鎧海老の解体開始だ!
「では、まずは鎧海老について説明させていただきますね」
にっこりと笑ったアレクさんが、手にしていた収納袋に手を突っ込んだ。
「よいしょっと!」
勢いを付けて取り出した超巨大な鎧海老を作業台の上に放り投げるようにして取り出す。
「うええ、何ですかそのデカさは!」
市場で俺が買った鎧海老が子供かと思えるくらいに、目の前のそれはとにかくデカい。
「言ったでしょう? 厳選した鎧海老を持っていくと。もちろん一匹ではありませんからね」
にっこりと笑ったアレクさんの言葉に、絶句する俺。
まあ、市場での値段は思ったより安かったけど、どう考えてもこの鎧海老は安くはないだろう。
「あの、今回アレクさんが持ってきてくれた鎧海老。俺が全部丸ごと買いますので値段を教えてください! 市場価格でお支払いしますので!」
「いやいや、これは俺の分だから遠慮しないでくれ」
「駄目ですって! ってか丸ごと買い取った方が遠慮なく捌く練習も出来るし、食材としても使えますので!」
拳を握って断言する俺を見て、アレクさんが困ったようにヴォイスさんを見る。
「ケンさん。本当に良いのかい?」
「もちろんです!」
もう一回拳を握って断言する俺を見て、ヴォイスさんは苦笑いしてアレクさんの背中を叩いた。
「だから言っただろうが。じゃあ、明細はもらっているので後でギルドで支払い手続きを頼むよ。そのまま丸ごとアレクの口座に振り込むからな」
「それなら、もう一度明細を出すから、こいつらの口座にも振り込んでやってくれ。今回持ってきた分は、俺達三人の取り分なんだよ」
「三人の取り分、ですか?」
不思議に思って聞いてみると、漁に出た人には獲物の一部を受け取る権利があるらしく、今回持って来た分は、どうやらアレクさんとダイさんとナフさんの分らしい。
「特に今回は大漁だったからな。選び放題だったぞ」
にんまりと笑ったアレクさんの言葉に、俺も笑ってサムズアップをしたのだった。
って事で、ここからは遠慮なく俺も参加させてもらおうと思うのだが、残念ながらそもそも何をどうしたらいいのか全くわからないので、ここは素直に教えを請うよ。
「ええと……これ、何をどうすればいいのでしょうか?」
目の前にどどんと置かれた巨大鎧海老は、改めて見ると頭部の巨大な殻には見ただけでも痛そうな大きなトゲトゲが無数にあるし、伊勢海老と違って胴体部分の殻にも頭部に負けないくらいに大きなトゲトゲが無数にある。特に、頭部のヒゲの後ろ側に突き出している棘は、巨大化したサーベルタイガーのファングの牙ぐらいありそうだ。当然、巨大なハサミも様子は同じ。カニのハサミよりも棘が多く、もうどこを触っても棘が刺さりそうだ。
しかも、その棘がどれもめっちゃ鋭利。あれ、冗談抜きで触っただけで突き刺さる事間違い無しだよ。
呆然と鎧海老を見ていると、苦笑いしたアレクさんが台車に載せた木箱の中から何か取り出して俺に渡してくれた。
「あれ、これって……」
受け取ったそれを見て思わずそう呟く。
渡されたのは、見覚えのある鎖帷子状の金属製の手袋だった。
「鎧海老の解体作業での最大の難敵が、見ての通りこの無数にある殻の棘なんだよ。なので、この金属手袋が必須ってわけだ。ちなみにこれ、鉄とミスリルの合金だから数ある道具の中でもいちばんの高額なんだよ。大事に使ってくれよな。手の大きさが何種類かあるから、自分の大きさに合わせて選んでくれるか」
「あはは、了解です。じゃあ選ばせてもらいますね」
乾いた笑いをこぼした俺は、受け取った手袋が大きすぎたので見せてもらい、一番小さな手袋を貸してもらった。しかもこの手袋は袖の部分が長くて肘近くまである。手の甲側に見覚えのある金属製のファスナーがあるのを見て、これが高額なのに納得した俺だったよ。
手袋をしてファスナーを締め、金具を留める。全員が手袋をしたのを確認してからアレクさんが巨大な鎧海老のハサミを軽く叩いた。
そして、ダイさんとナフさんが何やら巨大なペンチのようなものを複数取り出してきた。他に、超巨大なニッパーみたいなのやハサミもあるよ。
「まず最初に、この鋏を根本部分から切り落とす。それが終われば次に頭部の殻を剥ぐんだが、これが一番力のいる部分だな。次に腹の側にあるこの足を全部もいで腹側の柔らかい殼に切り目を入れる。それが終われば、胴体部分の殻を剥ぐ。ここまでで最初の大仕事は終わりだ。あとは順番に身を剥がしていけばいい」
「じゃあ順番にやっていこう。最初の一匹は俺達がするから、ケンさんは見学していてくれるか」
笑ったアレクさんの言葉にコクコクと頷いた俺は、ススっと後ろに下がって全体が見える位置に立った。
「じゃあ始めるか」
巨大なニッパーと先が内側に少し曲がったペンチをダイさんとナフさんが手にする。
そしてアレクさんが巨大なハサミの先を持ってググッと引っ張る。
ハサミが伸びたところで関節部分をナフさんが巨大なペンチでがっしりと掴み、ダイさんが手にしたニッパーで一気に根本当たりを挟んで切り落とした。
ブチっと豪快な音を立ててハサミが落ちる。
「お見事〜〜〜!」
思わず拍手をした俺だったけど、冷静に考えてこれを俺がやるのかと思って、割と本気で気が遠くなったのだった。
俺の力で、あの小さいのでも冗談抜きで解体出来るかなあ……。




