朝市と屋台
「なあなあ、あれ何!」
悲鳴のような俺の叫びに、前を歩いていたハスフェル達が驚いたように揃って振り返る。
「おお、鎧海老じゃないか。どうやら無事に入荷したみたいだな」
「ううん、何度見ても見事だ」
俺が無言で指さしている屋台の魚屋を見て笑ったハスフェルとギイの言葉に、オンハルトの爺さんも笑いながら頷いている。
ええ、あれが特別デカいってわけじゃあなくて、鎧海老はあれがデフォサイズなんだ……。
「いらっしゃい。今朝揚がったばかりの鎧海老だよ。捌いたのをご希望の方は、午後から来てくれると切り身での販売をしているからね」
俺達が揃って鎧海老をガン見していたのに気づいたらしいエプロンをした女性が、笑顔でそう言って鎧海老を示してくれる。
いや待って。あのデカい車海老が小さく見えるって、色々おかしいだろう!
脳内で力一杯突っ込みつつ、店頭に並ぶ鎧海老を改めて見る。
どう見ても、そもそもの大きさがおかしい。
ニニが丸まって寝ているのと変わらないくらいの大きさがあり、途中で切られているが、髭の根本辺りの太さは俺の太ももより間違いなく太い。
全体の形としては伊勢海老が一番近いが、伊勢海老と大きく違うのがハサミの存在だ。
そう、体の比率からいけばロブスターよりも大きくて分厚いそのハサミは、見ているだけでも怖い。冗談抜きで俺の胴体でも真っ二つにされそうだよ。
もちろん今はその巨大なハサミは、太くて平たいロープでがっしりと縛られている。ちなみに、体もほぼ二つ折りになった状態でロープでぐるぐる巻きにされている。
頭部分の殻は、伊勢海老みたいにトゲトゲでゴツゴツしているし、胴体部分の殻もこれまた棘だらけでゴツゴツ。
ちなみに巨大なハサミはロブスターというよりもカニのハサミをもっと平たくして巨大化したみたいな感じで、こちらも棘だらけだ。
「ええと、これって丸ごと買う事も出来ますか?」
アレクさんが持って来てくれるとは聞いていたけど、これは間違いなく美味しいだろうから今後の為にも是非とも確保しておきたい。
「ええ、丸ごとかい? 構わないけど、これを個人で捌くのはかなり大変だよ。興味本位で買おうとしているのならやめたほうがいいよ。悪い事は言わないから、午後からおいで」
苦笑いしながらそう言われて、改めて鎧海老を見る。
「一応、専門家に裁き方を教えてもらうので、それは大丈夫だと思います」
「おや、伝手があるんだね。それじゃあもちろん喜んで販売させてもらうよ。一匹でいいかい?」
笑った女将さんの言葉に、俺も笑顔で頷く。
「そうですね。とりあえず一匹お願いします」
思ったよりも安かった代金を払い、受け取った鎧海老をサクッと収納した俺は、待っていてくれたハスフェル達にお礼を言ってから進み、とりあえずハスフェルおすすめの屋台でいわゆるフィッシュ&チップスを購入した。
「へえ、スパイスが効いていてめっちゃ美味しい。よし、これも後でまとめ買いしておこう」
白身魚のフライを一口食べてあまりの美味しさに驚いた俺は、思わずそう呟いてこれを買った屋台を見た。
中はふわふわ、外はカリカリ。そして付け合わせのフライドポテトは岩塩のみなんだけど、シンプルなそれがまた最高に美味しい。
「ちなみに、あっちの屋台は雑魚海老を軽く潰して板状にしたのを切って揚げているんだが、これも美味いぞ」
「何それ! 雑魚海老のミンチのフライだって? そんなの間違いなく美味しいやつじゃん!」
笑ったハスフェルの説明に目を輝かせた俺は、とりあえず食べかけのフィッシュ&チップスを急いで収納してから、教えてもらった屋台に突撃して行ったのだった。
「おお、このちょっとエビの食感が残っているのもまた良い。へえ、これはやってみてもいいかも」
ここでの付け合わせは、20センチ近くある細長いフライドポテトで、食べてみて分かったんだけど、どうやら一度潰してから細く搾り出したのを揚げてあるみたいだ。
「へえ、こういうやり方もあるんだ。これも真似してみてもいいかも。また違う食感だ」
細長いフライドポテトをもぐもぐと齧りながら、もう真似する気満々になっている俺だったよ。




