ジェムの買い取りと市場の話
「ここは初めてなんだろう? じゃあ、まずは冒険者ギルドだな。案内するよ」
笑ったアレクさんの言葉にパロットさんが、それは今から俺達が案内するところだったんだよ! と叫んで、顔を見合わせて大笑いしていた。
結局、そのままアレクさんやパロットさん達と一緒にマックスの手綱を引いてのんびりと歩き、冒険者ギルドに到着した。
多分、ここに来てから見た中で、一番小さなギルドの建物だったと思う。
一応、俺の元いた世界の木造二階建てくらいの高さがあるがっしりとした石造りの建物ではあるのだけれど、外から見る限り一階建てっぽい。正面にある大きな木製の扉は両開きで、今は開けたままで留められている。
まあこの時間だからってのはあるのかもしれないけど、中は人が誰もいなくてがらんとしている。
「噂によると、ケンさんは大量のジェムや素材を持っているそうじゃあないか。この辺りは、魚を保存する為の保冷用の装置や製氷機にジェムを大量に使うからな。一時期に比べればかなり出回るようにはなったが、まだまだジェムは不足しがちなんだ。よければ少しでも売ってくれると有り難い。ここの冒険者達は漁師を兼業している奴が多いからな。他の地域と違って、ジェムを専門に集める俺達みたいな冒険者自体の数が少ないんだよ」
苦笑いするパロットさんの言葉に、アレクさんも苦笑いしつつ頷いている。
「そうか。アレクさんも鎧海老の漁師を兼業しているって言っていましたもんね。もちろん、腐るほど持っていますから、喜んで提供しますよ」
「そりゃあ凄い。是非ともたっぷりお願いするよ」
笑ったアレクさん達が拍手しながらそう言い、ちょとドヤ顔になった俺だったよ。
「はじめまして。お噂は色々と聞いていますよ。ギルドマスターのヴォイスと申します。どうぞよろしくお願いします」
カウンター奥から出てきたハスフェル達並に超マッチョで筋骨隆々な黒髪の男性が、笑顔でそう言って右手を差し出している。
「ケンです。よろしくお願いします」
名乗って握り返したその手は、硬いタコだらけの分厚い手をしていた。
「ええと、ジェムや素材の買い取りをお願いしてもよろしいですか?」
「もちろん、こちらからお願いしようと思っていました。じゃあ。奥へどうぞ」
満面の笑みでそう言われてしまい、もう笑うしかない。
この建物は、外から見た通り一階建てなんだけど、入った正面は見慣れた銀行のカウンターみたいな各種受付の窓口が並んでいて、カウンターの右端には階段があって、ロフトみたいになった二階部分が建物の奥側に半分だけ作られていた。
でも、俺たちが案内されたのはカウンター奥にあった一階の別室で、おそらく会議室と思われる机と椅子が置いてあるだけのだだっ広い部屋だった。
「なあ、ここでも一割引ってしてやった方が良さそうだな」
一応、声をひそめてハスフェルに相談してみる。
「もちろん。お前さんが構わないなら是非売ってやってくれ。海側の地域は、さっきパロットが言った通り漁師を兼業にしている冒険者が多くて、ジェムを集めるのに苦労しているらしいからな。俺達も、以前は優先的にこの辺りにはジェムを渡していたんだ」
苦笑いするその言葉に、俺はもう色々出す気満々になっていたよ。
まあ、予算的なものはあるだろうけど、一応しばらく滞在する予定だから、ギルドの皆様には頑張って資金調達していただこう。
「じゃあ、まずはとりあえずこの辺りだな」
そう呟き、まずは一割引出来る比較的低価格帯のジェムの見本を並べていく。
それが終わると、一応恐竜のジェムやレアな昆虫のジェムと素材も一通り取り出して並べた。
「ええと、こっちの低価格帯の小動物や昆虫系のジェムは、査定価格の一割引でお渡し出来ます」
「い、一割引だと!」
俺の言葉に被せるようにして、身を乗り出したヴォイスさんが手前にあったホーンラビットのジェムを引っ掴む。
「ええ、有り難い事に腕の立つ仲間達のおかげで、俺が持っているジェムと素材は冗談抜きで腐りそうなくらいにあるんですよね。まだまだジェムは不足しているみたいですから、どうぞ遠慮なく欲しい数を言ってください。あ、買い取ってもらった分のお金は、現金ではなく口座の方にお願いします」
ギルドカードを見せながらそう言うと、真顔でこっちを見たヴォイスさんが俺に向かって深々と頭を下げた。
「お心遣いに感謝する。では、他のギルドとも相談したいので、ちょっとお時間をもらっても構わないだろうか」
ある意味予想通りの言葉に、俺は笑顔で頷いた。
「もちろん構いませんよ。じゃあ、俺達は宿泊所をお借りしてしばらく滞在していますので、準備が出来たらいつでも言ってください。これは見本として置いておきますので」
並んだジェムを示しながらそう言うと、台帳を抱えたスタッフさんが走ってきて一つずつ確認しては記入していき、すぐに預かり票を発行してくれた。
まあ、そうだよな。この辺りは、万一何かあればギルドの信用問題になりかねないからね。
預かり票を受け取りながら苦笑いした俺は、一旦カウンターに戻り、いつものようにギルドの宿泊所を申し込んだ。
「ええと、色々買い物もしたいし、とりあえず十日くらいかな?」
申し込み用紙に記入しながら、ハスフェル達を振り返る。
「そうだな。まあ、せっかくだから頑張って色々仕入れてくれ」
「新作料理を楽しみにしているよ」
「海老料理も楽しみじゃな」
ハスフェルとギイの横では、オンハルトの爺さんもめっちゃ期待に満ち満ちた目でそう言っているのを見て、もう笑いが止まらない俺だったよ。
よし、まずは市場へ行って海老を探そう。もちろん、デカいのがあればそれも買うし、俺的には普通サイズのエビフライも作りたいから、小さめのサイズのも欲しいんだよな。
「もう午後の遅い時間だし、さすがに市場は開いていないかな?」
宿泊所の鍵を受け取りつつそう呟くと、スタッフさん達と話をしていたヴォイスさんが笑顔でこっちを振り返った。
「ここでは、他の街と違って市場は一日に二度開催されているんですよ。他の街と同じ様に、野菜や果物、肉類や乳製品なんかを主に扱う朝市があって、早朝から漁に出た船が獲ってきた魚介類を売る市場が、午後からもう一度あるんだよ。もちろん、朝市でも魚介類は色々と出ているぞ」
「そうなんですね。もうそれを楽しみにここへ来たんです。じゃあ、従魔達を宿泊所に預けたら、その午後からの市場ってのに行ってみます!」
目を輝かせる俺の言葉に、パロットさん達やアレクさん達が、良ければお勧めの店を紹介すると言ってくれて、俺はもう満面の笑みでお礼を言いまくったのだった。
よし、じゃあ良いのがあれば今すぐにでもガッツリ仕入れさせていただこうじゃあないか!




