「そうだね。その子によって若干覚えの良い子とあんまりな子がいたりするけど、それくらいあれば大丈夫だと思うよ?」
「そうか。ありがとうな」
笑ってサクラをおにぎりにしてから解放した俺は、改めてヴォイスさんに向き直った。
「ええと、俺のスライムの説明によると、たとえば新人テイマーに初めてテイムされたスライムは、言ってみれば子供のスライムみたいなもので、最初のうちはまだまだ不器用みたいですね。一応、個体差は若干あるみたいですが、ひと月程度時間があれば、それなりに成長して色々出来るようになるみたいですね」
「成る程。テイムしたからと言って、いきなりそこまで賢くなるわけではないのか。主人と共に成長する。うん、素晴らしいではないか」
うんうんと頷いたヴォイスさんは、俺を見てこれ以上ない笑顔になった。
「ありがとうケンさん。ちょっと本気でテイマー募集について他のギルドマスター達と相談する事にするよ。なんなら、最初は訓練期間としてふた月程度の期間を設けて、その間に色んな事を教えてやってもいいかもしれないな」
「ああ、それは良いかもしれませんね。最初はゴミ処理や重い荷物運び辺りからはじめて、順番に細かい処理やなんかを教えていけば良いと思いますよ。なんなら、パロットさんやユーニンさん、クラウスさんにも話を聞いてみてください」
ここへ来てから知り合った冒険者の人達の名前をあげておく。
「ほう、まだ何かあるんだな。了解だ。後ほど確認しておこう」
俺の言いたい事をすぐに理解したヴォイスさんの言葉に、俺も笑ってサムズアップをしておいたよ。
冗談抜きで、石を投げればテイマーに当たる。なんて時代が来るかもしれないな。
そんな事を思わず考えて、ちょっと嬉しくなった俺だったよ。




